入部試験⑪~合宿所? 豪勢すぎるホテル~
(こんな豪華なホテルで合宿? 少し遠いけどここで休めるならいいな)
以前、同じ場所で境界探索を行った時には、山の麓にある民宿へ泊まった。
今回泊まるホテルはその時の建物とは比較にならない程に広く、内装も豪華に見える。
出迎えてくれた人たちが車の後ろに積んである荷物を運び出してくれており、草地さんが車を降りてきた。
「30分後に1階のレストランで早めの夕食をいただいてからここを出発しようと思うのですが、いかがでしょうか?」
草地さんが俺に向かって声をかけてくれていたので、他のみんなの表情を見てからうなずく。
「……そうしましょう」
すると、見計らったように荷物を持っていないホテルウーマンが俺たちの前に立ち、ゆっくりとお辞儀をしてきた。
「お部屋までご案内いたします。草凪澄人様、聖奈様、私に付いて来てください」
「は、はい!」
こんな体験が初めてなのか、名前を呼ばれた聖奈は体を強張らせて大きく返事をしている。
その行動に対して笑うことなく、ホテルマンの女性は流れるような動作で白いホテル内へ入っていく。
俺と聖奈が部屋に向かって歩き出すと、荷物を持った人が俺たちの後ろに付いて来ていた。
「水守真友様、水鏡真様」
俺たちを見守っていた別のホテルスタッフの方が、真友さんと真さんの案内を始めている。
ホテル内に敷かれたフカフカの絨毯を歩いていたら、聖奈が俺の袖を引っ張ってきた。
「お兄ちゃん、ここすごいね」
横を歩く聖奈がホテル内を見回しながら感動して、足元がおぼつかない。
聖奈が転ばないように注意を払いつつ、その意見に同意をする。
「そうだな。用意してくれた草地さんに感謝をしよう」
「うん」
エレベーターに乗って最上階に近い部屋に案内された俺と聖奈は、入り口で女性からカードキーを1枚ずつ受け取った。
「こちらがお部屋になります」
カードキーを扉の近くにある端末にかざすと鍵が開く。
荷物を持ってきてくれた人が部屋の中へ荷物を運び入れてくれており、ルームサービス等の説明を受けた。
(こんなところに宿泊できるのか)
話を聞きながら内装へ目を向けると、落ち着いていたため、穏やかな気分で過ごせそうだ。
一通りの説明を受けたあと、女性が改めて笑顔を向けてくる。
「なにかございましたら、フロントに電話をしてください」
「ありがとうございます……ん?」
お礼を伝えても、まだ女性がこちらを見つめていた。
何かと思って首を傾げていたら、女性が両手を胸の前に添えてゆっくりと頭をさげる。
「ゆっくりお寛ぎくださいませ」
「は、はい……」
聖奈は戸惑いながらも返事をしており、その姿を見ていた俺まで軽く緊張している。
女性が部屋から退出するのを見送っていたら、ボフっという音が聞こえてきた。
「このベッド、すっっごくフカフカだよ!!」
白い布団が敷かれたベッドへ飛び込んだ聖奈が感触を確かめるように何度も両手をバタバタとさせている。
ベッドが置かれた部屋だけでも12畳ほどあり、リビングのようなところもあった。
しわ1つないシーツが敷かれたベッドへ腰をかけ、一息つく。
「なんでこんなホテルを取ってくれたのかな?」
「前に泊まった便利なところが一杯だったんじゃない? ここのホテル、一泊5万円するみたいだよ!!」
聖奈がスマホでこのホテルの宿泊プランを検索して、画面を俺へ見せてくれた。
その値段に仰天していたら、もうレストランへ向かう時間になっている。
「時間だから、準備をしてレストランへ向かうぞ」
「はーい」
名残惜しそうにベッドから出た聖奈とレストランへ向かう。
レストランでは草地さんが個室を予約しており、そこで軽く食事をしながら作戦会議を行った。
食事と準備を終えてから草地さんの車で山間部に着いた頃には夜が更けており、俺たち以外にもここへ来ている車が数台見える。
「では、さっそく始めましょうか」
着いてからすぐに境界の探索を始め、2ヵ所の境界へ突入することができた。
境界ミッションでポイントを獲得することもできたので、満足のいく結果だった。
境界から搬出した貴金属をアイテムボックスへ収納しながら、外で待ってくれていた草地さんへ話しかける。
「予定通り、これで終わりにしましょう」
「澄人さん、少々お待ちください」
今日はもう時間が時間なので、帰ろうとしたら草地さんに呼び止められた。
その後ろにはなぜか境界の計測機器を背負った翔がおり、草地さんが申し訳なさそうにしている。
「澄人さんが異界探索に参加をする実績作りのため、今からできるかぎり境界を探していただけませんか?」
ホテルに案内されたときから何かあるとは思っていたが、この程度なら断る理由もない。
「境界を探すだけでいいんですか?」
「できれば、より多く見つけていただければ助かります」
計測機器を背負う翔と目が合い、境界を探し出して危険度の測定を俺がやらなければならないことを悟る。
「わかりました。翔を連れていけばいいんですよね」
「はい、必要な機材は用意したつもりですが……問題ございませんか?」
草地さんが用意をしてくれた機材が清澄ギルドで使用しているものと同じものだったため、なんの支障なく計測が行えそうだった。
問題ないと言うことを伝え、自分の感覚へ神経を傾ける。
突入した境界がEとFだったので、体力には余裕があった。
(唯一の懸念事項は……翔だな……)
ただ、前線で剣を振るっていた翔に疲労の色が見えるので、長時間連れまわすと明日の突入に影響が出そうだ。
翔へは適度に治療を行って、体力を回復させたいと思う。
「じゃあ、できる限り探してきます」
境界が複数発生しそうなため、小走りで向かうことにした。
4人に見送られながら走り出すと、翔が機材をカチャカチャと鳴らしながら付いて来る。
急いだおかげで境界線が生まれそうな瞬間に間に合い、翔が持っている機材の設置を行う。
(それにしても……おかしいな)
危険度の計測を行いながら、俺はふと周りに目を配って周囲の様子を気にした。
雷を展開しても俺たち以外に誰の気配もない。
(あれだけあった車に乗っていた人たちは何処へ行ったんだろう?)
この境界発生地の近くにある駐車場には少なくとも10台以上の車が停まっていた。
その人たちの姿が見えないことを疑問に思いながら、俺は10カ所以上の境界を発見する。
日が変わる前に草地さんから終わるようにと連絡が入ったので駐車場へ向かっていると、たくさんのハンターの人たちとすれ違った。
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ご覧いただきありがとうございました。
次の投稿は4月1日に行う予定です。
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