入部試験③~ミステリー研究部出動~
先生は付いてくることなく、いつものように部員だけで異界へ突入するようだった。
ゲートへ入る直前に、部長が足を止めて後ろにいる俺たちに向かって振り返る。
「今回は、1、2年生の課題を見つけるために突入をする。そのため、3年は離れた所で待機し、緊急時にしか動かない。また、支援役である天草、澄人もメンバーから外れる」
部長の言葉を聞いて他の部員に衝撃が走り、横にいた翔は俺の顔をじっと見つめてきた。
先生が部長へ今回の突入する意味を伝えてくれていたので、ここからは俺が天草先輩を説得しなければいけない。
「チーム分け等も俺たち以外で話し合って行え! 3年と2人は少し離れるぞ!」
部長に続いて、数名の3年生が心配そうに残っている部員を見ながら来た道を戻ろうとした。
「お兄ちゃん、待って」
俺も離れようと踵を返した時、聖奈が俺の袖をつかんで止めてきた。
待ってというよりも、止まれと命令しているような低い声を出し、俺を睨みつけてきている。
「私はどうすればいいの?」
聖奈へ顔を向けようとしたら、視界の端に天草先輩がこちらを見ていることに気が付いた。
タイミング的にはばっちりなので、聖奈はこの短い時間で何か感じるものがあったのだろう。
「チーム内で決めろよ。俺が指示することじゃないだろう?」
あえて突き放すように言葉をかけ、聖奈の手を振り払った。
それにより、一層聖奈の視線は厳しいものになり、ゆっくりと口角が上がる。
「私、最近我慢していることがあって、やりすぎるかもしれないよ?」
神格が上がって雰囲気をまとうようになった聖奈が少しだけ鞘から抜き、黒い剣を鈍く光らせた。
聖奈のステータスを視ながらその言葉を聞くと、思わず止めてしまいそうになる。
【名 前】 草薙聖奈
【年 齢】 15
【神 格】 5/8
【体 力】 25,000
【魔 力】 18,000
【攻撃力】 A
【耐久力】 C
【素早さ】 B
【知 力】 C
【幸 運】 D
ただ、好奇心でアダマンタイトの剣を聖奈が剣の親和性を発揮しながら全力で戦う姿は見てみたい。
俺の好奇心と、聖奈を3年生が抜けた後の部活へ解き放ったらどうなるのか知りたいという部活の意向が一致したため、迷うことなくこの場を離れる。
「それなら遺憾なく発揮してくれ、俺は止めないよ」
先輩たちと合流するために歩き出すと、この中で唯一聖奈の【本気】を見たことがある真さんが顔を真っ青にしていた。
丸縁メガネをかけた部長はゲートの前に残された部員を気にしながら、天草先輩に近づく。
「天草、どうして外されたかわかるか?」
「……私が部活を辞めようとしているからです」
「そうじゃない、今この部活がどんな状況か知ってもらうためだ」
「…………」
天草先輩はうつむきながら小さい声で最初の問いに答えて以降、黙ったまま顔を上げようとしていない。
すでにゲート周辺では俺や天草先輩がいないことにより、チーム決めもできないという事態になっていた。
(全く話を聞いていないし、周りを見ようとしていない……)
苛立っている聖奈や、何とかまとめるために2年生に意見を求める真友さんを見れば、なぜこんなことをしているのか一目で分かる。
それさえもできていない天草先輩は、部長とも話をしようとせず、泣きそうになりながら地面へ顔を向けていたままだった。
(自分のことしか頭にない。これは難敵だ)
どうしようかと迷いながら天草先輩の方へ視線を戻すと部長と目が合ってしまい、【頼めるか】と口の動きで伝えてきた。
(そもそも、部長や先生がこんなになるまで天草先輩を放っておいたのにも問題がある。明らかに追い詰められた顔をしていたのに、ほとんど助言をしてくれなかったって言っていたし)
俺は静かに首を左右に振り、部長へ【無理】という意思を届ける。
この状況を作ってもらった俺が断るとは思っていなかったのか、部長が目を見開いて硬直してしまった。
(今のまま俺が話をしても無駄だからな。部長、頼みます)
どこを見ても八方塞がりで時間だけが過ぎていくため、目を閉じて自分にできることについて考える。
(今はここにいてもやることがないな……あ、そうか。もう18時まで突入許可降りているだっけ)
太陽の位置を確認したら、まだ日が高く、探索時間が十分に確保できそうだった。
ライコ大陸についても調べていない場所が多く、別の大陸が発見できるかもしれない。
(俺は異界に
何気なく髪が腰ほどまで伸びた女性の副部長に近づき、困りましたねと声をかける。
副部長も眉をハの字にして困った表情で浮かべていたので、そのままのトーンで話を続けた。
「このままでは日が暮れそうなので、俺は先に突入しています」
「はっ? えっ? 澄人くん? どういうこと? ちょっと!!」
副部長は俺の言葉が聞き間違いかと思ったのか、聞き直そうとしてきている。
一言目が出る前には動き出しており、最後は副部長が俺に向かって叫ぶ。
(聖奈はあそこか! ルートはっ!!)
距離にして20メートル程しか離れていないゲートへ飛び込むのは数秒あれば可能であり、唯一反応できそうな聖奈の死角を突くため、誰も俺を止められないだろう。
俺は邪魔されることなく青い渦の中に体を滑り込ませ、異界へ突入した。
(ここからだ!!)
追いかけられても迷惑なので、異界に入った瞬間に神気を解放していち早くこの場を離れる。
マップを表示させてまだ隠されている場所を埋めるために全力で走った。
(ようやく一人目が突入か……相当慌てたらしいな)
俺が入ってから1分はかかっており、聖奈が突入してきているとしても相当遅れている。
(決断できないのも悪いところということで)
先生の口ぶりから、最終的に天草先輩を説得できれば何をしてもよさそうなので、これも課題の一環ということにしておけば角が立たないだろう。
気配では、先に入ってきた誰かを数人の部員が止めようとしており、その後に続々と突入してきている。
(この様子だとなんにも決まらずに突入してきたな……人数的に3年生と天草先輩も来ているから、しばらく任せよう)
ゲートの方に気配察知の雷を向けるのを止め、俺が進むべき方向に目を向けた。
「部室の地図には書いてあったけど、実際に見るのは初めてだな……」
俺は周りに目を向けて、大陸を切断するように横一直線に伸びている峡谷を確認する。
この峡谷の下にはなにもないのか、こんなにも広いのに底が見えない。
(どうしようかな……あれ? 何か見えるぞ?)
灰色の湖ほど離れた場所ではないが、僅かに陸地が見えるので、地図に記載されていないのか目を移した。
「嘘だろ……向こうもライコ大陸なのか……」
今回の目的は【ライコ大陸の探索】なので、向こう側に向かう理由ができてしまった。
俺はこの見たことがないほど深く広がっている峡谷をどう超えるのか考え始める。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ご覧いただきありがとうございました。
次の投稿は3月14日に行う予定です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます