入部試験⑥~大量発生の謎~
遥か彼方からこちらへ向かってくるモンスターは様々な種類が入り乱れ、我先にと逃げているように見えた。
他の部員が戦っている場所を迂回しつつ、モンスターの流れに逆らうように先へ進み出す。
(明らかにおかしい……どうなっている?)
何度も雷の刃を展開して襲い掛かってくるモンスターだけを倒そうとしたら、見向きもしなかった。
後方で戦う部員たちも手を出さなければ戦わずに済むのかと思ってしまう。
「ギャオオオオオオオオオ!!」
ふと、動物型モンスターの断末魔のようなものが聞こえたため、足を止めて気配察知のために雷を展開する。
気配が多すぎて判別ができず、雷に頼らず目視で確認をしようとしたら、1匹のモンスターが足元から【溶けて】いた。
「地面が……おかしいのか?」
そばを通る様々なモンスターは俺のことを無視して一目散に大地を駆けており、1匹のモンスターが完全に地面へ吸い込まれていった。
なぜか、地面が溶解攻撃をしてくるという異常事態が発生しているとしか思い浮かばない。
そんな中、1つだけゆっくりとこちらへ向かってくる気配を察知した俺は、剣を抜いて帯電する。
(あいつが原因? ……あれはなんだ!?)
モンスターが俺を避けて通り、紫色の土埃が舞う中、灰色の塊が浮遊してくるのを雷が察知した。
「液体? ……まさか【あれ】か!?」
灰色で丸いものが浮遊しており、よく見ると地面と線のようなもので繋がっている。
全てを溶かすという灰色の湖で見た液体と同じ色をしており、悪い予感が当たってしまったようだ。
周囲にはもう逃げているモンスターは存在せず、草木が地面に吸い込まれるように消えた。
あんなのが相手では金属の剣を使うと危険なので、アイテムボックスへ放り込みつつ魔力を充填する。
「火の精霊よ!! あの水をすべて蒸発させろ!!」
灰色の球体ごと液体を蒸発させるように辺り一面から炎が上がり、上空へ渦を巻くように火柱が立つ。
しかし、それでも灰色の液体は消えることなく、炎の渦をもろともせずにゆらゆらと俺へ近づいてきている。
球体を注視していたら、身震いをするように1度大きく揺らめく。
「……なんだ? クッ!?」
球体の中から槍状の液体が高速で吐き出され、避けると後ろの木々を溶かしながら貫通していった。
触れることのできない相手にどうしようかと悩むことはなく、俺は再度魔力を手に込める。
「メーヌ!! あいつの周辺にある大地をできるだけ圧縮しろ!!」
魔力を解き放つと同時に、大地がえぐれながら集まり、灰色の球体を覆う。
草薙の剣で葬り去るのも考えたが、神気を解放してしまって神の一太刀が使えないため、今考えられる最善策を実行する。
グラウンド・ゼロを発動させて、手のひらが白く光った。
(5万で半径約1キロを消滅させる威力だから、今回は1万もあればいいか)
メーヌが土を集めている最中、中の液体は動く気配が無い。
ステータス画面を見ながら注ぎ込む量を調節し、1万程度減ったところで光を解放する。
「グラウンド・ゼロ!!」
俺の周囲に透明な膜が展開され、赤を含んだ光が閃光と共に爆発した。
前回よりは控えめな炸裂音だったが、メーヌによって集められた土塊は消滅し、俺の周囲にクレーターが出来上がる。
焦土に変えてしまった大地を治すべく、魔力回復薬(大)を購入して魔力を込めた。
灰色の球体が残っている気配はなく、周りの地面から灰色の液体が染み出てくる雰囲気も無い。
(一応、メーヌで周辺の土壌を調べるか)
穴を塞ぐ前にクレーター周辺の地面が灰色の水に浸食されていないのかメーヌに調査をしてもらう。
「澄人くん!? 今の爆発はなに!?」
「お兄ちゃん!! 大丈夫!?」
土壌調査を終えた時、真友さんや聖奈がこちらへかけつけてくれた。
2人とも俺の後ろにあるクレーターを見て目が釘付けになってしまったので、慌てて穴を埋める。
「驚かせてごめん、ちょっとスキルを使っただけだよ」
「ちょっとって……私の妖精、さっきの衝撃で前に出てくれなくなっちゃったんだけど……」
真友さんの背中からひょっこりと顔を出す小さな水の妖精は、怯えるように俺のことを見ていた。
妖精の感情は主人に大きく影響するため、真由さんも不安に思っていると思われる。
魔力の消費量を考えたらあまり乱発できるようなスキルでもないので、これからも多用しないように注意をすることにした。
それよりも、戦力である2人がここに来てしまっていたので、向こうの様子が気になる。
「聖奈もこっちへ来て、あっちは大丈夫?」
3年生が加勢しているとはいえ、モンスターの数も相当増えているはずだ。
俺を回収してから再び戦いに行くと思っていた矢先、聖奈が剣を鞘へ入れていた。
真友さんがクレーターのあった場所に目を向けつつ、俺に近づいてくる。
「副部長が先生を呼びに行ったから問題ないよ。それに、モンスターはただ逃げているだけみたいだから、もう戦っていないの……私たちは澄人くんを助けに行くように言われたから来たんだけど……」
何もなくなった地面に目を向けつつ真友さんが状況の説明をしてくれていた。
先生が来ているのなら話が早いため、俺は灰色の湖を確認する許可をもらいにいくために2人へ声をかける。
「すぐに戻ろう。今日のことについて先生の指示を仰がないといけない」
周りにモンスターの気配がないことを確かめてから走り出すと、2人が驚きながら追いかけてきた。
平義先生の周りには部員が集まっており、天草先輩が負傷した人を治療している。
「平義先生!」
「澄人、なにがあったんだ!?」
慌てて駆け寄ってくる平義先生へ、俺は他の部員が聞こえるように灰色の球体のことを説明した。
そのあと、灰色の湖がどうなっているのか調査に行かせてほしいと口にしたら、先生が渋い顔をする。
「原因を解明しなければ、今後も同じようなことが起こると思いますよ」
「それはそうだが……俺はこいつらを帰さなければいけないし……お前1人で行かせるのもな……」
先生は満身創痍の部員に目を向け、腕を組みながらどうしたものかと小さくつぶやいた。
「平義先生、余力の残っている聖奈と天草、澄人の3人で向かわせましょう」
「
ハンタースーツがボロボロになっている部長が平義先生に話しかける。
怪我をしているのか、部長は左腕を押さえており、満身創痍で今にも倒れそうだった。
先生はそんな部長を肩で支え、深く深呼吸をしてから俺へ目を向ける。
「聖奈! 天草! 集合しろ!!」
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ご覧いただきありがとうございました。
次の投稿は3月22日に行う予定です。
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