夏休みに向けて④~2ヵ所目のゲート~

「誰もいないみたいなので、埋めちゃいますね」


 俺はアイテムボックスからミスリルの塊をいくつか取り出してから、どのようにゲートを閉じるのか想像した。


(内側には少しだけ空間を残してあげよう)


 メーヌを召喚してゲートを覆うように金属の壁を作り、その周りには土を凝縮させる。

 この偽装している山を平らにしてしまい、その分地下の土の密度を上げて硬くした。


 これで第三者から見つかることはなく、地図を持っている俺しか詳しい場所はわからない。

 先生も詳しくわかっていないので、帰る前にこっそり木々を植えておけばもう2度と見つけられないだろう。


(俺しかわからない2ヵ所目のゲートの場所……これがどこに繋がっているのか時間が経てばわかるな)


 異界から得られるものは多く、境界よりも安全に経験値や素材を手に入れられる。

 そこが使えないとなれば確実にハンターや企業が騒ぐので、日本側のだいたいの位置が特定できる。


 異界の位置と日本の位置の相対関係を知れる絶好の機会なので、やらないということはありえない。

 俺が穴を塞いで満足をしていたら、スマホのアラートが鳴った。


「ぎりぎりの時間ですね。帰りましょうか」

「待て、澄人。本当にこの周りには人がいないんだな?」


 俺のことをじっと見ていた先生はそれだけが気がかりなのか険しい表情で俺のことを見ている。

 どんなに範囲を広げて察知してもモンスターのような気配しか感じない。


「一応人以外と思われる複数の気配があるので、全部見て回りますか?」

「……ああ、一応……な」

「わかりました。来る時よりも速く走るので、よろしくお願いします」

 

 俺が出せるペースなので、上げても先生に問題はないと考えられるが、大きな剣を持っているので念のため一声かけておいた。

 その後、先生と複数のモンスターを確認してから、数時間かけて突入してきたゲートへ戻る。


 ゲートの入り口は自然と一体化しており、外からではどこから入るのか全く分からないように作られていた。

 俺以外の人は観測所で渡している小型のビーコンがなければ確実に迷うほど、広い範囲に異界の自然を施工した。


(何とか間に合ったか……全力で走ってよかった)


 異界を出てから時計を見たら、約束していた時間にぎりぎり間に合ったため安心して観測所へ向かう。

 その途中で先生がふーっと息を吐いてから難しい顔で俺を見てきた。


「今回、異界で見たことをそのまま会長へ伝えようと思うんだが……ゲートを閉じた理由を聞いてもいいか?」

「こちらの世界と異界……どのような関係があるのか確かめるためです。ただ……閉じたことをわざわざ伝えるメリットってありますか?」

「メリットだと? そんなことを言うような問題ではないだろう」


 先生の表情がさらに険しくなり、俺へ問い詰めるような声を出してきていた。

 しかし、草根高校への志願者が多い理由や、企業が異界へ突入する際にここへ献金していることを俺は知っている。


 同じように知っていると思われる草根高校の一員である先生がこういうことを言い出すことが俺には分からなかった。


「このまま知らぬ存ぜぬで通したら、高校の希少価値と異界の価値が同時に上がるんですよ? どうして自らその権利を放棄するんですか?」

「異界は誰のものでもないだろう……独占しようというのか?」

「待ってください」


 妙にカチンとくるような言われ方をしたので、俺は立ち止まって先生を呼び止めた。

 俺と同じように少し先生の感情が高まっていたため、先に自分の意見を叩きこむことにする。


「今回のことは、こちらが安全に異界で活動しようとした結果です。あそこに見ず知らずの相手が隠れてこちらを狙っているとしたら、今までと同じ方法で活用できると思いますか? それに、まだもう1ヶ所日本に入り口があって、海外にも何十カ所とあるんですよ? そこも同じ異界なのかも分からない現状、独占には程遠いです」

「澄人……お前……」

「それに、このタイミングでそれを聞くなんて、先生は卑怯ですよ」


 こちらへ出てくる前ならまだメーヌの力が届いた。

 ゲートをまたいで精霊の力が働かないことは先生も知っているので、出てから質問をしてきた先生にも問題がある。


 それを突き付けたところ、先生は首を振りながら歩き出した。


「……お前、どこまで考えていたんだ?」

「日本には3ヵ所しか入り口がないと聞いた時から、他の場所を閉じて反応を見たいと思っていました」

「そうか……とりあえず、報告はしておく……後の判断は会長に任せる」


 それ以降、観測所に着くまで先生との会話はなく、別れる時も挨拶だけを行った。

 お姉ちゃんへ帰還したことを知らせる電話を行い、


 帰る時に部室にまだ明かりがついており、消し忘れかと思いながら扉を開ける。


「天草先輩?」

「澄人くん? ……そうか、今日は先生との突入だったね」


 休日の夜にもかかわらず、天草先輩が部室で作業をしていた。

 机に広げてあった資料を見ようとしたら、天草先輩の疲れた表情が気になってしまった。


「そうです……こんな時間に何をしているんですか?」


 もういつもなら俺が寝ているような時間なので、こんな夜遅くまで学校にいることが不思議でたまらない。

 すると、天草先輩は机の上から1枚の紙を取って、俺へ差し出してきた。


「夏休みにAクラス以外の生徒がミステリー研究部へ入るための入部試験を行うんだ」


 渡された紙には入部試験の日程や集合場所が記載されている。

 それに目を通していたら、天草先輩が申し訳なさそうな顔をしていた。


「今年の入部試験を部長に任されたんだけど……内容がなにも決まっていないんだ……」

「例年通りか数年前のものじゃだめなんですか?」

「今年の新入生は優秀すぎて、10人程度まで絞るのにそれらをほとんど使ってしまったから、それ以上のものを考えて、5人以下にしたいんだ……」

「なるほど……その試験内容が却下され続けているんですね」


 机の上には、大きく却下と赤いペンで書かれた紙が何枚も置いてある。

 その一枚一枚に目を通し、天草先輩がなんとか人数を減らそうとしているのがよくわかった。


(例年だと、異界を3時間探索する程度の難易度……普通に境界に入るだけじゃだめだな……)


 すでにここまで残っている生徒は異界や境界を経験しており、大抵の試験では半分もふるい落とすことができない。

 俺も同級生が入るのが楽しみな反面、余計なお荷物は背負いたくないので、一緒に頭を悩ませる。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございました。

次の投稿は3月4日に行う予定です。

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