異界での2日間⑥~未踏のマルタ大陸~

(ワープを検証するのが先か、マルタ大陸を探索するのが先か……迷うところだな)


 着地したマルタ大陸は色とりどりの木々が生い茂っており、明らかにライコ大陸と雰囲気が違う。

 足元の芝生も暗い水色になっているため、この大陸が自然に溢れていることだけはわかる。


 気配を探ると、こちらをうかがっている小動物のような気配が多数存在している。


(この先にも無数にモンスターらしき気配を感じる……退きたいけど、もう飛べない)


 ここまでくるのに魔力をほとんど使ってしまい、ライコ大陸まで飛ぶ量は残っていない。

 自然に回復するのを待とうとしたとき、【ワープ】の詳細が視界の端に残っていた。


【スキル詳細】

 スキル:《ワープ》

 使用条件:なし

 消費魔力:1回につき1人1,000

 説明:目的地への瞬間移動


(これなら今残っている魔力でも使えるけど、目的地ってどこになるんだ?)


 目的地としか書かれていない説明をいくら見ても分からないため、俺はワープを使ってみることにした。

 すると、ワープを発動させた途端、目の前に青い画面が現れた。


「これは……」


 思わずつぶやいてしまった俺は、その画面に目が釘付けになってしまった。


【ワープ可能地点】

 ●ライコ大陸

   G1地点

   G2地点

   G3地点

   マルコット山

   プルグ樹海

   クガン湖

 ●マルタ大陸

   サラン森林


 訪れたことのある地名や場所が一覧になっており、選択をしようとすると□に囲われる。

 このワープでどの位置へ転移されるのかわからないため、ゲートを選ぶのは今の段階では危険だ。


(そうなると……候補はこの3つに絞られる。そうだ!)


 サラン森林からこちらの様子をうかがっている気配から逃れるため、俺は【クガン湖】を選択してワープを行うことにした。

 クガン湖の項目が□で覆われ、実行をしようとしたら、画面が下に広がった。


【ワープ地点:クガン湖】

 実行しますか?


 スキルを実行するのかという確認の表示が現れるので、少し戸惑いながら発動させた。

 それと同時に、森林から俺のことを覗き見ていた猿のような小型モンスターがこちらへ向かって襲いかかってくる。


「こいっ! ……あれ?」


 数体の猿を迎撃するために雷を使おうとした瞬間、視界に入る風景が変わった。

 展開した雷が行き場をなくし、バチバチと音を鳴らしている。


 足元では静かに水が揺れており、見たことがある景色の場所に立っていた。


「本当にこんな一瞬で湖に着いたのか? うーん……」


 溜めていた雷を飛散させてから地図を表示させて、自分のいる場所を改めて確認する。


「本当にクガン湖に着いているんだな」


 地図上でも俺がクガン湖のほとりに立っていると表示されていた。

 これ以上、ワープを実行した瞬間にここへ着いたことを疑いようがない。


 湖から視線を外してアイテムボックスを表示させながら、ここへ来た目的を探す。

 俺はアイテムボックスの中へ手を入れて、あるモノを取り出すために意識を傾ける。


 考えるだけで目的のモノが手のひらに収まり、ゆっくりと手を引き抜いた。


(ようやく【これ】を使う時が来たな)


 俺はアイテムボックスの中から鈍く輝く1本の鍵取り出してから、湖へ目を向ける。


(5万ポイントで購入した水の鍵。ようやくここで使える)


 アイテムショップが使えるようになってからずっと購入可能となっていた《水の鍵》。

 どこでも使えるという訳ではなく、以前使ったことがある山の鍵と同様に、異界の水辺の近く以外では使うことができなかった。


 鍵を使用できるのは先生が引率をしてくれた時だけだったので、まだ2本しか使ったことがない。

 このタイミングなら水の鍵を使用できると思い、水のあるクガン湖へ来た。


(マルタ大陸でもよかったんだけど、落ち着かなかったからな……)


 マルタ大陸に上陸した地点でも使えそうな感じだったが、なんだか嫌な予感がしたためこちらへ移動してきた。

 そんなことを考えつつ、水の鍵をクガン湖へ向けて魔力を込める。


魔力を込めた瞬間、銀色の光が俺の手から飛び出し、青い線が宙を切り裂いて境界が発生する。


【水の鍵が使用されました】

 水の試練が開始されます

 鍵の使用者のみ入場できます


 画面では鍵が使用されたと表示が出ており、俺は境界を見据えながら大きく深呼吸をする。


「行くか」


 青い光が漏れている境界に向かって進むと、俺の視界が光に包まれる。


【水の試練へ入場しました】

 水の試練1/10を開始します

 5分間生き残ってください

《残り 04:59》


「ごぼぉ!?」


 水の試練内容に目を通そうとした瞬間、何も見えない液体の中へ放り込まれた。

 普通に呼吸をしていた時に投げ出されたため、思いっきり水を飲み込んでしまった。


 現状を把握しようにも視界が確保できず、足がついていないのでなにがどうなっているのかわからない。

 一寸先さえ見えない暗さと、息ができない苦しさでパニックになる寸前、俺の前へ画面が表示された。


【案内】

 水の試練をリタイアできます

 実行しますか?


 混乱で何も考えられなくなったとき、試練を諦めさせるような選択肢が現れる。

 どうしてこんなことになっているのかわからないので、一旦退くためにリタイアを選択しようとした。


(【次】はあるのか?)


 アイテムショップで水の鍵を購入した時、項目が消えて2つ目を購入できなくなった。

 ここでリタイアをしたら再び水の試練が受けられなくなると考え、俺は目と口を閉じる。


(これは普通の液体じゃない。ただ、痛みがないから溶かしてくるようなものでもない)


 これが視界を奪うためだけの液体だということが確認できた。

 次は生き残るための方法を探る。


(グラウンド・ゼロで蒸発させるのを試してもいいけど、貢献ポイントが残り少ないから何もできなくなるデメリットがあるな……となると……ダメだ!!!!)


 息を止めることが限界になってきており、一刻も早く呼吸をしたい。

 雷の力で水を電気分解して酸素を作ろうとしたが、濃度が高いとそれはそれで体に悪影響を及ぼす。


(そんな繊細な作業をこんな時にできない)


《残り時間 03:45》


 水の試練の残り時間に目を向けると、まだ1分程しか経っていなかった。

 限界が近くなる体とは裏腹に俺の思考は研ぎ澄まされ、パニックとは真逆の精神状況になっていた。


(動けてあと10秒くらい……さて……)


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございました。

次の投稿は5月1日に行う予定です。

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