夏休みに向けて⑤~入部試験について~

「澄人!? まだここにいるの!? あら?」


 天草先輩と机を挟んで悩んでいたら、お姉ちゃんが部室に乗り込んできた。

 取っ手をつかんだまま俺と天草先輩を見て微妙な顔になり、なぜかゆっくりと扉を閉めて下がり始める。


「えーっと……失礼しましたー……」

「お姉ちゃん待って!!」

「お姉ちゃん?」


 天草先輩が首をかしげながらつぶやいていたが、説明している余裕はない。

 このままお姉ちゃんを行かせると嫌な予感がするので、慌てて立ち上がる。


 追いかけるように部室を出ると、お姉ちゃんが空を見上げていた。


「澄人も恋人を作るようになったのね……」


 沈痛な面持ちで呟いていたお姉ちゃんの手を取り、これ以上離れさせないようにしっかりとにぎる。

 握っている手を見てから俺の方を向くお姉ちゃんの誤解を解く。

 

「いや、違うから」

「あら、もう終わったの? 私のことは気にしないでいいのよ? あまり遅くならないようにね」


 なぜか無理矢理笑顔を作ったような表情でこちらを向いており、ゆっくりと腕時計に目を移していた。

 夜遅くにふたりだけで部室にいる場面だったため、見る人によっては誤解を与えるような状況だったのは間違いない。


 このままお姉ちゃんを行かせると家にいる夏さんや聖奈にまで誤った情報が波及しそうなので、確実にここで解決させる。


「先輩とはそんな関係じゃないし、そもそも、草根高校は恋愛禁止って知っているでしょう?」

「みんなに隠れて付き合っていた人もいたわよ? 私はいまだに誰とも付き合ったことないけど……」

「そんなこと聞いていないから……」


 俺の誤解を解こうとしたら、お姉ちゃんが首を振りながら苦笑いをしていた。

 聞いてもいないことを口にしている時点でいつものお姉ちゃんではないので、落ち着かせる必要がある。


「それに、私、口は堅いから秘密にしておくわ」

「だから違うって……」


 なぜかいつもは理性的なお姉ちゃんがあまりこちらの話を聞いていない印象を受けてしまう。

 らちがあかないためどうしようかと悩んでいたら、部室の扉が開く音が聞こえてきた。


「草壁さん、澄人くんの言う事は本当で、私たちは付き合っておりません」

「本当に?」

「はい……」


 天草先輩もお姉ちゃんへ俺との関係について誤解を解こうとしてくれている。

 それを聞いたお姉ちゃんは俺の手を軽く振りほどいてキリッとした表情になり、天草先輩から目を離さない。


 思考の切り替えの早さが尋常ではなく、スキルを使って感情をのぞいていた俺は驚きを隠せなかった。

 俺のことを気にする様子もなく、お姉ちゃんは部室を見る。


「じゃあ、あなたはこんな時間まであそこで何をしていたの?」

「ミステリー研究部の入部試験について考えておりました。もしよろしければ、元部長だった草壁さんのお知恵をお借りできませんか?」

「そう……あなたが次期部長なのね。駄目よ、試験内容は現役が考えなさい」


 部長と聞いて急に突き放すような口調になったお姉ちゃんから手を離し、2人の様子を見守る。

 天草先輩が悲しそうな顔をしたため、いたたまれなくなったのでわざとらしくスマホを取り出す。


「こんな時間ですね。もう帰りましょう」


 2人の同意を得るために、笑顔を向けてどうですかと言葉を付け加える。


「そうだね……私は部室の消灯と施錠をしてくるよ。2人ともお気を付けて」


 天草先輩はお姉ちゃんへ向かって、力なく頭を下げていた。

 その様子を見てもお姉ちゃんの態度は軟化せず、表情を崩さないままうなずく。


「あなたも気を付けて帰るのよ」

「ありがとうございます……」

「行くわよ澄人」


 部室に入る天草先輩を見送るのを待たずに、お姉ちゃんが俺の手首をつかんでこの場を後にする。

 俺へ有無を言わさぬ態度で立ち去るお姉ちゃんは校門を出てからようやく手を離してくれた。


「今年の新入生は優秀って聞いているけど、入部試験を決めるだけであんなに切羽詰った表情になるの?」


 あえて天草先輩の前では聞かなかったのか、お姉ちゃんはものすごく心配そうに俺へ質問をしてきていた。

 本人に聞けばいいのにという言葉を飲み込みつつ、天草先輩に聞いたことを思い出す。


「優秀すぎて、例年行っていた試験で数回ふるいにかけてもまだ10人以上残っているみたいだよ」

「そう……異界や境界の体験はしているのよね?」

「異界に3時間過ごすっていう試験? をしているみたいだし、この前の事件の時に境界は体験したって」

「ああ、なるほど……そのレべルの候補生を絞るのは難しいわね……」


 お姉ちゃんが本気で悩むようなしぐさをするので、どうして本人から直接話を聞いてあげないのか不思議に思う。

 ただ、部室の方向へ顔を向けながらお姉ちゃんが遠い目をしており、悪いことではないのだろうと思いながら口を開く。


「お姉ちゃんも同じようなことで悩んだの?」

「私の時はそんなに多くなかったけど……これでいいのかって不安に思ったことはあったわ」


 あの時は辛かったなと思い出すように言葉を付け加えたお姉ちゃんは目を閉じた。

 お姉ちゃんが今まで見たことが無い表情を見せるので、声がかけられなくなる。


「その時の部長や顧問だった草矢先生に相談したんだけど……部長候補はこんなことも決断できないのかって怒られたわ。たぶん、彼女もそうなんじゃないかしら」

「だからさっきもわざと突き放すようなことをしたの?」

「ええ、そうよ。これからのことを考えたら、彼女のためにならないもの」


 懐かしむお姉ちゃんがほのかに月の光に当てられ、いつもよりも大人びて見えてしまう。

 呆気にとられて横顔を眺めていたら、お姉ちゃんが優しく微笑む。


「しばらくしたら彼女が来ると思うから送ってあげなさい」

「……わかったよ。何か……伝えておくことはある?」


 お姉ちゃんを見つめ続けてしまって、俺に話しかけているということに気が付くのに数秒かかり、何とか言葉をひねり出した。

 俺の反応を気にする様子もなく、お姉ちゃんは頬に人差し指を添えて少し上を向く。


「そうね……私がやった試験の内容と理由を教えるから、澄人の口から伝えてあげてくれる?」


 うなずくとお姉ちゃんがミステリー研究部の部長だった時に体験した話を聞いた。

 話が終わっても天草先輩が校門に来る気配はなく、迎えに行こうとしたらお姉ちゃんに止められる。


「待っていて上げなさい、2人にはもう少し遅くなるって伝えておくから」


 お姉ちゃんが帰った後、俺は天草先輩が来るまでステータスを眺めながら時間を潰した。


【名 前】 草凪澄人

【年 齢】 15

【神 格】 4/4

      《+1:500000P》

【体 力】 15000/15000

      《+100:10000P》↑

【魔 力】 20000/20000

      《+100:10000P》↑

【攻撃力】 B《1UP:40000P》↑

【耐久力】 B《1UP:40000P》↑

【素早さ】 B《1UP:40000P》↑

【知 力】 A《1UP:100000P》↑

【幸 運】 A《1UP:100000P》↑

【スキル】 精霊召喚(火)・メーヌ召喚

      鑑定・思考分析Ⅳ・剣術Ⅱ

      治癒Ⅳ・親和性:雷S

      親和性:剣E・天翔Ⅳ

      グラウンド・ゼロ □

【貢献P】 227000


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございました。

次の投稿は3月6日に行う予定です。

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