入部試験②~部活の現状~

(今は3年生がいるから、なんとか部活として活動することができている)


 2年間異界で活動している3年生の存在は大きく、能力がナイト級程度しかないものの、ゲート周辺にいるモンスターを安定して倒していた。

 それが心の余裕にも繋がり、2年生のフォローも行ってくれているため、被害を最小限に抑えているという印象だ。


(これで3年生とまとめ役である天草先輩が抜けた時に集団として活動できるか疑問だな。俺は……これ以上探索が遅くなったら……)


 天草先輩がこの部活からいなくなったらどうなるのかを突きつければ、退部のことは考え直してくれるかもしれない。

 後は、俺と比較をしているようなので、相応しくないということが分かればよいはずだ。


(他の2年生には苦労をかけるけど、天草先輩が考え直してくれることを祈るしかない)


 天草先輩以外の2年生は精霊を呼ぶなどの特技があったり、特別強いということはない。

 ただ、上級生全体の能力を視る限り、それが去年までの草根高校のハンターとしては普通なので、それについては受け入れている。


 特に部活の先輩たちは人柄も良く、聖奈の勉強を見てくれることもあったので、できれば一緒に活動したいと思っていた。


(異界で活動するとなると……うーん……俺1人の方が早いからな……)


 3年生がいなくなったら、最初に2年生の強化をしなければならず、新しい1年生が入部してからそんなことをしていたら、ミステリー研究部の役割を果たせるか不安になる。


 異界内の調査やゲート周辺の安全確認を行っているため、草根高校のミステリー研究部は優先してゲートを使うことが許されていた。

 最近では、メーヌによってゲートをカモフラージュしたことにより、突入時にモンスターと遭遇することがなくなっため、企業や行政からの評判が良くなったそうだ。


 そんなことを考えていたら部室に着き、先生が扉の前で立ち止まる。


「澄人、突入の件は俺から話をする。お前は……今日中に天草との仲をなんとかしてくれ」

「わかりました」


 先生が咳ばらいをしてからドアノブに手をかけ、勢い良く部室へ入室した。


「ミーティングはどうだ? 進んでいるか?」


 その後に付いて壁沿いに身を滑らせると、ほとんどの人が先生の言葉へ耳を傾けているのが分かる。

 目立つのは嫌いなので、素早く部室の隅へ身を寄せた。


 部長の横にあるホワイトボードには今日のミーティングの議題が書かれていた。


 議題

1.夏休みの予定

2.夏季交流戦参加メンバーについて

3.


 他の部員が数枚のプリントを持っていたので、目立たないようにいつも端に座っている翔の椅子へ腰を落とす。

 翔が先生から目を離して驚くように俺を見た後、目線に気付いて、長机の上に置いてあるプリントをそっと俺の前へ動かしてくれた。


「ありがとう」


 小声でお礼を伝えると、翔が苦笑いを浮かべて先生の方を向き直す。


「今日のミーティングは中断して、先に異界へ突入する。各自準備してくれ」

「先生、朝の打ち合わせでは――」

「決定事項だ。着替えが終わったら、お前だけ管理室へ来てくれ。以上」


 部長が先生の意見を聞こうと口を開くが、まったく聞く耳を持っていない。

 先生が豊留さんのいる管理室へ入るのを全員が唖然として見つめていたら、部長が首を振りながら息を吐いた。


「ふぅ……聞いたように異界へ突入する。今の話ではチーム分けはなく、全員で向かうらしい……15分以内に準備を整えろ」


 部長が20名ほどいる部員を見回し、時計を確認しながら指示を出してくれた。

 急にミーティングを中断させられて困惑している人が多い中、暗い顔をしている天草先輩だけは妙にほっとしている。


(原因は……【あれ】だろうな……)


 消されているものの、ホワイトボードに書かれている【3】の横には、【入部試験について】と書かれた跡があった。

 部員が更衣室へ向かうのを見送っていたら、翔が気まずそうに俺の顔を見てくる。


「ねえ……澄人くん?」

「どうした? 準備に行こう」

「えーっと……」


 翔はまだ残っている部員がいるのを横目で見ていたので、他の人がいたら話せないらしい。

 それと同時に、いつもは一緒に更衣室へ行こうと言ってくる聖奈も何も言わずにこちらを気にしていた。


(ここは意図を汲むか)


 俺も異界へ突入する予定のため、うなずいて椅子から立ち上がる。


「話は更衣室へ向かいながらでいいかな?」

「えっ!? ああ、そうしてくれると助かるよ!」


 俺が返事をするまで、翔は祈るようにこちらを見ており、額に汗を浮かべていた。

 一緒に部室を出て更衣室へ向かいながら、翔が周りに人がいないことを確認するように顔を動かしている。


「そんなに聞かれたくないことなの?」 

「うん……できれば、ミス研の人には極力聞かれたくないかな……」

「それなら飲み物を買いに行こうか、あそこなら人がいないでしょ」


 他の部員に聞かれたくないことで、クラスメイトたちが揃って心配することなんてひとつしか思い浮かばない。

 更衣室から少し離れた所に自販機があるので、そこへ向かう。


 翔の分の炭酸飲料も購入し、渡しながら話を切り出した。


「天草先輩のこと?」

「大体の人が気がかりにしていると思うんだけど……澄人くんには中々聞けないって困っていたよ」


 ペットボトルを受け取りながら翔がうなずくので、俺は封を開けてジュースを一口飲む。

 その間も翔は飲み物を持ったまま緊張しており、気が気でないように何度も俺の顔色をうかがっている。


 その表情が部室で大多数の人に俺や天草先輩に向けられていたものに似ていたため、どんな意味なのか思考を覗いたことがあった。

 あの時に見た感情を思い出し、この状況と照らし合わせる。


「向こうは思い詰めているし、こっちは平然としているから……ああ、不気味ってそういうことか……」

「ごめん……急にこんなことを言われて気分悪いよね」


 俺の言葉を深読みしているのか、翔がものすごく申し訳なさそうに謝ってくれていた。

 気にしていないと口にしながら、こんな話をしてくれている翔へ笑顔を向ける。


「あんまり言いふらしたくないんだけど……相談に乗ってくれる?」

「も、もちろんだよ!」


 1人で抱え込まずに翔へ相談をすることで、俺では思い浮かばない案が出てくるかもしれない。

 そう考えながら、更衣室へ向かいながら天草先輩の悩みを翔へ伝えた。


 着替えと相談が終わってから裏門へ向かうと、すでに俺たち以外の部員が部室の前で緊張した面持ちで待っている。


「遅いぞ!」


 怒鳴るように注意をしてきた部長は、俺と翔を見てまだ何かを言いたそうだったが、口を噤む。


「……これで全員揃ったな」


 改めてミステリー研究部員全員を見渡した部長は、大きく息を吸い込んだ。


「これより、異界へ突入する!」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございました。

次の投稿は3月12日に行う予定です。

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