入部試験⑭~水鏡真の覚醒~

 白間くんがいくら振り払おうとしても、真さんから放たれたもやは消えない。


「こんな小細工を!!」


 払い除けるのが無理だと分かったのか、白間くんは持っていた銀色の剣で真さんに切りかかった。


――ギィン!!


 しかし、その攻撃は槍の迎撃によって弾かれ、金属同士がぶつかる激しい音が聞こえた。


「そこっ!!」


 体力が尽きかけていたはずの真さんが更に槍を振るおうとしたら、白間くんが身をよじるように体勢を整えながら距離を取った。

 劣勢だった真さんが白間くんを追いかけるという光景が信じられない。


(ここにいる全員が同じことを思っていそうだな……)


 紫色のもやが放たれる前と状況が一変してしまい、観戦している人が意表を突かれたように見入っていた。


「何が起こっているんだ!!??」


 白間くんが先ほどと同じように攻撃をいなそうとしても、腕ごと剣を弾かれてできていない。

 チャンスを逃さないように攻勢に出る真さんと、何とか距離を取ろうと走る白間くん。


 この2人を両方鑑定することによって、真さんがなにをしたのか見えてきた。


【名 前】 水鏡 真

【年 齢】 15

【神 格】 3/7

【体 力】 4,500

【魔 力】 6,000

【攻撃力】 F→D(+2)

【耐久力】 G→E(+2)

【素早さ】 F→D(+2)

【知 力】 D

【幸 運】 F


【名 前】 白間 輝正

【年 齢】 16

【神 格】 3/4

【体 力】 9,000

【魔 力】 2,000

【攻撃力】 C→E(-2)

【耐久力】 D→F(-2)

【素早さ】 D→F(-2)

【知 力】 F

【幸 運】 F


(知力だけ値の変化がない……知力の値の差で減少値が決まっているのか!)


 真さんが放った紫色のもやは白間くんの能力を大幅に減少させていた。

 逆に真さんの能力はその分上昇しているため、白間くんを追い込んでいる。


 ただ、紫色のもやを発動させている代償なのか、真さんの魔力が急速に減っており、早く決着を付けないと0になってしまいそうだった。


「調子に乗るなよ!!」


 真さんの槍をかいくぐって距離を取った白間くんは、剣を思いっきり引いて剣先へ左手をそえる。


「閃光一閃!!」


 白間くんが振るった剣から放たれた光はあまりにも速く、気付いたら真さんを貫いていた。

 それでもまだ真さんは競技場の外へ弾き出されず、白間くんへ肉薄する。


「う、嘘だろ!?」


 もう力が残っていないのか、床に座り込んで狼狽する白間くんは剣を捨て、顔を守るように両腕で覆う。

 そんな白間くんに対し、真さんは躊躇無く槍を振り下す。

 

「これでっ!!」


 ――カァン


「……え?」


 槍が白間くんに当たる直前、なぜか真さんの持っていた槍が床に落ちる音が鳴り響く。

 同時に真さんが白間くんの真横に倒れてしまった。


「真!!」


 聖奈が俺の腕を振りほどき、競技場に上がって真さんへ駆け寄る。


「し、勝者、白間!」


 真さんが倒れたのを信じられないように見ていた副部長が声を上げ、白間くんが勝ったことを宣言した。


「な、なにが……どうして……」


 勝ちと言われた白間くんも倒れている真さんを呆然と眺め、何が起こったのか分からない様子だった。


「真!? ねえ!! 目を開けて!!??」

「真ちゃん!?」


 真さんの抱きかかえる聖奈が何度も必死に呼びかけるが反応はない。

 副部長も膝をついて真さんの顔を心配そうにのぞき込んでいる。


 致命傷を受けて倒れなかったため、真さんは競技場の外へはじき出されていない。

 鑑定で真さんの状態を確認すると、俺は思わずすごいと呟いてしまった。


(魔力切れ……0になるまで倒れないなんて……)


 俺も魔力が尽きそうになるまで使ったことがあり、非常に体が辛くなったことを覚えている。

 その時の全身を襲う脱力感で立つことすら難しくなることを知っているため、それを乗り越えた真さんの精神力は素晴らしいと思う


(無理やりにでも飲ませば起きるだろう)


俺はアイテムボックスから魔力回復薬を取り出しながら近づく。


「聖奈、これを飲ませて。口に流し込むだけでも良いよ」

「わかった!」


 聖奈が魔力回復薬を受け取り、口を小さく開けて液体をゆっくりと注ぐ。

 回復薬を一口飲んだ瞬間に真さんの指がピクリと動くので、安心して聖奈の肩に手を置いた。


「もう大丈夫だと思うから、真さんを競技場の外へ運んであげよう」

「うん……よかった……」


 軽々と真さんを抱きかかえたまま立ち上がる聖奈は、まだ座り込んでいる白間くんを一瞥してから歩き出す。


「白間くん、勝負が終わったので、競技場から降りてください」

「わ……わかりました……」


 副部長に声をかけられ、白間くんは落とした剣を拾ってから重い足取りで競技場を降り、指定された場所へ座る。

 俺も真さんの槍を拾い上げてから競技場を降りて、聖奈が真さんを介抱している場所へ向かった。


「続いて、水守真友さん、競技場へ上がってください!!」


 競技場では入部試験が再開され、真友さんが水の妖精を召喚しながら歩いている。

 真さんの傍に寄り添う聖奈に近づくと、真さんの手を力強く握っていた。


「真、すごかったよ! 紫色の魔力はスキルなの?」

「負けちゃった。あんな風に言われて絶対に負けたくなかったんだけどな……」


 聖奈の言葉が耳に届いていない真さんは悔し涙を流しており、腕で両目を隠す。


「真はこれから強くなれる! 一緒に頑張ろう?」

「ぐすっ……うん……強くなりたい……」


 泣き止まない真さんが聖奈と話している時、後ろの競技場で驚くような声が聞こえた。


「勝者、天草紫苑しおん!!」

「えっ?」


 副部長が勝ち名乗りをした相手は天草紫苑という女子生徒で、両手に短剣を持っている。

 競技場の外に翔がはじき出されて、いつの間にか勝っていた真友さんが駆け寄った。


「草凪澄人くん!! 競技場へ!!」


 俺も翔になんで負けたのか聞こうとしたところ、副部長に呼び出されてしまう。

 最後の勝負で部員が2敗してしまい、これ以上負けるのを防ぐため、本気にならざるを得ない。


 競技場へ上がりながら魔力を四方に展開し、雷の剣を数百本作り出す。

 いつでも相手を制圧できるように準備を行っていたら、俺の前に意外な人が立ち塞がる。


「なんで楠さんが?」


 俺の挑戦者として競技場に上がってきたのは、1年で唯一普通の生徒として入学した楠さんだった。

 競技場に上がってきた彼女は、戦う姿ではなく制服を着ており、武器も持っていない。


 そんな相手に雷の剣を向け続けることができず、魔力を飛散させた。


「私はここにいるほとんどの入部希望者に失望した!!!!」


 楠さんへ事情を聞こうとする前に、天草先輩がこの場にいる全員へ聞こえるように大声を出す。

 その声に耳を傾けつつも、目の前で俺を見据えてくる楠さんから目を離せない。


「この試験は、現1年生と勝負をして、勝利すれば選考対象になると発表した! なのに、彼女以外全員が戦闘という手段を選び、ことごとく選考から漏れる結果になった!! 誰がどの3年よりも強い草凪兄妹に戦って勝てと言ったんだ!!??」


 天草先輩は会場に来ていた入部希望者へ、喉が擦り切れると心配してしまうほど声を張り上げた。

 それを聞きながら、俺は楠さんと戦う以外の方法で勝負をするのかと察する。


「彼女は、これから草凪澄人くんと知識の勝負を行う! それが普通の生徒として入学した楠さんが彼に勝つために選んだ手段だからだ!!」


 紹介されるように名前を叫ばれた楠さんは、ゆっくりと競技場の中心へ歩き始めた。

 俺はこれからどんな勝負が行われるのか考えを巡らせながら足を進める。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございました。

次の投稿は4月13日に行う予定です。

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