異界での2日間②~異界探索出発~

 ゲートへ入って20分ほどで俺は師匠から自由を宣告された。

 予想外の言葉をかけられて思わず声が出てしまう。


 俺の反応を見た師匠は地図を草地さんへ渡しながら立ち上がる。


「明日の21時に向こうへ帰る。その時までに戻っていれば何をしてきてもかまわん」

「いいん……ですか?」

「もちろんだ」

「ありがとうございます!」


 嬉しさのあまりに立ち上がって、机にぶつけそうなほど頭を下げた。


 異界へ長時間入っていたいということを平義先生には何度か相談したことがあった。

 ただ、その度に異界はルールが厳しく、長時間突入するのが難しいと説明されていた。


(30時間以上異界を探索できる!! こんなことが起こるなんて!!)


 今回も数時間程自由時間があれば良いと思っていたため、こんなに時間をくれることが信じられない。

 最初は何処へ行こうか考えていたら、師匠が困った表情でチラリと平義先生へ視線を移す。


「ただ……わしから言うのもなんだが……だから、もう少し部活に協力してくれないか?」

「今もしていますよ。このようにゲート周辺の安全を確保しています」


 会議室から飛び出そうとする俺を師匠が呼び止めるように話しかけてきていた。

 異界内で活動できないのは、天草先輩や部長が俺を探索班へ入れないのが原因なので、相談をする相手が違う。


「俺を使いたいのなら探索班へ入れてから……と先輩たちへ伝えてください。それでは行ってきます!!」


 平義先生が何かを言う前に言葉を投げかけて、俺は会議場を飛び出した。

 呼び止める声もなく、2人がため息をしたような気配だけを感じた。


(まずは灰色の湖を確認しに行こう)


 植物やモンスターを溶かしながらこちらまで侵攻してきていた灰色の湖。

 あの事件以来音沙汰がなく、対峙した俺以外はあまり大事にとらえていないように見受けられた。


 あれから1週間以上が経ち、灰色の湖がどうなっているのか誰も見ていない。


(何もないわけがない……それに、灰色の湖そのものがモンスターなら確実に【ユニークモンスター】だから、倒す価値はある)


 今まで【雷帝龍】や【∞スライム】など、ユニークモンスターを倒せば必ず良い事が起こってきた。

 そんな相手を見逃す理由はないので、俺はマップを見ながら灰色の湖がある場所へ向かって走る。


 異界内にいる間有効な【神気解放】を行って身体能力を底上げし、1秒でも早く辿り着くように強化を行った。


「もう灰色の湖が見えた!? やっぱり拡大している!!」


 地図上ではまだまだ先にあるはずの灰色の湖がもう見えてきた。

 あまりの大きさに目を疑い、この湖が溶かすだけの水溜まりではないことを確信する。


(他の物を溶かせば溶かすほど量が増えるのか? それならいずれこの大陸が全部飲み込まれるかもしれないな)


 灰色の湖の鑑定を行っても何も表示されないため、正体を掴むことができない。

 木々など植物が全く見当たらない大地が広がり、まだ浸食されていないと思われるギリギリのところで立ち止まった。


 俺へ攻撃してきた灰色の球体のことを思い出し、湖に向かって雷を使ってみることにした。


(手始めに数百本の剣を打ち込んでみるか)


 雷の剣を展開していると、入部試験の時は不発に終わったことが脳裏によぎる。

 今回は俺を止めるような相手がいないので、剣が精製された瞬間に全ての剣を灰色の湖に向かって射出した。


 無数の剣が黄色の光をほとばしりながら灰色の湖へ吸い込まれた。

 周囲を警戒しながらその光景を眺め、灰色の湖の反応を注視する。


(なにも……ん?)


 雷の剣がすべて湖へ吸い込まれてから数秒ほどで、地面が徐々に乾いているように見受けられた。

 さらにぬかるんでいた地面を踏んでも靴が溶けないため、完全に灰色の水がなくなっていることがわかった。


(どこかに集まろうとしているのか?)


 波が引くように去っていく水を追うように雷を展開しながら足を進める。

 大地が乾燥していくのを追いかけていたら、見たこともない巨大な灰色の球体が見えてきた。


「ここに集まっていたのか……そして、これか……」


 水が集まっていた所は、先生に案内をされた灰色の湖があるという場所だった。

 そこには俺が相手をした灰色の球体よりも数百倍大きなものが浮かんでいた。


 こんな量の水が異界を浸食していたことを考えると背筋がぞっとしてくる。


「それに……どれだけ大きくなるつもりなんだ?」


 灰色の球体は地面から吸水し続けており、止まることを知らない。

 一滴でも残したらまた同じように増えてしまうと思って集まるのをまっているものの、なぜこんなことになっているのかは不明だ。


(まあ、集まってくれているのなら話は早い。グラウンド・ゼロで一掃だ)


 相手が何者かはわからないが、これだけ蓄えた水を一気に消されたら何かしらの反応はあるだろう。

 灰色の湖が水を地面から吸い上げているのを見つつ、俺はグラウンド・ゼロを発動させて魔力を注ぐ。


 アイテムボックスを表示させて魔力回復薬(大)をいくつか購入していたら、天を覆うほど大きくなった灰色の球体が1度揺らめいた。


「うをっ!? 俺のやることがわかっているのか!?」


 次の瞬間、球体から高速で発射された水が俺を狙って放たれた。

 確実に蒸発させるために右手の光が赤くなるまでは魔力を溜めたいので、俺はぬかるんでいない地面を滑走する。


 球体は俺を追いかけるように水の弾丸を連射してきており、明確に俺のことを敵と認識している。


(あの小さい球体と戦ったことをこいつが知っている? どうなっているんだ?)


 前回の球体はグラウンド・ゼロで消滅させたはずなのに、こいつはそのことを知っているようにしか思えない。

 右手が赤く輝いて漏れるように光がほとばしる。


 水の弾丸を躱しながら灰色の球体の真下へ行こうとしたとき、俺の眼前に1発の弾丸が迫ってくる。


【ユニークモンスター】

 捕食するモノ


 その弾丸を避ける直前、目にユニークモンスターの情報が飛び込んできた。

 一瞬すぎて内容がよく分からなかったので、雷で水の弾丸の軌道を見極めてもう1度確認する。


【ユニークモンスター】

 捕食するモノ


(見間違いじゃない……この灰色の水全部がモンスターなんだ……弾丸として切り離されてもそう見えるってことは……つまり……)


 俺が水だと思っていたものは全てが【捕食するモノ】というモンスターで、球体すべてがそうだと思われる。

 また、放たれた弾丸が地面を伝って球体に吸収されているのを見て、ある推測が頭をよぎる。


(どこかに指示しているやつがいるはずだ!! そいつを探し出す!!)


 俺は雷で身を守りながら、球体の真下でグラウンド・ゼロを発動させた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございました。

次の投稿は4月19日に行う予定です。

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