入部試験⑧~入部試験についての質問~
「澄人くん、どうぞ」
「はい。入部試験の人数制限や、僕たちが対戦する人数に規制はありますか? また、この試験内容では、一部の部員へ集中しそうなのですが、対策はありますか?」
対戦相手が全校生徒になっているため、全員が希望をしたら何回戦うことになるのかわからなかった。
俺や聖奈なら草根高校の生徒相手にいくら戦っても支障はないが、他の3人は厳しいものがある。
それを踏まえて質問をしたところ、天草先輩は腕を組んでゆっくりと首を左右に振る。
「人数や対戦回数に制限を設けるつもりはないわ。きみたちは挑まれただけ対戦してもらうつもりよ」
「それなら、なおさら僕や聖奈へ挑む人が出ないと思うんですが、その点はどうするつもりですか?」
「確かに……君たち2人に勝つのは、教員でも苦戦するのは生徒全員が知っている……ね」
3人へ対戦が集中しそうなことが安易に想像できるので、改善してもらわないと【遅い者勝ち】になってしまう。
1人目と50人目ではこちらの疲労度が違うことも追加で説明をしたら、部長が俺と天草先輩に手を向けた。
「そこまでだ」
天草先輩が言いよどんだのを見計らって部長が強制的に会話を中断する。
手を降ろしてから部員を見回し、1度息を軽く吐く。
「これから今まで話し合った内容をまとめて、試験日当日までにこちらで煮詰める。1年生は体調を整えておいてくれ。以上、解散」
部長は笑みを浮かべながら、部員へ早く帰るように声をかけていた。
少し言い足りない部分もあるが、特に配慮してほしいことは伝えたと思うので、何も言わずに部室を出る。
(入部試験まで残り2日……できれば今日の夜も境界へ行きたいけど……)
魔力回復薬を購入するためにポイントを消費してしまったため、境界ミッションをこなすために境界へ行きたい。
外に出てから空を見上げても、日が長い夏の太陽はまだ頭上にある。
今、お姉ちゃんや夏さんはアジトにこもりっきりで試験対策をしているため、夕食の時間を気にすることもない。
(聖奈に晩御飯のことを言っておけばこれから境界へ行ける……それと、翔はどこだろう?)
境界へ突入するために聖奈と翔を探すために立ち止まり、後ろを振り返ろうとした。
「痛っ!?」
「おっと?」
後ろから誰かが俺へぶつかってきたので、その人がよろけて転ぶ直前に腕を取る。
背中へ腕を回すと相手が真友さんだとわかったので、何だろうと思いつつ体勢を整えてあげた。
「あ、ありがとう……」
「急に立ち止まってごめんね。俺に……何か用?」
真友さんのことを助けていたら、後ろから聖奈や翔もこちらへ来ていた。
ミステリー研究部の1年生5人が勢揃いして帰宅することがあまりないので、首を傾げていたら、頬を赤くした真友さんが咳払いをする。
「その前に、澄人くん。手を……離してもらってもらえる?」
「ごめん、それよりどうしたの?」
俺が手を放すと真友さんが恥ずかしそうに数歩離れ、深呼吸を行う。
「これからみんなで境界へ突入したいと思っているんだけど……境界を探してもらえないかな?」
「いいよ。俺もそうしたいと思っていたんだ。どこへ行くの?」
「澄人くんが良ければ、草地くんのおじいさんが引率してくれるって言ってくれているから、北部の山間地へ行く予定よ」
「へー、そこまで相談してあったんだね」
真友さんの後ろにいる翔はなぜか苦笑いで俺の方を見ており、何かを言いたそうにしている。
それは真友さんや真さんたちも同様で、不思議に思っていたら、聖奈が俺の腕を引く。
「お兄ちゃん、それでね。夏休みだし、もしよければ泊りで行かないかって言ってくれているんだけど……どうかな?」
「草地さんと、俺たち5人でってこと?」
「うん。お兄ちゃんさえよければ、香さんを説得してもらいたいな……」
聖奈が願うように両手を合わせて、甘えるような上目づかいをしてきている。
境界へ突入できるのに断る理由はないので、うなずきながらスマホを取り出す。
「わかった、電話をするよ。何時に出発するの?」
「じいちゃんが1時間後から迎えに回るって言っていたよ」
翔がスマホを眺めながら教えてくれたので、お姉ちゃんへ連絡をするために電話マークをタップする。
お姉ちゃんの連絡先を探している最中に3人が準備をするというので帰ったため、聖奈も先に行かせた。
歩きスマホはしたくないので、学校のベンチに座りながら電話をかける。
しかし、お姉ちゃんのスマホに繋がらず、夏さんにかけても出てくれない。
あまり使わないと言われていたアジトの固定電話へかけると、ようやく相手が出てくれた。
「はい、こちらは清澄ギルドです。現在休止中のため、ご依頼を受けることが出来ません。緊急の方はハンター協会まで連絡をお願いします」
無機質な案内が一方的に流れたあと、電話が切られる。
一応連絡をしたものの、通じないという理由だけで一方的に泊りで家を空けるのは良くない。
(急に決めたのはこっちだからな……仕方がない……行くか!)
準備を聖奈に任せて、俺は直接アジトへ出向いてお姉ちゃんから許可を得ようと思う。
手に持っていたスマホで聖奈へメッセージを送り、アジトへ向かって走り出した。
「来たよー、誰かいますかー?」
アジトに着くと誰の反応もなく、中に足を踏み入れても誰かが動いているような気配もしない。
活動をするための場所には誰もおらず、さらに奥にある個々に割り当てられた部屋にいると思い、足を進めた。
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ご覧いただきありがとうございました。
次の投稿は3月26日に行う予定です。
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