他校交流戦⑥~A級境界へ入れる日~
「交流戦と全部かぶせるなんて、こんな露骨に妨害してきます? 逆に驚きなんですけど」
8月中旬、俺は師匠の家で渡された通知書を見ながらつぶやいていた。
それを聞いた師匠はそうめんが入った大皿をテーブルへ置き、椅子へ座る。
「そう言ってくれるな……ハンター協会も草根高校関係者ばかりではないんだ……さあ、どうぞ」
明日から交流戦が行なわれるので、先生や他のミス研の人たちは昨日競技が行われる沖縄へ旅立った。
交流戦は試合結果のみが公表され、対戦内容はビデオカメラ等で記録されない。
そのため、会場内では誰であろうと電子機器の持ち込みが制限され、外部と連絡が取れなくなる。
みんなが宿泊しているホテルでも制限かあるのか、沖縄入りしてから聖奈からの連絡がなくなった。
孤立した俺は【レッドライン単独突入許可通知】を渡してきた師匠を一目見てから紙をしまう。
「いただきます。平気でこんなことをされるってことは、ハンター協会には草根高校に負けてほしいって勢力の方が強いんですね」
「……そうだ。お前の能力を知り、交流戦には出したくないという思惑が働いた」
そうめんをすすりつつ、師匠からハンター協会の現状について話を聞き出す。
最近は師匠と2人きりになれる時間がなく、こうして食事を一緒にするのは数ヶ月ぶりだ。
「協会に全国に30ほどあるハンターを養成している高校の卒業生が混在していれば、そうもなりますよね。それはそうと、俺たちの力はどこまで認知されているんですか?」
「入部試験にも偵察が紛れ込んでいたようだ。水鏡の能力を下げるスキルが知られていた」
確かにと思いながらそうめんを食べ続け、入部試験を振り返る。
「あれは大っぴらにやりすぎましたね。聖奈や俺が戦っていないのは幸いです」
「新しく入った3人の1年生はどうなんだ? 1人は普通科の楠なんだろう?」
「楠さんはマネージャーをしてくれています。指示も的確で、天草先輩が頼りにしているようです」
「いるようですって……お前はどうなんだ?」
食事を終え、飲み物を飲みながら師匠の質問について考える。
楠さんから直接何かを言われたことがほとんどと言っていいほどないので、返事に困ってしまった。
「うーん……俺とはあまり会話をしてくれないので、判断できません」
「そ、そうか。他の2人ともそんな感じなのか?」
「そうですね。部室で話をするのは聖奈と翔くらいです」
「…………澄人。デザートのメロンを食べるか?」
苦笑いをして固まっていた師匠が思い出したかのように立ち上がり、メロンを俺へ見せてくる。
食事までごちそうになったうえに、おいしそうなメロンまで出してくれるというので断る理由はない。
「ありがとうございます」
師匠がメロンを用意してくれる間、俺は昼食で使った食器を片付けた。
デザートが終わって一息ついていたら、師匠が俺の肩へ手を置いてきた。
「澄人、悪いことは言わん。こんな通知書を無視して、今すぐにでも沖縄へ向かった方が良い」
今晩出発予定になっている沖縄行きの航空券が目の前へ差し出され、師匠が微笑んでくる。
おそらく、発生するとは思えないレッドゲートのために交流戦に出ず、こんなところに留まる必要はないと言っているのだろう。
(レッドラインは確実に現れる。生まれなくてもこれがあるからな)
1年ほど前と同じようにこめかみの付近が
俺はアイテムボックスを開き、【A級境界解放】と書かれた項目を注視する。
それらの理由を口にはできないが、俺の目的のためにはここにいなくてはいけない。
「師匠、俺はここにいることを選びました。レッドラインへ入らずに沖縄へ行く気はありません」
「わしや平義もお前のことを止めたいと思っているが、役員という立場上止めらない……それに……」
師匠が耳の付近を気にするように手を当てながら俺へ優しい目を向けてくる。
「あの2人が澄人単独でレッドラインへ入ることを許すと思うか? なにも伝えていないんだろう?」
2人には試験に集中してもらいたいので、レッドラインのことを含め、学校で起こっていることはなにも伝えていない。
「お姉ちゃんと夏さん……2人には怒られる覚悟でいます」
「どうしてそこまでお前はレッドラインにこだわる!? 1人で突入とか正気の沙汰じゃないぞ!?」
淡々と答えている俺とは正反対に師匠は声を荒げる。
顔を赤くして眉をひそめ、俺のことをじっと睨んできた。
「圧倒的な力の象徴……それがじいちゃんの率いる草凪ギルドだったんですよね?」
「今、そんなことを確認する必要があるのか!?」
怒りながらまくしたてる師匠がさらに表情を険しくする。
師匠が心配で怒っていることを十分理解しつつ、俺は自分の行いたいことについて口にする。
「大ありです。むしろ、俺の行動原理と言っても過言ではありません」
「なんだと?」
今のような状態になる前の草凪ギルドは日本を代表し、世界でもリーダーシップが取れるほど発言権があったようだった。
国が主体となってその監視を行う第三者機関としてハンター協会が設立されたものの、草凪ギルドへ意見を言えるような人がいなかったため、じいちゃんが会長に就任してしまう。
(それでも周りから大っぴらに反対をされなかった。なぜなら、それだけ草凪ギルドの影響力があったからだ)
俺はこんな通知書で許可されることなく、
「師匠。俺はじいちゃんを越え、過去の草凪ギルドをも越えるつもりです。レッドライン単独突入はその第一歩と考えてください」
今はまだ俺のことを知らない人たちも、人類が成し得たことがないレッドライン単独攻略を行えば、必ず注目してくる。
誰もが無視できない存在になり、ハンター協会に対してこちらの要求を通りやすく交渉することや、優秀な人材を集めてギルドを大きくしたい。
それらを師匠へ説明し、レッドラインを攻略してからお姉ちゃんや夏さんへ怒られに戻ると伝える。
「勝算はあるのか? レッドラインはこの街にいるビショップ級以上のハンターが総動員されて攻略するんだぞ?」
俺のことを止められないと判断したのか、師匠は諭すようにレッドラインの危険性について話をしてきた。
レッドゲートの詳細な戦闘記録は残っていないが、回復薬を飲み続けてグラウンド・ゼロを連発すれば大体のモンスターは倒せる。
試練や異界での経験から、俺は師匠へ笑顔を向けて答える。
「もちろんです。師匠、俺を信じて下さい」
「澄人……お前は――」
「来るっ!!」
師匠が何かを言いかけた時、ビビビっと第六感が警報のように刺激された。
レッドラインが発生する前兆を察知し、椅子を蹴飛ばす勢いで立ち上がった。
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ご覧いただきありがとうございました。
次の投稿は6月6日に行う予定です。
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