白間輝正の戦い~自分の役割~

交流戦決勝トーナメントへ進出します。

白間輝正視点での話になります。

お楽しみいただければ幸いです。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 僕が最後に控え室に戻ると、部員全員がすでに集合して椅子に座っていた。


 ホワイトボードの前に立っている平義先生と目が合う。


「全員揃ったな。ミーティングを始めよう」


 先生は俺が座るのを待ってミーティングを始めた。


 明日の試合前にウォーミングアップを行なうために割り当てられた場所や日程などを連絡される。


 試合に出るグループについては、今日の夜に先生や部長、楠さんたちが相談して決めるようだ。


 一通りの話を終え、ふーっと息を吐き出した平義先生は控え室に集まった僕たちを見回す。


「最後に澄人からの伝言だ」


 その一言が聞こえた瞬間、先生を見ていた全員の顔が緊張感を増し、寝かけていた聖奈さんも顔を上げた。


「主に3年生へ向けた言葉だが……今の時点で来るスカウトは全て無視してほしいとのことだ」

「どうしてですか!? 私たちに選択権はないということですか!?」


 立花副部長がとっさに立ち上がり、切羽詰まったように声を出していた。


「いや、そうではない。澄人は3年生が最後に出る交流戦に向けてこれからさらに強くなってもらうつもりらしい。スカウトはそれからでも遅くないし、今回の結果を受けて条件が良くなるから待ってほしいようだ」


「それでも私は!!」

「立花、その話はあとだ」


 平義先生はぴしゃりと立花副部長へ黙るように言い放つ。

 手をぎゅっと握り締めた立花副部長は数秒経ってからゆっくりとうなずいた。


「……はい」


 普段あまり意見を言わない立花副部長が声を張り上げたことに驚きを隠せない。


 僕以外のみんなも同じことを考えているのか、立花副部長から目が離せなくなっていた。


 その中でも特に3年生たちは心配そうに見ている。


「質問はまだあるか? くれぐれも他校と問題を起こすなよ? ホテルへ戻るぞ。義間」

「……ぁっ……起立!!」


 先生が合図をすると立花副部長を悲しそうに見ていた部長が焦ったように号令をかけて、ミーティングが終わらせた。


 ホテルへ戻った僕たちは晩御飯を食べて、明日に備えて早めに自分の部屋へ帰る。


 同室の草地くんが剣の手入れを始めたので、邪魔にならないように本を取り出した。


「ねえ、白間くん。立花朱芭あげはって子のこと知ってる?」


 剣を柄にしまい、大事そうに机の上へ置いた草地くんが神妙な顔で僕の方を向いていた。


 僕も本を置いて、なぜそんなことをと首をかしげながら返事をする。


「僕らの世代で朱芭さんのことを知らない人はいないと思うけど……それがどうしたの?」


 立花朱芭。

 去年に行われた15歳以下のハンターが戦う大会で日本2位になった人物。


 今回の交流戦と同じようにハンターとしての能力を比べる大会で、武器等の制限がなにもない。


 彼女も草根市出身のため、同じ大会で1位だった草凪聖奈さんと一緒に草根高校に入学しているものだと思っていた。


 僕もその大会を見学していたため、彼女のことをおぼろげに覚えている。


(そういえば……誰かに似ているな……あれ?)


 1年ほど前に見た朱芭さんの顔を必死に思い出していたら、草地くんが扉を気にしながら口を開く。


「朱芭さんって副部長の妹さんなんだよ。今回、副部長のところに皇立高校からスカウトが来ていたらしいんだ」


「それであんな反応を? それにしては反応が過剰だった気がするけど……ん? 皇ギルドじゃなくて、高校から? こんな時期に?」


 素朴な疑問を口にすると、草地くんが椅子を近づけて僕の傍に寄ってきた。


「朱芭さんと両親は皇のところへ移ったんだけど、副部長は奨学生だから違約金を払わないと転校できなかったんだ。今回、そのお金を肩代わりするから皇高校に来てくれってスカウトの人から言われていたらしいよ」


「それで副部長はあんな反応を……」

「今はおばあちゃんと2人で暮らしているみたい。できれば家族と一緒に居たいよね……あ、もう寝ようか」


 草地くんは家族を大切にした方が良いと言いながら部屋の電気を消す。


 僕も布団に入り、明日のために寝ようと努力をした。


(3年生だと交流戦があと一回しか残されていないのに、何で副部長のところに【高校】からスカウトがくるんだ? それに、突出して何かできるわけでもないし……いったい何が目的なんだ?)


 しかし、副部長の一件が頭から離れず、一向に寝られる気配がない。

 考えれば考えるほど謎が深まってしまい、僕が就寝できたのは日が変わったころだった。


 決勝トーナメント当日。

 初戦と準々決勝は先輩たちがメインで戦い、1年生と聖奈さんは温存された。


 準決勝では1年生をメインにしたパーティが出場し、決勝で聖奈さんと今日戦っていない上級生数名が出るという。


 これが部長たちの考えた優勝するための布陣だ。


 ここまで順調に勝ち進んでおり、次は僕たちが主力となる準決勝が行われる。

 競技場に上がる前の集合場所で防具の点検をしていたら、剣を控え室へ忘れたことに気が付いた。


「あっ!」

「どうしたの白間くん?」


 一緒に出場する真友さんが不安そうな様子でこちらを見る。


「剣を忘れたので、取りに戻ります。あと何分ですか?」

「あと5分で入場締め切りです」


 やり取りを聞いていた運営の方がすぐに時間を教えてくれた。


「ちょっと取ってきます」


 急いで控え室へ戻ろうとしたとき、時間を教えてくれた人がトランシーバーをおもむろに口元へ持っていく。


「今、選手が1人戻りました」


 そんなことまで連絡するのかと思いながら横を通り過ぎ、急いで控え室へ向かう。


「あんたにそんなことを言う資格ある!? 謝りなさい!!」


 言い争いのような声が後ろから届き、聞いたことがある声だったので思わず足が止まってしまった。


(聖奈さん!? ヤバい!!!!)


 聖奈さんが怒鳴り、感情が爆発する直前のような印象を受けたため、急いで姿を探す。


 試合前に他校と問題行動があった場合、試合に出場できなくなる可能性があるので、その前に止めなくてはいけない。


(どこだ!? どこにいるんだ!?)


 声の聞こえてきた方向へ小走りに行くと、特徴的なツインテールが他校の生徒へ詰め寄っていた。


(なんで先輩たちは聖奈さんを1人に!?)


 スカウト対策やこういうことを避けるため、聖奈さんを1人で行動させないようにしているはずだった。


 それなのに今、聖奈さんは僕が見覚えのある他校の男子生徒の胸ぐらをつかみかかってしまった。


「もう言える!? お兄ちゃんがなんだって!!??」


 胸ぐらをつかまれている人は、聖奈さんの禁忌ともいえる澄人くんについて触れてしまったようだ。


 周囲には人がいてこれ以上騒ぎが大きくならないように聖奈さんを止めなくてはならない。


「待って」


 聖奈さんを止めるために駆け寄ろうとした僕の腕を誰かが両手で握って、近づくことを阻止しようとしてきた。


 振り払うために腕を引っ張ろうとしたとき、僕を止めた人の顔が目に飛び込んでくる。


(えっ!? どうして彼女が!?)


 全国大会で見た時と変わらず長い髪の毛を後ろでまとめており、きりっとした目尻が特徴で間違えようがない。


「朱芭……さん?」


 なぜか俺の腕を両手で思いっきり握りしめてきていたのは、立花朱芭さんだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございました。

これからもよろしくお願いします。


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次の投稿は6月24日に行う予定です。

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