他校交流戦⑦~レッドラインへ~

 この直感にしたがってレッドラインへ向かう前に、師匠へ1つだけ確認をする。


「通知書はもう今日から有効ですよね!?」

「書かれている通り今日からだが……行くのか?」

 

 師匠は耳元から何かを外すように手を動かしてから俺と向き合う。

 その目はなぜか懐かしい人を見ているような眼差しに感じた。


「澄人、お前の気持ちはよく分かった。早く行きなさい。絶対に帰ってくるんだぞ? 怒られにな」

「はい!」


 微笑みながら俺を見送ってくれる師匠へ全力で返事をしてから外へ出る。


 危険な気配が徐々に近づいてきており、今すぐにでもレッドラインが発生しそうな感じがしていた。


(あっちか。ちょっと離れているな)


 確実にレッドラインへ1人で入るため、観測センターへの申請を行ったと同時に突入したい。

 そのためには、レッドラインが生まれる前に現場へ到着している必要がある。


(神器を解放して……いや、境界内で使いたいから、今ここで解放しても無駄になる)


 方向的に草根市の北東へ俺の直感が向いているため、《ワープ》を使用することにした。


 移動先を草根市に指定し、行きたい場所を思い浮かべる。


「ワープ」


 呟いた瞬間に景色が切り替わり、草根市の郊外へ投げ出された。

 街の中心から離れ、もう少しでレッドラインが発生する場所に着きそうなので全力で走り始める。


(ここからは近い! いいぞ!!)


 何百回とワープを使ってコツをつかみ、移動できる範囲や指定できる場所が増えた。


 1度行ったことがある場所ならどこにでも移動することができるので、このワープというスキルが反則級のものであることを実感している。


 移動先が多すぎて画面一杯に表示されてしまうため、今では行きたい場所を思い浮かべている。


「ここだけど……まだなにもないな。間に合ってよかった」


 直感に従って着いた場所は、田園地帯で周りに人影が見えない。

 気配察知を行なって、誰もいないことが確認できた。


 周囲の状況に安心し、スマホを取り出して観測センターの番号を選択する。


(浮き出てきた瞬間に電話をかける)


 スマホを構えていたらお姉ちゃんから電話がかかってきてしまう。


(ごめんなさい。お姉ちゃん)


 申し訳ない思いがしつつも拒否をして、急用中とメッセージを送った。


 送信が完了すると同じタイミングで、俺の目の前に赤い光が何もない空間から生まれる。


 赤い境界線が宙を走り、レッドラインの形成が始まる。


「リベンジだ。絶対に攻略してやる」


 前回は恐怖でレッドラインから逃げることしかできなかった。

 しかし、今回は直感が出す警告を受け入れ、攻略することを決意している。


 観測センターへ電話をかけ、早く出ろと念じながらコール音を聞く。


「はい。こちら、観測センターです。用件をどうぞ」

「草凪澄人です。境界が生まれました。位置を連絡するので観測をお願いします」


 いつもの境界を見つけた時と同じように連絡を相手の女性へ行い、観測が終わるのを待つ。

 その間にレッドラインが完成し、周囲へ赤い渦巻が広がる。


「草凪さん!! すぐにその場を離れてください!! その境界がレッドラインと認定されました!! 草根市に在住しているハンターへ連絡を行います!!」


「それは不要です。止めてください」


「何を言っているんですか!? レッドラインは出動可能なビショップ級以上のハンターをすべて総員して――」


 赤い渦巻の膨張が止まったとき、電話相手の女性が叫ぶような声で俺へ通告をしてきた。


 誰かに途中で入られたら意味が無いので、師匠からもらった通告書の内容を取り出した。


「ハンター協会から単独突入の許可が出ています」

「なんなんですか!!?? そんなものあるわけないじゃないですか!!」


「それがあるんですよ。時間が惜しいので簡単に読み上げます」


 おそらくこの紙以外に存在しないであろう通知書の内容を電話越しに女性へ伝える。

 俺が読み上げている最中から観測センターが騒がしくなっているのが聞こえてきていた。


「あとはそちらで確認をしておいてください。他に誰も入れないでくださいね。それでは」

「ちょっと!!??」


 女性が必死で引きとめるような声を遮断し、これ以降の対応は通知書を発行したハンター協会に任せる。

 赤い渦が巻いている境界を眺めながら、ポツリと一言つぶやく。


「境界情報開示」


【B級境界】

 突入可能人数20名

 フィールド:山岳地帯

 消費体力:10/分

 注意:6時間以内に攻略をしなければ、モンスターがあふれ出るようになります


 境界情報を調べる機能がショップで手に入り、突入前から境界内のことがわかるようになった。


 表示された境界情報を眺め、そんなに苛酷な環境ではないと判断した。


「普通のB級境界だ。6時間も攻略に猶予をくれるのなら、なにも問題ないだろう」


 C級以下の境界でもたまにきつい条件の境界があるので、今回のB級境界は環境的には安全だ。


(これだと普通に強いモンスターがいる可能性があるけど……それはそれで美味しいからな)


 強いモンスターを倒せばそれだけ多くの貢献ポイントが手に入る。

 目を閉じてスーッと息をゆっくりと吐き、気持ちを落ち着かせる。


「よし! 行くぞ!!」


 俺は歴史に名を刻むべく、赤い渦巻の中へ突入した。


【境界ミッション】

 B級境界を攻略せよ

 成功報酬:貢献ポイント【100,000】

 失敗条件:境界からの逃亡


 境界内に降り立った俺は、空を見上げてしばらく言葉を失う。


「空が……青い……」


 これまで境界の空が青かったことは1度もなく、それで俺たちの世界とは違うところだと認識できていた。


「くっそっ! 遅れた!!」


 待機状態でまとっていた雷を鋭い何かで切り裂かれた。


 回避をするためにその場から後ろへ大きく跳躍したら、ビュンっという風を切る音が目の前を通り去った。


 俺が立っていた地面が大きくえぐられ、周囲に土ぼこりが舞い上がる。

 間をおかずに土ぼこりの中から俺へ襲い掛かってきたのは、翼のある怪物だった。


(足場が不安定だ!)


 相手は地形を気にすることなく、俺の顔よりも大きな爪を振り上げ、それを支える5メートル以上ある巨体で迫ってくる。


 再び距離を取り、相手の姿を見て、額に冷や汗が流れるのを感じた。


 鷲の頭と翼に、獅子の下半身を持つモンスター。

 前足には鋭い爪が付いており、後ろ脚が異常に太いため強靭な脚力があることがうかがえる。


 金色の翼を操り、止まることなく俺へ襲いかかってくるモンスターへ鑑定を行なう。


【グリフォン】


 相手の名前がわかり、グリフォンをどのように倒そうか雷を展開しようとしたとき、背後から別の気配を感じた。


 反撃しようとしていた体勢から緊急回避を行い、複数の気配から離れる。


「放置すれば街が消えると言われるレッドゲート内で、こんなモンスターが1体だけのはずないか」


 10体以上のグリフォンが俺を囲み、さらに後ろからも続々と翼をはばたかせながら4本の足でこちらへ駆け付けている。


(6時間以内にこいつらを殲滅しないと外へ出られるのか。時間との勝負になりそうだ)


 俺は雷の剣を展開して、集まってくるグリフォンに対して射撃のように射出した。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございました。

次の投稿は6月9日に行う予定です。

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