異界での2日間④~灰色の湖の先には~

「これは異界の海……なのか?」


 地図を見てもこの先には何もなく、薄紫色の水が海のように広がっていた。

 触れても俺の靴を溶かすことはないものの、色を見て味を確かめる気にはなれない。


(これを泳ぐのはないな。メーヌで船を作った方がまだ行けそうだけど……風がないからオールで漕ぐか? いやいやいや、それは無謀な賭けだ)


 表示されている地図は周囲5キロまでのものが反映されている。

 今はこの範囲の海になにも描かれていないので、最低でもオールで5キロ以上漕がなければこれより先へ行けない。


 そんなことをしている時間があったらまだ行きたい場所があるので、そちらの探索を優先しようと思う。


(とりあえず、この辺りの記録をしておこうか)


 スマホで周囲の撮影をしながら探索を行ったが、海以外に気になるものはなかった。

 地中に何かないのかを雷で探りつつ、地図へ目を向けた。


(これで終わり……か。それなら、次は渓谷の方へ行ってみようかな)


 俺は地図で方向を確かめて、大陸を断ち切っている峡谷を目指すことにした。

 ゲートへ戻るという形にはなってしまうが、峡谷の先へ行きたい。


(今出せる速度なら30分もかからないから、モンスターを狩りながら戻ろう)


 普段よりも多めに神気の解放をしているおかげで高速で逃げる槍にも追いつくことが出来た。

 その速度で移動をすれば峡谷まではすぐに着くと思い、俺は来た道を全速力で戻ることにした。


 戻っている最中に雷へ捕食を付与したところ、このスキルの恐ろしさを垣間見た。

 雷で包んだらモンスターを丸ごと飲み込んでしまい、俺の体力と魔力に変換されてしまったのだ。


(いくら走っても疲れないし、魔力が枯渇する心配をしなくてもよくなった)


 アイテムボックスにも討伐を知らせる収集品が入っており、俺は走りながらモンスターを捕食し続けた。

 前方に大地を寸断している峡谷が見えてきたとき、俺は覚悟を決める。


 全快の状態で峡谷が見えてくるので、俺は立ち止まることなく更に加速して宙へ跳んだ。


(向こうの大陸までおおよそ3キロ!! 天翔で行けるところまで跳ぶ!!)


 現在の天翔の熟練度はⅣとなっており、8歩も空中で踏み切ることが可能となっている。

 大陸を断ち切っている峡谷越えるために、一歩を全力で踏みしめる。


 自分の体が落下をする前に足を動かして推進力を得る。


(届かない!! あと少しなのに!!)


 8歩目の天翔を使っても大陸には届かず、残り500メートルほどで何もできなくなってしまった。

 メーヌに頼ろうとしても、大地が遠すぎて何も作ることが出来ない。


 宙に放り出された形になった俺の体は、峡谷の奈落に向かって落ち始める。

 この下に大地があることがわかっているが、どこへ行くのかわからないため、戻ってこられるのかさえ分からない。


 二度と這い上がってこられない可能性さえあるため、落ちるわけにはいかなかった。


(なにか、何かできないのか!!??)


 打開策を見出すために、落下しながら自分のステータスを表示させる。


【名 前】 草凪澄人

【年 齢】 15

【神 格】 4/4

      《+1:500,000P》

【体 力】 15,000/15,000

      《+100:10,000P》↑

【魔 力】 20,000/20,000

      《+100:10,000P》↑

【攻撃力】 A《1UP:100,000P》

【耐久力】 A《1UP:100,000P》

【素早さ】 A《1UP:100,000P》

【知 力】 A《1UP:100,000P》

【幸 運】 S《1UP:250,000P》

【スキル】 精霊召喚(火)・メーヌ召喚

      鑑定・思考分析Ⅳ・剣術Ⅱ

      治癒Ⅳ・親和性:雷S・剣E

      捕食・天翔Ⅳ○

      グラウンド・ゼロ □

【貢献P】 65,000


(○が付いている!? これが最後の望みだ!!)


 今回の天翔で条件を満たし、ステータス画面に新たな○印が現れていた。

 1つのスキルを一定以上使うと名前の横に○印が付き、貢献ポイントを支払うことで上級のスキルを手に入れられる。


 落ちながら○印に注目をしていたら、ステータス画面から別の画面が飛び出してきた。


【スキル購入】

 貢献ポイントを【50,000】支払うことで【天翼てんよくⅠ】を習得できます

 実行しますか?


(実行!! 実行だ!!)


 使用できるポイントも十分なため、俺は考えることなく実行した。

 完了画面が出ると同時に俺は天翼のスキルを発動させた。


 しかし、俺の落下スピードが緩まることはなく、このままでは漆黒の谷底へ落ちてしまう。


「天翼の説明を出してくれ!!」


 スキルの使い方がわからず、説明を求めるように叫ぶ。


【スキル詳細】

 スキル:《天翼Ⅰ》

 使用条件:素早さB以上

 消費魔力:1秒間に100

 説明:腕を翼のように使うことが可能になる


 目の前に現れた画面を見て、俺は両腕を仰ぐように思いっきり上下させた。


「うぐっ!? 止めるわけにはいかない……」


 急に宙で体が止まってしまい、強力なGで体中が悲鳴を上げ、脳が揺らされたために意識を持っていかれそうになる。

 それでも腕を動かし続けないとまた落ちてしまうので、必死に力を振り絞らなくてはいけない。


(もうすぐ……もうすぐなんだ……)


 もがくように腕を動かし続け、何とかして谷の斜面に辿り着いたので、メーヌを召喚した。


 斜面に畳1枚分ほどのスペースを作り、その上へ倒れ込む。


 朦朧とする意識の中、峡谷を渡り切った俺は満足感を得て、頬を緩める。


(渡り切ってやったぞ……ここから先は未開の地だ……異界ミッションが達成できると……いいな……)


 体力と魔力を使い切ってしまい、ポイントショップを表示してから重い腕を動かす。


 残っているポイントで体力と魔力の回復薬を購入しつつ、はるか上空までそそり立っている谷を見上げた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございました。

次の投稿は4月25日に行う予定です。

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