異界での2日間③~捕食するモノたち~
赤い光が俺の頭上へ打ち上がった時、灰色の球体の形が崩れて、俺へ襲いかかろうとしてきた。
(俺を溶かす気か!?)
発動時間まで持てば相手が消滅すると思い、メーヌで土の防壁を作ろうとした。
しかし、灰色の水は俺に落ちることはなく、無数の小さな槍のような形になっている。
(なんだ!? ただ落ちてくるだけじゃない!?)
四方八方に広がる槍から攻撃をされたら防壁が持つか不安になる。
槍で俺を攻撃してくるのかと思いきや、先端が俺ではない方向を向く。
グラウンド・ゼロが発動する直前、空に広がるように灰色の槍が俺から離れていってしまう。
(こいつら!? 逃げようとしているのか!?)
俺は自分を守るためではなく、灰色の水を逃がさないように土壁を作る。
それでも数え切れないほどある槍を包囲するのが間に合わない。
そうしているうちに赤い光が周囲に満ち、グラウンド・ゼロが発動してしまった。
地面が大きく揺れ、赤い光は辺り一面を焼き尽くす。
(数個逃がした!!)
灰色の槍が高速で移動し、グラウンド・ゼロの有効範囲外に出られてしまう。
俺を守ってくれていた赤い光が消えると同時に、逃がしてしまった槍を追いかける。
雷の索敵範囲外までは離れさせないため、さらに神気を解放して速度を上げる。
(1つ消えた!? いや……全部向かっているのか!?)
逃げていた気配が1つ途絶えたと思ったら、全部の槍が同じところで消えている。
追いかけていた槍が集まっていた場所まで着くと、そこには普通の異界の風景が広がっていた。
「この辺りは来たことがなかったけど、普通だな……ん?」
雷で周囲を警戒している時、いつもの癖で大地に鉱石が含まれていないのかまで確かめた。
すると、槍が消えたと思われる場所の地下に空洞のような空間があった。
大きさは学校の教室ほどしかないが、それよりも気になるモノが近くに存在している。
(これは植物……なのか?)
空洞を植物のようなものが覆うように囲っており、偶然できたものではなさそうだった。
明らかに何かの意思を持って地下に埋められている植物を確かめるべく、メーヌで地面に道を作る。
すぐに足元に地下への入り口が作られるので、火の精霊で道を照らしながら進む。
建物4階分くらいの階段を降りた時、巨大な灰色の植物が壁のように広がった。
「っと、危ない」
最後の抵抗なのか、消えたはずの小さな槍が俺の眼前へ迫ってきた。
火の精霊で槍を蒸発させてから改めて地下に埋まる植物へ目を向けた。
【ユニークモンスター】
捕食するモノ(母体)
「やっぱり指示を出していた司令塔がいたんだな……これを燃やせばいいのかな?」
わざわざ(母体)と表示されているところから、この植物が灰色の水を使ってあらゆるものを溶かしていたと推測される。
灰色の湖や球体など、今後の探索で障害になりそうなものを排除するため、俺は右手へいつもより多めに魔力を込めた。
「火の精霊よ、捕食するモノを燃やし尽くせ」
右手から放たれた魔力は火の精霊に注ぎ込まれ、小指ほどの火がふわふわと壁のような植物へ近づく。
頼りない火が灰色の植物に触れた瞬間、ゴウっと音を立てて壁のようにそそり立つ植物を焼き尽くす。
あまりの熱量に顔をそらしていたら、赤い画面が飛び出してきた。
【ミッション達成】
ユニークモンスター【捕食するモノ(母体)】を討伐しました
S級スキル【捕食】を授与します
ユニークモンスターを倒せたおかげで、新しいスキルを習得できた。
火の精霊によって灰になった植物を見届けて、踵を返した。
(捕食はどういう感じに使えばいいんだ?)
長い階段を登りながら【捕食】の説明へ目を通す。
【スキル詳細】
スキル:《捕食》
使用条件:なし
消費魔力:なし
説明:対象を体内に取り込む
※
(これがグラウンド・ゼロと同じS級スキルなのか? でも……)
説明を見てから率直な感想が脳裏をよぎるものの、画面が嘘を表示させるはずがない。
それに、捕食するモノが灰色の水でしてきたことを思い出せば、このスキルがどのような効果なのかは想像がつく。
地上に戻ってから穴を塞ぎ、捕食のスキルを発動させる。
(あれ?)
捕食のスキルを発動させようとしたにもかかわらず、なにも起こらない。
首をかしげて何度か発動させても効果がないため、もう1度スキルの説明を見る。
(なんだこの米印?)
幾度と発動しない捕食というスキルの説明欄に見慣れない【印】があることに気が付いた。
その印へ注意を向けると、新たな画面が表示されてきた。
【補足】
対象に意識が存在する場合、消費魔力・対象の耐久力で成功率が変わります
効果の対象は、存在する全てのものです
このスキルは魔力やスキルに付属することで効果が発動します
「なるほど? とりあえず、単体では使えないってことだな」
丁寧に補足をしてくれているので、何となく使い方が伝わってきた。
(存在する【モノ】すべてだから……この木でもいいのか?)
木を掴んだ右手へ魔力を溜めて、捕食を発動させる。
発動した瞬間に手でつかんでいた木が溶け、触れようとしたものが消えるようになった。
木や植物を触ろうとしても同じ事が起こり、右手を見つめていた俺のそばをモンスターが通る。
(モンスターにも使えるんだよな……はっ!? 確認は異界じゃなくてもできる!! 後だ!!)
右手に込めた魔力で溶かせるのかということを考えていたら、ここが異界ということを思い出す。
魔力を飛散させてから時計に目を向けると、すでに3時間が経っていた。
今回の探索でしばらくの間は自由にこちらへ来ることができなくなるので、外でも出来ることは後に回す。
自分が今どこにいるのかを確認するためにマップを表示した。
(ここは……灰色の湖で来られなかった場所なのか)
夢中になって槍を追いかけていたら、灰色の湖で渡れなかった場所へくることができていた。
この辺り一帯の情報はまったくないため、スマホで写真の撮影をしながら探索を行うことにした。
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ご覧いただきありがとうございました。
次の投稿は4月22日に行う予定です。
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