入部試験④~大陸を断ち切る峡谷~

「メーヌ、向こう岸まで道を作ることはできそう?」

「うーん……今の澄人と僕の力じゃできないよ」


 独り言のように呟くと、メーヌが子供のような声で残念そうに答えてくれた。

 道が作れないとわかったので、次は谷底へ目を向ける。


「下へ降りるしかないか……足元に少しずつ階段を作ってくれるかな?」

「それくらいなら簡単だよ! 必要なくなったら魔力を切ってね!」


 淡い茶色の光が足元に広がったと思ったら、絶壁から階段が生え始めた。

 雷で下からなにか来ないのか警戒しながら、次々と生えてくる階段を下りる。


 降りた段数が千を越え、どこまで下があるんだと思い始めた時、底へ伸びていた雷が動く複数の気配を察知した。


(モンスターにしては小さい……けど……まさかな……)


 そこにいる気配が人に似ているため、俺たち以外に異界へ入ってきている集団がいるのかと警戒した。

 ただ、これだけ降りてもまだしたが黒いまま何も見えないので、はっきりと断定することができない。


(雷の有効範囲は1キロ……そこに歩けるような場所があるのか)


 感覚的に200メートル程降りてきているので、後5倍以上の階段を作る必要がある。

 神器をさらに開放して一気に壁を下ることもできなくもないが、相手に気付かれる可能性があるのでできれば避けたかった。


 ただ、地面があると分かっても、相変わらず底が見えないことが不思議でたまらない。

 その謎を解明するべく、俺はメーヌへ魔力を送る量を増やした。


「行けるところまで進むか……先が見えたから少しペースアップしよう」


 気配の正体と黒い景色の謎を解明するため、階段を駆け足で下り始める。

 階段を降りるにつれて、なぜか黒い景色がどんどん近づいてくるような感覚になり、先を見ながら眉をひそめた。


 黒いなにかが眼前に迫って来た時、淡い光が俺の前に現れる。


「澄人! これより下に階段が作れないよ!」

「おっと!!」


 メーヌの声がもう一瞬遅かったら、階段のない空間へ足を踏み出すところだった。

 今乗っている階段から身を乗り出してみたところ、触れることのできない黒いもやのようなものが広がっている。


(なんで雷は通るのにメーヌが階段を作れないんだ?)


 地面に近づいたため気配がはっきりと感じられるようになり、この下に人がいるということがはっきりとわかった。

 魔力が通らない空間だというのなら雷も遮断されるので、メーヌが階段を作れないという理由がわからない。


 黒いもやの中に腕を突っ込んでみたところ、これより下にあると思っていた【もの】がないことに気が付いた。


「壁が……ない……」


 黒いもやの先にもあると思っていた絶壁がなく、ここがどのように維持されているのかわからなくなる。

 異界が常識の通じない場所だと言うことは知っていたが、理解できないことが多すぎる。


 しかし、ここまで降りてきたおかげで対岸までの距離が縮まっており、メーヌに道を作ってもらえばなんとか届きそうだ。


(下まで降りれば向こうへ行ける。もやの下に降りたら、戻ってこれるかわからないから、今日はこれで戻るか)


 あまりミス研の人たちを放っておいても良いことはなさそうなので、今日は戻ることにする。

 階段を上がりながら時間を見て、自分がどれだけここにいたのか実感した。


(もう1時間以上経っている……向こうはどうなっているかな?)


 黒いもやを後にし、俺は下った階段を見上げてため息をつく。


(今からこれを登るのか……頑張ろう……)


 落ちないように登りながら天草先輩と話をする内容について考える。


 突然異界へ突入してからまた戻っている可能性は低いので、おそらく他の部員が活動しているのを見ているはずだ。


(聖奈が異界に俺がいると分かっている状態で素直に戻るなんてことはしないからな)


 チームに従って行動しろと言ったものの、ここ異界に来てそのまま引き下がるような妹ではない。

 おそらく、誰かが戻ろうと聖奈へ提案しても、私だけでも大丈夫とモンスターを倒してくれていることだろう。


 そう思うと特に急いで向かうのではなく、もう少し時間をかけても良いかと思えてきた。


(聖奈を単独で戦わせる同級生を見せるのも良いし、何もせず下級生だけがなんとか戦っている光景を見ていたら、今の天草先輩にも現状が伝わるよな)


 そこで3年生が危機感を持って、引退までの間に2年生を鍛えてくれるのならさらに嬉しいので、俺はゆっくりと階段を登る。

 その間に、20万以上余っている貢献ポイントをどのように振り分けるのか考えることにした。


(テスト期間は後回しにしてきたからな……収集物を半分売ってポイントにしても良い)


 草原の試練で大量に手に入れたモンスターの収集物を手に入れたので、半分をポイントに換える。


【買取結果】

 合計:65,000P

 実行しますか?


 予想以上にポイントを獲得できそうなので実行を選択すると、別に緑色の画面が現れた。


【ミッション達成】

 買取累計ポイントが100,000Pを越えました

 以降、買取ポイントが1割増しになります


(なるほど……もっと活用すればどんどん高く買い取ってくれそうだな……)


 アイテムボックスで収集物をポイントに変換できることを知ったのが最近なので、あまり活用できていなかった。

 累計で高く買い取ってくれるのなら、これからは積極的に変換していこうと思う。


(そうなると……収集物を多く集めるために、【幸運】を上げるか)


 幸運はモンスターを倒した時に一定確率で収集物を自動でアイテムボックスへ回収してくれるため、買取機能を活用するには高くなくては困る。

 それを最優先にして、残りのポイントで能力を上げた結果、何とも特徴のないステータスになった。


(とりあえず、ここからは使うポイントが増えるから、少し溜まったら使うようにしよう)


 能力を上げ終わった俺はステータス画面を消して階段を上り続ける。


【名 前】 草凪澄人

【年 齢】 15

【神 格】 4/4

      《+1:500,000P》

【体 力】 15,000/15,000

      《+100:10,000 P》↑

【魔 力】 20,000/20,000

      《+100:10,000P》↑

【攻撃力】 A《1UP:100,000P》

【耐久力】 A《1UP:100,000P》

【素早さ】 A《1UP:100,000P》

【知 力】 A《1UP:100,000P》

【幸 運】 S

【スキル】 精霊召喚(火)・メーヌ召喚

      鑑定・思考分析Ⅳ・剣術Ⅱ

      治癒Ⅳ・親和性:雷S

      親和性:剣E・天翔Ⅳ

      グラウンド・ゼロ □

【貢献P】 32,000


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございました。

次の投稿は3月16日に行う予定です。

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