他校交流戦④~A級ゲート突入許可~
7月が終わり、夏の暑さがますます苛酷になる中、部活終わりに平義先生から残るように言われて、1人で部室に残らされている。
あと2週間ほどで交流戦が控えているため、今日の夜も全員で境界へ突入する予定だ。
「交流戦までに少しでも強くなってほしいんだけどな……」
1年だけで行っていた交流戦のための境界突入だったが、今は部員全員が参加している。
なぜかそのことを知っていた平義先生が2・3年も一緒に連れて行ってほしいと頼んできたため、2班に分けて複数の境界へ突入していた。
(いまだにハンター協会がハンターを境界へ派遣するシステムが動いているのが信じられない……なんでなんだ?)
あれからだいぶ経つのに、ハンター協会による境界の突入制限が解除されていない。
そのため、観測センターに登録された境界の突入権がオークションにでてくることはない。
(やることは前と変わらないけど……なんだかな)
突入権を購入できない俺たちが境界へ突入するには、観測される前に見つけるという方法しかなかった。
(少しでも早く探しに行きたいんだけど……いつまで待たされるんだ?)
すでに部活が終わってから小一時間経っており、スマホには聖奈からまだ終わらないのかというメッセージが送られてきている。
まだ終わらないと返信するのが面倒になってきた頃、平義先生が師匠と共に部室へ入室してきた。
「すまないな、澄人。これから境界へ行くところ悪いな」
「異界ゲートの件ですか? 期限まであと数日ですよね」
「それもあるが……今日中にお前へ伝えなければならないことがあるんだ」
師匠と平義先生が俺と向かい合うように椅子へ腰を掛けた。
俺の提示した条件が有効な期間まで残り数日まで差し迫っており、その話をされると思っていた。
師匠は神妙な顔をしている平義先生を気にしつつ、机の上で手を組む。
「まず……澄人単独でA級境界へ突入できる許可が出た」
「え!? 本当にそれが通ったんですか!?」
一番変更するように言われると思っていた条件が通り、普通に驚いてしまった。
記録に残っている限り、レッドゲートへ単独で突入したなどと書かれたことなどない。
「期間限定なものだがな。指定した期日内に出現しなかったら、無効にするというのがハンター協会からの妥協案だ」
それを聞いて鼻で笑ってしまい、協会は俺にA級境界へ突入させることがないことを悟る。
「ああ……そういうことですか。去年、草根市にB級ゲートが出現して以来、日本にレッドゲートが生まれてないのを知りつつ、そんな条件にしたんですね」
ため息をつきつつ肘を机につき、こんな制約をつけてくる協会をどうしてくれようかと考えてしまう。
「…………そう取ってもらって構わない」
俺の反応をうかがっていた師匠は長い沈黙のあと、ようやく口を開いた。
つまらない話なので、これで終わりならさっさと部室を出ていきたい。
「話は以上ですか? もう境界へ行きたいんですけど」
「まだある……草根高校の異界ゲートの件でとある意見が出てな……」
「どんな内容ですか? うちから買い取るって話ならどんな条件でも売りませんよ?」
ハンター協会も草根高校にある異界ゲートは草凪家のものだとはっきりとわかっている。
その権利については手放す気はさらさらないので、どんな話も聞く気になれない。
俺が顔をしかめた瞬間、師匠が平義先生と目を合わせた。
「今、主に管理をしているミステリー研究部の実力を疑問視してきたんだ」
「まともに異界を調査できなかった協会がよくそんなことを言えましたね」
「モンスターと戦う自信がないから、あのように堅牢なものを作ったのだと上げ足を取られた」
「……だから代わりに協会が管理をするって話ですか? 応じると思います?」
「応じないだろう……だが、協会は《実力不足》を理由にミス研の異界突入許可を停止するつもりだ」
「あー……そういう話ですか」
協会が俺から異界ゲートを取り上げるのは不可能だ。
ただし、異界ゲートへの突入申請は、協会に所属している豊留さんが簡略承認をしている。
協会はその申請を通さないようにして、ミス研が異界へ突入できないようにすることはできる。
そんな姑息なことを良く思い付いたなと怒りを感じつつ、俺にできる反撃を試みた。
「それなら俺が異界ゲートの使用を全面的に禁止しても、文句は言わないですよね?」
「その行動がどんな影響を及ぼすのかわかっているのか?」
「俺たちミス研は境界でハンターとしての能力を上げられます。悪影響を被るのは異界からの収集品を取り扱っている企業や、境界へ行けないギルドになると思うですが、違いますか?」
「……結果として草根高校が反感を買うことになるだろう」
平義先生が言う事ももっともだが、異界内のことを考えたらこのまま解放し続けるのは難しい。
「普通に解放してもいいですけど、こちらの助言無しにあの迷路は抜けられないですよね?」
「地図を渡してくれという要求が出ているんだ。可能か?」
平義先生の話を聞いていたら、怒りを通り越して呆れてきてしまった。
ハンター協会から要求ばかりを求められ、本気で話し合いをする気はあるのかと思ってしまう。
「……それって、こちらにデメリットばかりで得が何もないですよね? 交渉したいのなら、そちらもなにか提示するべきではないのですか?」
「交流戦で良い成績を出せれば、実力が充分にあるとして、異界突入の許可を出すという《約束》を取ってきた」
「どんな結果でも難癖を付けられるという未来しか見えないんですが……本気ですか?」
これだけ意見を言ってくる協会が、普通に交流戦で勝っただけで許可を出すようになるとは思えない。
それに、塞がっているゲートのことを忘れているんじゃないのか感じるほど、こちらのゲートばかりについての話をされている。
「役員会で決まったことだ……どうする?」
A級ゲートの突入権についても日程がこちらではなく、協会が指定してくるので、いつになるのか検討もつかない状況だ。
(交渉の余地なしと判断してもよさそうだな。もう行こう)
どうすると言ってきた平義先生の顔を正面から見据えた。
「協会へ伝えてください。草凪家当主代行として、異界ゲートの維持・管理に問題があると判断し、これ以降の使用を禁止したいと思います」
「理由はなんなんだ?」
「他のゲートが使えなくなった影響で希望者が殺到することが予想され、不特定多数がここのゲートへくるのを防ぐためです。迷路の構造上、あまり多くの人に来てほしくないのは理解していただきたいです」
ミス研の部員が中で案内ができない以上、迷路の脱出方法を口頭で教えるしかないと考えられる。
その情報はあまり漏れないようにおきたいので、2人に理解してもらうしかない。
将来の草根高校で学ぶ生徒の未来を守るために、このゲートの価値を下げる行為は絶対してはならない。
それ以上何も言わずに頭を下げ、2人が了承してくれるのを信じる。
「澄人、最後に1つだけ聞かせてくれ」
師匠が先ほどまでとは違って穏やかな声で俺のことを呼ぶ。
顔を上げて師匠を見ると、とても穏やかな表情で笑いかけてきてくれていた。
「平義から、お前が草根高校の生徒が日本を支えるハンターを育成できるようにすると口にしたと聞いたが、これもその一環か?」
じいちゃんや俺の祖先が目指していた理想の草根高校に近づけたい。
草根高校の創立者の一族としてその一念で行動しているので、師匠の言葉に力強くうなずいた。
「もちろんです。私利私欲のためにこんな行動は取りません」
「それならもう良い。お前の意見をそのまま協会は受け取る」
師匠は優しい表情のままもう行きなさいと部室を出るように手を扉へ向けた。
再度頭を下げてから部室を出て、話し合いが終わったと聖奈へ連絡をするためにスマホを手にした。
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ご覧いただきありがとうございました。
次の投稿は5月28日に行う予定です。
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