憤怒の草凪聖奈~気に入らない先輩~

「うぉりゃああああああ!!!!」


 剣に魔力を纏わせて、襲いかかってきていた大型動物モンスターを両断する。

 今回は群れが近くにいたのか、いつもの活動とは比べ物にならない程のモンスターが現れていた。


 そんな中、足手まとい・・・・・の2年の先輩たちを守りながら戦わなくてはいけないので、神経を使う。


(どうしてお兄ちゃんはこんなことを!? 何の意味があるの!?)


 今、異界でモンスターと戦っているのはほとんどが1年生で、2年生は固まって慌てふためいている。


 確かにお兄ちゃんが突然異界へ突入して、なし崩し的にこちらへ来ることになったが、それでも何もできない人たちだと感じてしまう。


 弱いと思っていた草地くんでも一端に戦えるようになっており、2年生との差は広がるばかりだった。


(これもみんなあいつ天草瑠璃のせい……指示ぐらい出しなさいよ!!)


 あいつは支援をしているせいか視野が広く、個々の能力が頭に入っているので、適材適所の采配を取ることが出来る。


 あまり認めるのは悔しいが、どう考えても私より指揮官に向いていた。


 ただ、今はなぜかお兄ちゃんと距離を置き、部活を辞めるという意思を示している。


 私にはその意味が分からず、直接聞こうとしたら真友や真に止められたので、我慢をして様子を見ていた。


(嘘!? まったくこっちを見ていないじゃない!! なにやっているの!?)


 切り捨てたモンスターから目を離して天草先輩がいる場所へ目を向けると、なぜか泣いて副部長に背中を撫でられている。


 こんな大量のモンスターに囲まれている状況で、呑気にそんなことをやられては本当に誰かが犠牲になりそうだ。


「はぁぁぁあああ!! おりゃあああああ!!!!」


 魔力を注ぎ込んだアダマンタイトの剣を全力で抜き、私の斬撃が10メートル以上離れたモンスターに届く。


 お兄ちゃんの光の剣には程遠いが、自分の周囲からモンスターを掃討するには十分な威力がある。


 伝えることがあるので、剣を何度も全力で振り、真友や真が先輩たちを守りながら戦っている場所へ近づいた。

 

「真友!! ちょっとここを任せてもいい!?」

「大丈夫!! けど、もって10分!! ……あそこに行くの!?」


 真友は3年生が待機している場所へ一瞬だけ視線を移す。

 その問いにうなずき、先輩たちを正面に見据えて剣を持っている手に力を込めた。


「そう!! 行ってくる!!」

「任せるわ!!」

「殴ってでも連れてくる!!」


 真由の頼んだという声を背中に受け、動物系モンスターをかいくぐりながら先輩たちがいる場所へ向かって走る。

 私が近づいていることに気付いた数人の3年生がうろたえ、追ってきたモンスターを切り捨ててから天草先輩の傍に立つ。


「ちょっと! いつまでそうやっているつもり!?」

「聖奈さん……今は……」

「部長は黙っていてください! 私はそいつと話をしているんです!!」


 部長が私をなだめようとしてきたので、そんなことをしている場合じゃないと押し退けた。

 真友たちが必死に2年生を逃がしながら戦う方向へ手を向ける。


「この状況わかってる!? 3年生が参加しても無事に倒せるのかわからない量よ!? あんたにできることをやりなさいよ!!!!」


 こんなことは口を裂けても言いたくなかったが、現状なんとかしてくれるのはこいつしかいない。

 2年生が心から信頼しているのはこいつだけなので、私やお兄ちゃんにはできない役割だ。


 しかし、先輩は私がこれだけ言っても動こうとせず、こちらと目を合わそうとしない。


「私じゃなくてもいいじゃない!! こっちじゃなくて、あなたのお兄さんに頼みなさいよ!!」

「どこにお兄ちゃんがいるのよ!! 自由にしていてもいいって時間を与えたんだから、好きなように異界を探索しているに決まっているじゃない!!」


 確かに、お兄ちゃんなら周りのことを気にせず、モンスターを掃討してこの窮地を救ってくれる。

 ただ、それをしたらお兄ちゃんはおそらく自分1人で異界に突入する時間を限りなく増やしてしまう。


(そうか……先輩はお兄ちゃんと同じチームになったことがなかったんだっけ……)


 私の言葉を聞いて、納得するようにうなずいている3年生とは逆に、天草先輩は目を丸くして驚いていた。

 これまで支援役を分けて、お兄ちゃんが異界で何をしていたのか知らない天草先輩へ事実を突きつける。


「お兄ちゃんはね、担当する区域のモンスターを勝手に倒して、後の時間は1人で異界を探索しているのよ!? そんな人がまとめ役なんかになったら、他の人はただついていくだけになるわ!! そんな部活にしてもいいの!?」


 私の焦りに3年生たちが複雑な顔をしながら同意するようにうなずいていた。

 まだ周りとコミュニケーションをとっている私とは違い、お兄ちゃんは異界へ突入する最低限のことしかしようとしない。


(徹底しているからお兄ちゃんはそれでいいし、私は私でやりたいことをやらせてもらっているから、それでもかまわない。それに……)


 直接聞くのが怖いが、おそらく3年生や2年生の大半の部員の名前をお兄ちゃんは知らないだろう。

 そんな人がこの部活をまとめようとしないのは、目の前で唖然としている天草先輩以外全員が分かっていた。


「嘘だと思うなら周りを見て!! 私が間違ったことを言っていないのがわかるから!!」

「え……本当に?」


 ようやく天草先輩が周りに目を向け、私の言葉が真実であることを信じてくれているようだ。

 2年生でも指示があれば今相手をしているモンスターとも戦うことができ、私達に余裕ができる。


(真友たちから託された時間は残り3分弱、その間に先輩を説得できなかったら……剣を折る勢いで戦おう……)


 そのような打算をしていたら、急にモンスターの動きが鈍くなり、真友たちが戸惑いながら戦っていた。

 私はかすかに足音が聞こえた方向に視線を移し、ため息をつく。


「なんか、向こうが危なそうだったんで一通り感電させておきました」


 離れていてもお兄ちゃんは的確にモンスターだけを感電させ、真友たちだけでもモンスターを殲滅できそうなくらい弱らせることができる。

 あっけらかんと森の奥から現れたお兄ちゃんが私を見て首をかしげた。


「あれ? なんで聖奈がここにいるの?」


 この状況についてなんて伝えればいいのか迷ってしまい、天草先輩へ目配せをして助けを求める。

 すると、天草先輩は涙を拭いて、お兄ちゃんに向かって1歩踏み出す。


「ねえ、澄人くん、1人だけ先に異界へ入ってなにをしていたのかな?」

「今日は峡谷がどこまで深いのか確かめていましたけど……それがどうかしました?」


 詫び入れもなくそう口にしたお兄ちゃんは少しも悪いと思っていない。

 それどころか、腰に手を当てて残念そうに首をゆっくりと左右に振った。


「あの人たちは異界に入ってから迷いすぎですね。もっと早く決断してほしいです」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございました。

次の投稿は3月18日に行う予定です。

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