入部試験当日~水鏡真の覚悟~
入部試験当日の朝、私はベッドの上で布団を抱え込んだまま一睡もできずに今日を迎えることになった。
昨日、選考会で戦った人たちの気迫に圧倒され、今まで何をしても忘れることができずにいる。
予想通り、選考会では私への挑戦者が一番多く、300名弱の戦いが終わったのは日が落ちる直前。
(あの戦いを勝ち残った人たちと私が戦わなくちゃダメなんだ……)
先輩たちが戦いを見つめる目を思い出し、体が震えてくる。
部員の見学は自由と聞いていたのに、昨日は澄人くん以外全員が揃って食い入るように戦いを見つめていた。
それ以上の視線が自分に注がれると思うと、体を自由に動かすことが出来ず、呼吸が荒くなる。
戦う順番も私が最初なので、時間に遅れるわけにはいかない。
(もう7時……そろそろ真友が迎えに来ちゃうよぉ……)
布団を抱きしめている腕へさらに力を込め、必死に体の震えを抑える。
「真ー? 起きてるー?」
ドアをノックする音と共に、真友が部屋の中にいる私へ声をかけてくれていた。
仲直りをしてからはほぼ毎日一緒に朝食をとっているので、行かないと変に勘繰ると思う。
重い体を引きずるようにドアまで近づこうとしたら、外から鍵が開けられた。
「真……?」
「おはよう、真友」
「おはよう? えっ!?」
扉を開けた真友が私の姿を見て、目を見開いて言葉を失っていた。
真友はもうハンタースーツをジャージの下に着ており、部活へ向かう準備を終えている。
着替えるために少し待ってもらおうと思ったら、真友が笑顔を向けてくる。
「着替えと準備をしていて、私は食堂から朝食を持ってくるわ」
「あ、ちょっと!?」
私が何かを言う前に真友が扉を閉め、食堂へ向かって行ってしまった。
平然を装うために戻って来るまでに着替えと準備を終わらせておく。
「真? 持ってきたから開けてくれる?」
準備が終わった直後に真友が戻ってきたので、慌てて扉を開ける。
すれ違うのには狭い廊下なので、隅に身を寄せて真友が通るのを待つ。
「お待たせ。食べましょう」
2人分のトレイがぎりぎり乗る大きさしかない机へ朝食が置かれ、真友が先に椅子へ座る。
体がまったく食事を受け付けなさそうな感覚しかしないが、空いている椅子に座って朝食と向き合った。
(今日は和食……アジの干物、好きなんだけどな……)
真友が両手を胸の前で合わせて私の方を見るので、軽く一息ついてから同じ動作をする。
「いただきます」
「いただき……ます……」
アジだけでも食べようと思って気合を入れて箸を持つ。
「私、昨日の選考会を見たからなのか、緊張して眠れなかったけど、真はどうだった?」
「え?」
「参加していた全員からミス研へ入りたいって伝わってきて、あの人たちと戦うのかと思ったら緊張してこない? そもそも天草先輩もいきなりすぎるのよね」
私は自分のことで精一杯になっていたが、真友の様子も普段とは違うように見える。
緊張していたのは自分だけではないことを知り、少しだけ心に余裕が生まれてきた。
「実は私も眠れなかったというか……目が冴えちゃって、ずっと起きていたよ……」
「そうよね……なら、少しでも動けるように、ちゃんとご飯を食べましょう」
「……うん」
真友が元気付けてくれたおかげで、いつもより時間がかかりつつも朝食を完食した。
一緒にトレイを食堂へ返却してから学校へ向かう。
「おはよう」
部室に着くと天草先輩の姿があり、今日の入部試験を受ける人の資料に目を通していようだった。
先輩へ挨拶を返してから椅子へ座り、荷物を机の上へ置く。
「真の対戦相手に
「はい……Bクラスの生徒ですよね」
私への挑戦をかけた戦いで一番目立っていた白間くん。
とても優雅に戦う人だなという印象を受け、なぜBクラスにいるのか疑問を持った。
(クラス分けの時、最初に挑んできた生徒って、聖奈さんが覚えているくらいだから強いんだよね……)
あまり人の顔を覚えない聖奈さんが知っており、入学当初よりも強くなっていると呟いていた。
先輩たちにも話を聞いたところ、Aクラスを除いた1年の中で1番強いという評価をしている。
天草先輩がこの試験を決める前も部員候補として残り、今回の選考会でも台頭した。
「彼は
天草先輩が剣術の名前を口にすると、真友が納得するようにうなずく。
「なるほど……それであの強さなんですね……」
皇流剣術は私でも聞いたことがあり、主に【
この剣術は草凪流剣術と比較されており、剣を使わない私でも耳にしたことがある。
(剛剣の頂点を【草凪流剣術】とするなら、柔剣の頂点は【皇流剣術】)
聖奈さんたちが使っている草凪流剣術は、防御ごと相手を叩き切る攻撃力に特化した剣。
逆に皇流剣術は相手の攻撃を受け流し、的確に相手を追い詰めて確実に勝つ剣。
(剣を使うのなら、草地くんに挑戦してくれれば気が楽だったのに……)
なぜか白間さんは槍を使う私と戦うために昨日の選考会へ参加をしていた。
(やっぱり、今の1年の中だと1番弱いから、入りやすいって思われているのかな)
そんなことを思い出しながら背もたれに寄りかかると、天草先輩が私へ笑いかけてくる。
「真、あまり気負わなくてもいい。これは私たちが仲間を探す試験なんだよ」
「仲間……ですか?」
一昨日の電話でも同じようなことを聞いたことだったが、あまり深く考えていなかったため、無意識のうちに聞き返してしまった。
すると、天草先輩は優しい笑みを浮かべて私の横に座る。
「そう。自分が背中を預けることができる人を探して、その人たちと切磋琢磨していく。そう心に留めてほしいな」
境界や異界などの特殊な空間で、信頼できる仲間が1人でも多くいると心強いことは身に染みてわかっている。
「わかりました!」
天草先輩の想いを受け取り、迷いなくうなずくことができた。
体の震えが収まり、自然と槍を握る手へ力が入る。
(私にできる限りの戦いをしよう!)
後ろ向きだった自分の気持ちを変え、一緒に過ごす仲間を見つけると思いを新たにすることができた。
それから、入部試験が始まる直前に聖奈さんと澄人くんが先生と一緒に来て、1年から3年までの部員が全員揃う。
2人が座ったのを見計らい、天草先輩が立ち上がる。
「みなさん、今日の入部試験よろしくおねがいします!!」
天草先輩のあいさつの後、私たちは入部試験を待つ生徒がいる地下の演習場へ向かった。
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ご覧いただきありがとうございました。
次の投稿は4月7日に行う予定です。
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