異界での2日間①~ハンター協会異界探索へ~

「四級観測員の草凪澄人です。今日から二日間よろしくお願いします」


 新入部員の3名が合流してから1週間後の7月末。

 俺はハンタースーツを身にまとい、異界ゲートの前で自己紹介を行った。


「わしら相手に今さらどうしたんだ?」


 頭を上げると、師匠が苦笑いをしながら俺へ話しかけてきた。

 その横には、草地さんと平義先生が立っており、同じように困惑している。


「今日は観測員としてきているので、一応挨拶をしておこうかと思いまして」


 今回の調査中、俺は観測員として参加すると要項にかかれていたので、自分の身分を確かめるためにあえて口に出した。

 そんな俺を見た師匠は軽く息を吐き、後ろで渦巻いているゲートを向く。


「時間になったから入るぞ、異界内でこの後のことを説明する」

「はい」


 師匠がゲートへ吸い込まれるのを待たずに、平義先生と草地さんが追いかけるように入る。

 しかし、草地さんが難しい顔をしながら師匠の背中を追いかけているように見受けられた。


(草地さんどうしたんだろう? まあ、いいか)


 調査開始の時間を守るために俺もゲートへ入り、メーヌによって整備された異界側の作戦会議室へ降り立つ。

 師匠や平義先生は、当たり前のようにミスリルで作られた机を囲うように置かれている椅子に座っていた。


「話では聞いていましたが……私たちの時とは明らかに違う作りになっているんですね」


 草地さんが整備されたこの会議室を見て呆気にとられていた。

 俺も椅子に座りつつ、このように整備された経緯を思い出す。


 別のゲートを封鎖した際、同じことをされないようにここを防衛基地として機能できるように意識しながら作業をした。


(表向きはモンスターの襲撃を防ぐってことにしてあるけど……探索ができなくてこっちばっかりに集中したからな)


 俺がいると他の部員の経験にならないということで、異界内の探索にあまり参加させてもらえなかった。

 それなら俺にできることをやろうと思い、このゲートを守ることへ全力を尽くした。


 ゲートがあることを悟らせないように山を作り、その中へ迷路のような洞窟を作った。

 洞窟で迷わないように、正規に入ってきた人だけが分かる印を作ってある。


 また、異界内で落ち着いて話し合える場所があると便利ということで、ゲートに入った直後にこのような会議室を作ってあげた。


「いや……わしもこうなって初めて入った時は驚いたよ。すべて澄人が作ったんだ」

「澄人さんが……なるほど……」


 師匠がそう言いながら椅子を引いて、草地さんへ座るようにうながす。

 草地さんが着席をしたのを見計らって、師匠が俺を見ながら口を開く。


「これはハンター協会が保管しているこのゲートを中心とした地図なんだが、補足してもらえるか?」


 抱えていた荷物から取り出した紙を机に広げ、師匠が俺の前へ差し出す。


「俺がわかる範囲でいいんですよね?」

「ああ、部室のあるものを参考に作ったのだが、澄人だけが知っていることがあれば追加してほしい」

「うーん……この範囲でいいんですか?」


 机に広げられた地図は部室にあるものと同じだが、範囲も周囲5キロほどまでしか書かれていない。

 これ以上遠くになると断ち切る峡谷などを描く必要が出てくる。


 その確認のために行った質問を師匠に向かって行ったところ、平義先生が身を乗り出してきた。


「この範囲でかまわないし、書き加えなくても大丈夫だ」

「わかりました。とりあえず、見てみますね」


 何か含みを持たせるように俺の目をじっと見つめてくる平義先生から目を離し、机の上に置かれているペンを手に取る。


 おそらくこの地図を見ながら調査を行うと思われるので、詳しく描くためにのマップを表示させた。


 マップの存在を知っている3人は俺の行動を不思議に思うことはない。


「平義さん、翔からも聞いているのですが、新入部員の3人はどんな感じですか?」

「天草の妹や白間はまだ距離を感じています。マネージャー希望で入部をした楠はもうどの学年の生徒とも話ができているような印象です」


 3人が新入部員のことを話題にして会話を始めるので、俺は黙々と作業に没頭することにした。

 地図へ足りない部分を書き加えている中、俺は楠さんと対戦した内容を思い出す。


(ハンターの知識を一問一答形式で勝負するなんて思わなかった……)


 ハンターの基礎を作り上げた俺の先祖のことや草根市の由来など、ありとあらゆるハンターの知識をお互いに答えた。

 最後の俺が答えられなかった問題について考えていたら、師匠が俺の手元を指で軽く叩いてきた。


 何かと思って顔を上げると、師匠が微笑みかけてきた。


「異界へ通じるゲートがある場所を3ヶ所あげるという問題に答えられるのは、わしと総理くらいだ」

「わからないって言った時点で俺の負けです」


 視線を地図に戻して作業を再開すると、俺が埋めたゲートのことが頭に浮かぶ。


(あのゲートはどこに繋がっていたんだろう……確認してみたいな……)


 知らないことがあることが気持ち悪く、いつまでも答えられないことがあることに憤りを感じる。

 師匠は場所を教えてはくれないようなので、自分で調べるしか方法はない。


 この2日間という時間でどれだけ1人の調査ができるか教えられていないため、俺はペンを置いて師匠を見る。


「終わりました」

「ちょっと確認させてくれ」


 書き終えた地図を師匠や草地さんが覗き込む。

 俺の探索時間を確保する交渉材料にしようと思い、マップ並みに詳しく情報を書き加えた。


 平義先生は腕を組んで感心するようにうなずいてくれているので、なかなか詳細なことが載っている地図になっていると思われる。


(その地図を見ながら探索を行えばこの範囲ならば半日もかからない。よし!)


 1分でも多く探索時間をもらおうと交渉を始めようとしたとき、師匠が机に手を置いて俺を見据えてきた。


「こんなに詳しい地図なら文句は出ないだろう。澄人、残りの時間は自由に過ごしなさい」

「え?」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございました。

次の投稿は4月16日に行う予定です。

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