異界での2日間⑤~峡谷を越えて~

 絶壁の谷と呼ばれる傾斜もメーヌに階段を作ってもらうことで、なんの苦労もなく登れた。

 谷を登り切った俺はこの先でライコ大陸を出られるのか期待をしながら未開の大地を見下ろす。


【異界ミッション4:ライコ大陸を出よ】

 成功報酬:スキル:《ワープ》の授与


 これまで1度も達成できないミッションが俺の前に現れたことはない。

 何の情報もない大地を赴く間隔は、境界に入る時と同じように高揚感を覚える。


「さて、行きますか」


 1カ月以上達成できなかったミッションを終わらせるために緩やかな傾斜を駆け下りる。

 地図を表示させながら移動をしていたら、モンスターらしき気配を感じた。


(モンスター……なのか?)


 雷が探知した気配がモンスターのものとは思えないほど小さいため、別の生物がいるのかと考えてしまった。

 疑問を持ちながら小さな気配の集団へ近づいた時、俺は自分の目を疑ってしまう。


「Hランクの異界にいるようなモンスターじゃないか……」


 そこにいたのはカワウソのようなモンスターで、今は集団で木の上にある果実を食べている。

 俺に気付いても襲ってくることはなく、脅威でもないため無視をして先へ進むことにした。


 数時間ほどこっちのライコ大陸を探索行い、俺はあることに気が付いた。


(1度も戦っていない……というか、戦いにならない)


 唯一俺へ牙を向けてきたのは、緑色の毛に覆われたイノシシのようなモンスターだけだった。

 それも、連れていた小さな子供を逃がす時間を稼ぐために恐怖を覚えながら俺に立ち向かってきた。


 そんなモンスターと戦う気にはなれず、逃げるようにイノシシの群れから離れた。


「こっちのライコ大陸は大型モンスターがいないみたいだな」


 普段活動している場所に現れるような大型のモンスターの気配はみじんも感じられない。

 広い範囲の気配察知を辞めてマッピングを行うことにした。


「ん?」


 この情報を他の部員へ使ってほしいと考えながら作業をしているとき、不意に声のようなものが聞こえてきた。

 顔を上げても周りにモンスターの姿がないことから、大型のモンスターがいるのかと思って警戒をする。


 しかし、気配察知ができる範囲に、争っているようなモンスターの気配がない。


(何の鳴き声だったんだ?)


 調査に熱中し過ぎて幻聴を聞いてしまったのかとため息をついた。

 周囲の観測を止めて大陸の端を目指すために走り出そうとした時、ありえないものが目に飛び込んでくる。


「今日はなかなかモンスターと出会いませんね」

「そうだな。この周辺でも何か異変があったのかもしれないから、警戒を怠らないように全員へ注意を促そう」

「はい。徹底しておきます」


 部長たちと同じくらいの年齢に見える男女が周囲を警戒しながら歩いていた。

 俺は近くの茂みへゆっくりと身を隠して、2人の動向を注視する。


 この異界で初めて自分たち以外の人間が活動している風景を見るため、心臓の音が高鳴る。


(あの人たちも俺がいるなんて微塵も思っていなさそうだな)


 男女は武器を持って周囲に目を配っているものの、人数が少なすぎて俺が不安になってしまう。

 鑑定で能力を視ても、到底大型モンスターと戦えるような力を持っていなさそうだった。


 また、先ほどの会話を聞くかぎり、小さなモンスターしかいないこの地域を、少なくない人数が探索すると推測できる。

 2人は先に異界内の様子を探っているようなので、俺は静かに後をつける。


(必ず入ってきたゲートが近くにあるはずだ。それを確認しておこう)


 話をしている言葉から日本人であることがわかるので、この2人は高確率で俺の知らない3つ目の異界ゲートを使っている。

 そこを閉じてしまえば、日本で唯一異界へのゲートが使える草根高校の価値は計り知れない。


 男女は俺の追跡に気が付くことはなく、異界内で会話をしながら歩いている。

 そして、最後までなんの疑いのないまま歩き続け、山肌にある洞窟内へ入っていく。


(あそこに……なるほど)


 直接確認することなく、地図へ【G3】という文字が浮かび上がってきた。

 それと同時に洞窟内へ入っていった男女の気配が消える。


 2人以外に人間らしい気配が感じられないのを確認してから、ゲートがある山へ近づく。

 3つ目のゲートを発見した俺は、この場所をどうするのか悩んでしまう。


(うーん……ここを塞いだらさらにミス研で異界へ入る機会が減りそうだ)


 1ヶ所使えなくなっただけで俺たちの突入機会を奪われてしまったので、ここを塞いだらさらに減ることが予想される。

 ただ、これ以上介入された場合、こちらも意見を通すタイミングであるとも考えられる。


(定期的に部活の枠を確保してもらうように頼むか)


 一方的に減らされ続けるのも可笑しな話なので、こちらの意見が聞かれないということはないだろう。

 異界への突入機会を減らすと通知だけされて少々むかついているため、俺は3か所目のゲートを塞ぐことにした。


(そうだな……山が崩れたことにしよう)


 右手に魔力を込め、メーヌで山を砕いて洞窟を土砂で埋めつくす。

 地形を変えられるほどの能力を持っている者がいればまた開通させると思うので、念には念を入れることにした。


 メーヌによる土の圧縮を行い、スコップなどの道具では歯が立たないような強度へ昇華させる。

 満足するほど固めていたら、地図にライコ大陸の切れ目が映る。


(こんなところまで来ていたのか!?)


 見つからないように神経を研ぎ澄ませて、夢中になって追いかけていたせいで自分がいる場所へ注意を払っていなかった。

 峡谷が画面外になるほど離れてしまっており、どの方向へ帰ればいいのかさえ分からない。


(まだ時間があるから、帰ることは後で考えよう)


 しまったと思いつつも、先にライコ大陸から出られる場所があるのか確認をすることにした。

 ゲートが埋まっている山をあとにし、地図を頼りに歩き出す。


 複数の小さなモンスターを観察しながら歩いていると、波の音が聞こえてきた。

 地図から目を離して、導かれるように足を進める。


「海岸がある……本当に海みたいだ……それに……あれは……」


 オレンジ色の砂浜へ薄紫色の波が押し寄せ、何度もざぶんと音を鳴らしていた。

 さらに、目視できるような場所に別の大陸があり、慌てて地図へ目を向ける。


【マルタ大陸】


「別の大陸があった! これでライコ大陸を出られるぞ!」


 地図では1キロほど離れた場所にマルタ大陸があると表示されていた。


(泳いでも行けそうだけど……なんだか嫌な予感がするな……)

 

 紫色の水へ触れることに抵抗があり、峡谷を越えた時と同じ方法でこの海を渡ることにした。

 天翼を発動させて、ゆっくりと腕を動かして体を浮遊させた。


 マルタ大陸に降り立ったとき、俺の前へポンっと画面が表示された。


【異界ミッション4達成】

《ワープ》スキルを授与します


【異界ミッション5の解放条件】

 神格5

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございました。

次の投稿は4月28日に行う予定です。

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