入部試験⑬~入部挑戦者~

「このままだと試験に合格する人が出ないぞ……」


 入部試験が始まって、午後になる前にほとんどの希望者が敗退している。

 真さん、真友さん、翔の順番で戦っている試験では、1試合5分もかかっていない。


「あ、終わった」


 今、翔と戦っていた挑戦者が身代わりの水晶によって競技場の外に弾き出された。

 これで、聖奈以外の全員があと1回戦うだけとなった。


「みんな真剣に戦っているから、見ていて気持ちが良いな」

「そーだね」


 対戦が終わって背後にいる聖奈へ話しかけても、素気の無い返事をされる。


(1人だけ今日は1日見学って言われたらこうもなるか)


 後ろを振り返り、つまらなそうに床へ体育座りをしている聖奈の横に座った。 

 試験前に先生から呼び出されて、挑戦者がいないことを知らされてからずっと聖奈はこの調子だ。


(俺も似たようなものだけどな)


 また、俺への挑戦者が1人だけのため、最後に勝負を行うということを知らされた。

 膝を抱えてうらやましそうに競技場を見ていた聖奈が不憫に思えてくる。


「俺も1回だけしかやらないから、試験のあとにここを使わせてもらおうか?」

「いいの!?」

「1日ここを取っているって聞いたから、俺と戦おう」

「うん! お兄ちゃん大好き!!」


 大げさにはしゃぎ、聖奈が勢い良く立ち上がって俺へ抱き付いてきた。

 それをなだめながら引き離していると、競技場に真さんが上がる。


 俺の視線に気が付いた聖奈はハッと表情を変えて、競技場に近づく。


「真!! 頑張れ!!」


 朝から戦いを見ていて1度も応援をしなかった聖奈が真さんに向かって大きな声を出している。


「聖奈、急にどうしたんだ?」


 対戦相手の男性が上がってくるのを横目で見ながら、聖奈へ声をかけた。


「真の最後の対戦相手、私的には入部の有力候補者だよ」


 聖奈がそう言い切るのを初めて聞き、改めて真さんの対戦相手を良く【視】る。


【名 前】 白間 輝正

【年 齢】 16

【神 格】 3/4

【体 力】 9,000

【魔 力】 2,000

【攻撃力】 C

【耐久力】 D

【素早さ】 D

【知 力】 F

【幸 運】 F


 知力以外の能力的が高く、なぜこの人がAクラスにいないのか不思議なほどだ。

 ステータスでは翔と同じような能力のため、真さんは厳しい戦いを強いられることになるだろう。


 対戦が始まるのを熱心に見守っている聖奈の傍に立つ。


「あの人のこと知っているの?」

「名前は知らないけど、最初のクラス分けの時に私へ挑んできた人で1番強かった人だよ」


 聖奈は戦うことに関してはシビアで、思っていることをそのまま口にする。

 そんな妹が賞賛しているため、俺も彼に興味を持った。


「どんな感じに戦っていたんだ?」

「うーん……なんとか流剣術を使うみたい」

「なんとかって……」


 肝心なところを忘れている聖奈へ苦笑いを浮かべる。

 さらに質問をしようとしたら、競技場の中心で2人が武器を構えて向き合った。


「始め!!」


 審判をしている副部長が開始の合図をするが、2人とも動く気配がない。

 周りにいる見学者が息を飲んで中央にいる2人を注視していると、白間くんが剣を地面へ向ける。


「どうした? まさか、怖気付いているのかな?」

「そんなことっ!!」


 挑発されて真さんが薙ぎ払うために槍を振りかぶった。

 それに合わせるように白間くんが剣を振るったが、本来聞こえるべき音が聞こえない。


(武器同士が当たったはずなのに無音? そんなはずは……)


 白間くんを狙っていた真さんの槍は軌道が変えられており、剣と当たったとしか考えられなかった。

 それから何度も真さんが槍で攻撃をするものの、白間くんが剣で音を鳴らさずにいなしている。


 攻撃の手を止めた真さんが後ろに飛んで距離を取った時、聖奈が小さく思い出したと呟く。

 

「そうだ……皇流……」

「皇流? 師匠が警戒しろって言っていたやつか」


 聖奈から【皇流】という言葉を聞き、白間くんが相当腕の立つ剣士ということがわかった。

 師匠から剣を習い始めた時、警戒するべき相手として皇流剣術という名前を出した。


 皇流の達人と戦った場合は相手が空気のように感じられると聞いている。


(一切音がしなかったし、息も乱れていない)


 一気呵成に畳みかけようとしていた真さんの表情は歪み、大きく肩を揺らして呼吸が荒い。

 逆に涼しい顔をしている白間くんは、そんな真さんを見てゆっくりと首を振った。


「ミステリー研究部に所属していても、水鏡の家を出されたあなたはその程度なんですね」

「なにをっ――ゴホッゴホッ!」


 反論しようとした真さんが咳き込んでしまい、片膝をついて苦しそうに片目で白間くんを睨む。


「きみのことはよく耳にしていました……お情けでAクラスになった人だと」

「あいつっ!!」


 白間くんの言葉を聞いた瞬間、聖奈が競技場へ飛び上がろうとした。


「どうして止めるの!?」

「勝負が続いているだろう!? まだ行っちゃだめだ!!」


 それを後ろから羽交い締めのように抑え込んだものの、白間くんを仲間として受け入れる気が無くなった。

 別のところでは真友さんも翔によって止められている。


 そんな周りの反応を気にすることなく、白間くんは胸を抑えている真さんへ近寄っていく。


「いつも後ろにいる水の者が戦っていると聞いて楽しみにしていたのに、あなたのように弱い人でもこの部活で必要とされているんですね」


 さらに白間くんは真さんだけではなく、ミス研の部員全員を侮辱するようなことを言い、聖奈がさらに暴れる。

 止める必要があるのかと思って手の力を弱めようとした時、真さんの全身が【紫色】に包まれた。


「みんなを馬鹿にするな!!!!」


 真さんがそう叫びながら槍を振るうが、白間くんには届かない。

 しかし、真さんを包み込んでいた紫色の【もや】が白間くんに向かって飛ぶ。


「なんだこれは!?」


 全身を紫色のもやに覆われた白間くんは戸惑うような声を上げていた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございました。

次の投稿は4月10日に行う予定です。

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