他校交流戦⑩~A級境界突入~
(まさかっ!?)
恐る恐る画面の△を押してもなにも反応がないが、▽を押すと突入可能人数が減っていく。
どこまで下がるのか押していると、1で止まってこれ以上減らない。
(最大20で最少1……入れる人数を変えられるのか……)
突入可能人数を変更していたら夏さんが俺の傍へそっと歩み寄ってくる。
「澄人さま。準備が終わりました。これから突入するそうです」
「わかりました」
後ろには新しく出現したレッドゲートを攻略するために多数のハンターが集合していた。
「俺たちが先に突入する!」
装備をガチガチに固めたタンク役と思われるハンターたちが俺の前へ出て、レッドラインへ突入しようとしている。
集まってくれた人たちには大変申し訳ないが、この境界は俺1人で攻略を行なわせていただく。
「あっ!!」
突入可能人数を【1】に変更してから、こけたふりをしてレッドラインに向かってつんのめる。
「澄人っ!!!!!!!!」
「澄人さまっ!!!!!!!!」
お姉ちゃんたちの悲鳴にも似た叫び声が届き、俺は赤い光に包まれた。
こちらに向かって伸ばされた2本の手を見送ったと同時にミッションを告げる画面が現れる。
【境界情報開示】
注意:この境界は攻略するまで出られません
(途中で出られない!? 普通に攻略隊が入っても危険な境界じゃないか!!)
レッドラインの攻略は戦えなくなったハンターが境界から脱出して外で待機している人と入れ替わり、常に全員が万全の状態で戦うという方法を取っている。
その戦法がこの境界では使えないということが入ってから判明した。
(さすがA級境界。攻略難易度がB級境界とは違う……本当に訓練用なのか?)
訓練用でこんな境界なら、自然に発生したA級境界はもっと過酷な条件だと思われる。
そんな考えが頭に浮かんだ途端、新たな画面が次々と俺の前へ現れた。
【境界情報変更】
突入可能人数が【1】に確定したため、危険度が変更になります
【A】⇒【S】
【境界ミッション】
S級境界を攻略せよ
成功報酬:貢献ポイント【1,000,000】
アイテムショップ更新【訓練用境界項目】
失敗条件:草凪澄人の死亡
(S級に危険度が変わっても、入ってからはどうすることもできない。死ぬか、攻略するかだけだ)
突入した境界がS級境界になったとしても、俺がやることは変わらない。
「なんだっ!? えっ!?」
赤い光に身をゆだねていたら、暗黒というしか言い表せないまったく光の無い空間へ放り出された。
地面に足が着いたような感覚がなく、重力も感じない。
「火の精霊よ!! ありったけの光を!!」
火の精霊を呼んで明かりを確保しようとした瞬間、火種が黒く塗りつぶされた。
『澄人! ゴメン! 力が飛散しちゃう!』
幼い声の火の精霊が悲しそうに火が使えないことを嘆く。
姿の維持も難しいのか、火の精霊はそのまま闇に飲み込まれるように消えてしまった。
(慌てるな。相手のモンスターも同じ条件のはずだ。慌てるな……慌てるな……)
自分の呼吸音が体中に響き、息をしているだけでも我を失いそうになってしまう。
何も見えず、周りからの音が聞こえない状況でパニックへ陥りそうになる感情を必死に落ち着かせる。
(まずは境界耐性。次は周囲の把握だ)
秒速で減っている体力の減少を止めて、周りにモンスターがいないか確かめるために雷を展開する。
自分の感覚に頼れない今、雷が伝えてくれる情報だけが頼りだ。
(何も……ない?)
広範囲に展開している雷が、モンスターはおろか、地形情報さえも教えてくれない。
移動しようとしても足で何も踏めず、雷の翼を羽ばたかせても動いた実感がなかった。
(何なんだこの境界……フィールド状況が【
なにかつかみどころのないものに包まれているような印象を感じつつ、この状況を打開する方法を考える。
自分の心臓の音がやけに大きく、血管に血が流れている音さえも聞こえているような気がしてくる。
(入ったことはないけど、
完全な無響室は世界一静かな場所と言われ、長時間中で過ごすのは精神がおかしくなるために困難だと言われている。
ここはそれに加えて何も見えないため、さらに正気を保つのが難しい。
周囲の環境状況がまったく手に入らないのは恐怖でしかなく、この状況そのものが危険だ。
(これを攻略しないと、この闇がレッドラインから外の世界へ浸食してしまう。広範囲に広がれば草根市が人の住めない土地になるな)
A級レッドラインを攻略できず、境界に汚染された国や地域は少なくない。
その前例があるため、レッドラインが出現したと同時に周辺のハンター全員に召集がかかる。
モンスターを倒せばよいだけと考えていたため、こんな状況になるのは想定外だ。
(こんな境界もあるなんて知らなかった……ただ……ミッションはこの境界が【攻略できる】と教えてくれている)
【境界ミッション】
S級境界を攻略せよ
何もできない状況で、ミッションが俺に攻略可能だと教えてくれていた。
(この闇を断ち切ってやればいいんだ)
俺だけに使える草薙の剣をアイテムボックスから取り出し、神器を全開放する。
剣から放たれる黄金の光は闇に塗りつぶされることはなく、刀身がはっきりと見える。
柄を握りしめ、この闇を打ち払うために草薙の剣を振り上げた。
「草薙の剣よ!! この闇を叩き切れ!! 神の一太刀!!!!」
剣を振りおろすと同時に周囲へ黄金の光が走り、闇の世界を打ち消していく。
まばゆい黄金の光が俺を中心に広がる。
「いったっ!? ここは……洞窟の中……なのか?」
闇が消え去ると俺の体は重力につかまり、ごつごつとした岩肌へ尻餅をついた。
おしりをさすりながら立ち上がると、金色の枠で表示された画面が表示された。
【シークレットミッション達成】
ユニークモンスター【とこしえの闇】を討伐しました
SS級スキル《永遠の闇》を付与します
「あの闇そのものがモンスターだったのか……神の一太刀以外の攻撃を続けていれば倒せたのか?」
俺の声が洞窟に反響するだけで、答えてくれる人はどこにもいない。
草薙の剣をアイテムボックスへ戻し、振り返って赤い渦巻へ目を向ける。
「お姉ちゃんたちが心配しているだろうから戻るか――っとそのまえに」
境界から出る前にメーヌに頼んで貴金属の回収を始める。
「メーヌ。貴金属の回収をしてくれ」
『任せて!!』
茶色の光が俺から離れて、洞窟のあらゆるところへ飛散していった。
四方八方から様々な色の金属が目の前に積み上がっていくのを見ながら、新しく手に入れた【力】を確認する。
【スキル詳細】
スキル:《永遠の闇》
使用条件:なし
消費魔力:5000
説明:相手を闇の中へ閉じ込めることができる
(自分に使用した場合)
どんなスキルを用いても他者から認知されなくなる
効果の解除は使用者に委ねられる
(闇に閉じ込めるってなんだ? それに自分に使ったら認知されなくなるって……)
闇の中というのは、おそらく先ほどまで俺が動けなかった状態のことだろう。
(すごいスキルだな……どの程度の範囲にいる相手へ有効なのか知りたい)
スキル詳細の画面を消しつつ、新たな力を試してみたくなった。
(さて、やることをやったし戻ろう!)
貴金属の回収が終わり、アイテムボックスに集まった物を収納して赤い渦巻へ足を踏み入れた。
【ミッション達成】
S級境界を攻略しました
貢献ポイントを授与します
アイテムショップを更新しました
【シークレットミッション達成】
単独でS級ミッションを攻略しました
体力・魔力を上昇させる時に消費する貢献ポイントを半分にします
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ご覧いただきありがとうございました。
これからもよろしくお願いします。
もしよろしければ、励みになりますので、フォロー&評価よろしくお願いします。
次の投稿は6月18日に行う予定です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます