白間輝正の誇り~ミス研のために~
交流戦決勝戦を向かえます。
白間輝正視点での話になります。
お楽しみいただければ幸いです。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「こっちに隠れて。あなたまで失格になってしまうわ」
腕を力任せに引っ張られ、誰もいない空き部屋へ連れ込まれた。
朱芭さんは僕から手を離して、音を立てないように両手で慎重に扉を閉める。
「そこの2人!! 何をやっているんだ!!」
扉が閉まった瞬間、廊下から反響するようにとてつもなく大きな声が部屋まで届いてくる。
(父さん!? なんでこんなに大きな声を!?)
父親の怒号が自分たちに向けられたかと思って、意図せず体がビクついてしまった。
「なんなのよあんた!! 関係ないでしょ!!」
廊下から聖奈さんの怒るような声が聞こえてきたとき、朱芭さんが申し訳なさそうに頭を下げた。
「ごめんなさい。私たちの顧問が部員をたきつけて、聖奈さんが試合に出られないようにするため、こんなことになってしまったの」
聖奈さんが連れていかれたのか、徐々に外から聞こえる声が小さくなる。
「そんな卑怯なことを……」
交流戦で優勝するために父親がこんなことを指示していることに、怒りを通り越して呆れてしまった。
「連絡があったけど、あなたが剣を忘れた草根高校の部員でしょ? 今すぐ待機所へ戻って、まだ出ていない1年生の主力選手を温存させれば決勝でも勝ち目があるわ」
「なんでそんなことまで……」
彼女は待機所に誰が居るのか把握しており、僕が剣を忘れたことまで知っていた。
僕が剣を忘れたのはほんの数分前なので、その情報を広めることができるのは限られた人にしかできない。
(もしかして、あのとき時間を教えてくれたあの人が?)
大会を運営している人たちが意図的に皇へ情報を流していることに不審感を覚える。
「今回の大会運営がうちの当番なの。組み合わせも有利にしているし、禁止されている試合の録画もしている……やりたい放題よ」
「嘘……だろ……」
「残念だけど全部本当よ。私にはどうすることもできなかったの」
朱芭さんが心から悲しそうに下唇を噛んだあと、扉を開けて外の様子をうかがってくれた。
「大丈夫。もう誰もいないわ。さあ、早く戻ってこのことを知らせてあげて!」
扉を開けてくれている朱芭さんが耳のイヤホンを気にしながら僕の背中を押す。
待機所へ戻る前に周囲を警戒してくれている朱芭さんへ声をかける。
「助けてくれてありがとう! じゃあ」
「……聖奈のことは私のせいだと思うから……本当にごめんなさい」
潤んだ瞳の彼女から発せられたか細い言葉が聞こえてしまい、さらに話を聞きたい衝動に駆られる。
しかし、僕が待機所から出て3分以上経っており、これ以上ここに居るわけにはいかない。
(今は時間がない……みんなの所へ!!)
1秒でも早く着くために全力で廊下を駆け出す。
心臓が悲鳴を上げるが、休むのはあとでもできる。
(みんなへこのことを伝えられるのは僕だけだ!! あと少しだけ辛抱してくれ!!!!)
張り裂けそうになる心臓が体を止めようとするが、気持ちで足を動かす。
その勢いのまま、吹き飛ばしても構わないという気持ちで待機所への扉を開け放つ。
(誰もいない!!?? 時間はまだあるのに!!??)
静まり返った待機所を眺めてしまい、力が抜けて扉へもたれかけるように膝を付いてしまう。
我慢させていた心臓が苦痛を訴え、思わず手を胸に押し付けた。
「まだ入れますけど、行きますか?」
この一言で待機所の人が意図的にみんなを早く競技場へ入れたことがわかった。
地面へ座り込んでしまった僕へ係りの人が笑顔で水晶を差し出してくる。
その笑顔が悪意のあるように見え、苦しんでいる場合ではないと、震える膝で体を支える。
「いや……いいです……失礼しました」
係りの人へくじけた顔を見せないように奥歯を噛み締めて全身を奮い立たせた。
(決勝はこの試合が終わった1時間後。終わった時じゃ遅い!!)
1年生がダメでもまだ出場していない2・3年生の準備ができる。
その時間は少しでも長い方が良い。
(聖奈さんが出られなくなったという情報を早くみんなへ届けよう!)
境界適応症で体力が減り、さらに呼吸が荒くなったまま控え室へ入った。
「白間! どうしてお前や聖奈は試合に出ていない!?」
控え室で待機をしていた部長が俺の姿を見るや否や、つめ寄って憤りをぶつけてくる。
「どうしたんだ!!?? 誰か!! 回復薬を!!」
ただ、僕が胸を押さえているのを見て、回復薬を用意してくれた。
僕が回復することよりも、先生へ聖奈さんのことを伝えたいと思い、控え室を見回すが姿がない。
「ぶ……ちょう……せん……せいは?」
部長がどうして今そんなことを聞くんだと言う風に顔をしかめた。
「先生は本部に呼び出されてここにはいない。それがどうかしたのか?」
きっと先生は本部で、聖奈さんが問題を起こして試合に出られなくなったことを知らされているのだろう。
回復薬を飲んで呼吸を整えつつ、部長の目を覗き込んだ。
「部長、聖奈さんが決勝に出場できなくなりました」
「なんだって!!??」
僕が見てきたことを簡潔にまとめて部長へ伝える。
皇立高校の顧問である父親がこの大会を我が物顔で支配し、部員へ不正を働きかけていること。
その結果、聖奈さんが皇立高校の生徒といざこざを起こしてしまったことを説明する。
俺の話が終わると控え室は静まり返り、部長が悔し涙を流していた。
「この歴史ある神聖な大会でそんなことをして……くそぉ!!」
部長の悲痛な叫びが控え室に木霊し、物音1つ聞こえてこない。
「義間、なにがあった?」
「先生、聖奈が決勝へ」
先生が立花副部長と一緒に控え室へ戻ってきた。
部長が涙ながらに先生を見上げる。
「今、その話を聞いてきた……これから決勝へ出場する選手を選定する」
そう言いながら先生が残っているメンバーの確認を始めた。
そんなさなか、そっと先生のそばから離れた副部長が目を赤く腫らしているのを見て、朱芭さんがつぶやいた最後の言葉が脳裏に浮かぶ。
(立花先輩が何かをしたから、朱芭さんが謝っていたんだ)
その何かなんて考えるまでもなく、聖奈さんを1人にするという行為だろう。
立花先輩がうつむいたままじっとしているのを見て、自分の考えに確信を持つ。
しかし、そんなことよりも僕の感情はある1点に染め上げられていた。
(もうあんなやつを父親とは思わない)
父親との決別を決意していたら、楠さんがホワイトボードに決勝へ出場するメンバーを書き出す。
その中には僕の名前も入っており、最後の10人目のメンバーを書こうとしたとき、楠さんの手が止まった。
「け、決勝はこの9名で戦ってもらいます」
「楠!? 聖奈がいなくてただでさえ不利なのに、メンバーを1人欠けた状態で出すのか!?」
部長がメンバーを発表する先生と楠さんへそんなのはあり得ないと抗議を始めた。
他の2・3年生が同調しようとしたとき、先生が楠さんと部長の間に入る。
「これは俺の決定だ。負けた時は責任を取る」
先生の一声で先輩たちは黙り込み、楠さんはほっとしたように胸を撫で下ろす。
準決勝を勝利で飾った1年生たちが戻り、先生がこの騒動を1から説明した。
僕たちはみんなから必ず勝ってくれと送り出されて決勝が行われる競技場へ向かう。
待機室で水晶に触り、結界の張ってある競技場へ飛ばされた。
競技場には皇立高校の選手が自信満々に待っており、観客席からは父親だった者がこちらを見下ろしている。
(こんな奴らに負けてたまるか)
そう意気込んで剣を構えたものの、一緒に出場した先輩たちは1分も粘れずに致命傷を受けて競技場の外へ弾き出されてしまう。
全員が皇流剣術の使い手で、皇立高校異界探索部を象徴しているような存在だった。
1対10となってしまい、何か活路を見出すべく自然と防戦一方になってしまう。
病気のせいで徐々に体力がなくなり、それでもあきらめずに剣を振っていたら、相手が僕と距離を取る。
「全員構えろ」
僕から距離を取った相手の選手たちは、皇流剣術の技を繰り出すべく腰を落として剣を後ろへ引いた。
(閃光一閃……剣術にもかかわらず、遠くにいる敵へ高速の一閃を飛ばす技)
入部試験の時に僕が水鏡さんを倒した一撃。
攻撃を受けた者は白い閃光と共に貫かれる。
(10本も相殺できない……僕ができるのは回避のみ……それができる体力があれば……)
幼い頃からこの一閃を磨き続け、相手の動作でどこにくるのかは予測できる。
しかし、僕の体力がそれを可能とせず、エネルギーの無くなった体は足から崩れ落ちた。
視界の端に憎たらしい元父親が勝利を確信して微笑んでいた。
(こんなのって!! こんなのってないだろう!! 動いてくれよ!! あいつらだけは勝たせちゃダメなんだよ!!!!)
10本の閃光が襲いかかる寸前、激しい雷鳴の音と共に黄色い光が辺り一面に広がった。
競技場へ膝をつく僕の前に降り立った、
「ナイスファイト。あとは任せて」
「澄人くん……」
突然現れた澄人くんは金色の光をまとい、僕を守るように黒い剣を構えた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ご覧いただきありがとうございました。
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次の投稿は6月27日に行う予定です。
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