入部試験⑤~部活に参加している理由~
みんなが異界に入ってから感じたことを口にしたら、聖奈が頭をかかえ、部長や天草先輩が目を見開く。
誰も何も言わないので、モンスターと戦っている人たちを見ながら言葉を続ける。
「思った通りですが、あの集団は目の前のことで精一杯になっていますね。周りを気にする人がいないので、向こうから来ているモンスターに対応するために陣形を組み直す余裕もないです……どうしますか?」
1年の3人は今戦っているモンスターだけでも手一杯になっており、誰も周りを気にしていない。
俺はできるだけ手を出さないようにと言われているので、部長へ判断を仰いだ。
すると、なぜか天草先輩が眉間にしわをよせて俺と部長の間へ割り込んできた。
「澄人くん、きみはどうして部活に所属しているんだ?」
「1年は強制参加と聞き、この部活は定期的に異界に入れるので所属していますけど……それがなにか?」
「誰かに憧れてとか、そういった理由は――」
「まったくありません」
天草先輩がこんな状況で部活に所属している理由を俺へ質問してきたので、はっきりと答える。
ただ、真剣な表情を一切崩さないため、先輩的には重要な内容のようだ。
俺の答えを聞いた天草先輩はゆっくりと深呼吸をした後、真友さんたちの方へ目を向ける。
「なら……あれを見て何を思っているの?」
「そうですね……」
真友さんたちの後ろからモンスターが襲撃しており、2年生がなんとか戦おうとしている。
しかし、武器を振るうものの、今まで戦ったことがないような獰猛なモンスター相手にどうにもできなくなり、2年生全員が恐怖で顔から血の気が引いていた。
それを1年生がフォローするように守っており、聖奈が今にも助けるために走り出しそうだ。
「なんで2年生がさっさと逃げないのか不思議ですね。そうしてくれないと1年生が悠々と戦えません」
「ほ、本気で言っているのかい?」
「優先するべきはゲート周辺の安全確保ですよね? 何か間違えていますか?」
この部活の役割を考えれば、2年生が残っている方が活動に支障をきたしている。
今回はいつもとは違うモンスターと戦うことで、1年生も守りに入っているように見えた。
「もうだめ!! 先輩! 信じていますから!!」
そんな時、聖奈がそう言いながら土を蹴り上げてこの場を離れる。
真友さんの妖精による水の防壁が破られ、モンスターが2年生に向かって襲いかかろうとしていた。
3人が抑えられなくなったモンスターが2年生を襲う直前に聖奈が到着して、事なきを得る。
(あの量のモンスター……今までどこにいたんだ?)
聖奈を含めた1年生4人が全力で戦っても倒しきれない量のモンスターがどこから来ているのかが気になった。
まだ後続のモンスターが来ているので、それを辿れば原因がわかるかもしれない。
「澄人くん……きみはあれを見てもまだ何とも思わないのかい?」
モンスターの導線を追っていたら、天草先輩が唇を噛みしめて俺を見据えていた。
その後ろでは3年生が俺と天草先輩に注視し、固唾を呑んで見守っている。
「あのモンスターがなぜ急に現れたのか気になりました。原因を探りに行こうと思うのですが……部長いいですか?」
「そう……きみがそこまでとは思わなかった!」
腕を組んであの先には何があるのか確かめたい気持ちを抑え、部長から許可が出るのを待つ。
しかし、部長は困惑してしまい俺へ何も言わず、天草先輩が3年生の方を向いた。
「部長! 私が部長になったら、彼を御せると思いますか!?」
「澄人くんはルールには従う……目が行き届いている限りは大丈夫だろう」
部長が実感のこもった言い方をしており、うなずきながら天草先輩へ言葉をかける。
それを聞いた天草先輩は俺をキッと目に力を込めて、息を大きく吸い込む。
「わかりました! 彼に任せるくらいなら、私が部長になって部のみんなを導きます!」
なにか思うことがあったのか、数分前まではうつむいて泣いていた天草先輩が覚悟を決めた顔で言い放つ。
すると、急に俺と目を合わせた天草先輩は、地面に向かって指をさす。
「澄人くん。あなたはここで今から私が指揮をする1,2年生の戦いを見ていなさい」
「わかりました」
俺の返事を聞いた天草先輩はこの場から離れ、1度も振り返ることはなかった。
着くまでの時間を稼ぐために少しだけモンスターの動きを鈍らせていたら、部長が俺の横に並ぶ。
「天草を奮い立たせてくれてありがとう」
「俺は好き勝手にやっているだけですよ。部長が一番わかっているんじゃないですか?」
「ハハハ! 確かに!」
高笑いをする部長は、俺が突入するときにだいたい同じチームで参加しており、どんなことをしてきたのかわかっている。
それに、俺の目的をいち早く見抜き、役割を早く終えたら自由にしてもよいと提案してくれていた。
「合流しましたね」
天草先輩が号令をかけると、今までしり込みしていた2年生が表情を変えてモンスターに立ち向かう。
2年生は消耗している1年の数名をかばい、モンスターの攻撃をいなす。
複数の箇所で展開している戦闘をすべて天草先輩が指示を出し、1体1体確実にモンスターを討伐する。
「先輩は視野が人よりも広くて、個々の状態を完璧に把握できるんですよね」
「ああ……天草はそれが天性のものだと分かっていないんだ」
ふかんしているかのように広い視野で戦いを把握し、鋭い洞察力で部員の容態を観察していた。
同じ事を普通の人にできるはずもなく、天草先輩は能力的にも指揮官に適している。
それらのことを踏まえて説得をすればこんなことにはならなかったと思いつつ、いまだに減らずに押し寄せてくるモンスターが気になってしまう。
「部長、やはりこの量はおかしいです。行かせてもらえませんか?」
「3年も加勢する。澄人、原因だけでも調べてきてくれ」
「わかりました……部長」
「なんだ?」
3年生へ指示を出そうとしていた部長を引き留めて、俺はモンスターが次々と来ている方角へ指を向ける。
「あそこに合流する前なら殲滅してしまっても構いませんよね?」
部長は俺と目を合わし、呆れたようにため息を1度ついてから背を向けた。
「好きにしろ」
「そうします!」
ようやく許可が出されたため、俺は魔力に【雷】と【剣】の親和性を付与して、数百の雷の刃を作り出す。
稲妻が迸る刃は俺の頭上から放たれ、黄色い軌跡を描いてモンスターへ襲いかかった。
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ご覧いただきありがとうございました。
次の投稿は3月20日に行う予定です。
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