夏休みに向けて③~異界内での違和感~
灰色の湖を少し離れるとモンスターが出現するようになり、感電させて動きを止める。
けいれんして動けないモンスターの横を通ってから、ペースを緩めて先生の横に並ぶ。
「異界のモンスターの素材ってどれくらい流通しているんですか?」
アイテムボックスに自動で入ってくる【もの】たちが現金にしたときどれほどの価値になるのか疑問に思っていた。
草原の試練で素材の数が千を越えているため、これらの価値を知りたい。
横を走る先生は眉をひそめ、俺のことをチラリと見てきた。
「ハンターを抱えている企業やギルドが異界で収集しているが、それほど多くはないだろうな」
「夜に草根高校へ来ている人たちがいますけど、あの人たちのことですよね?」
「ああ、多数の企業が突入の申込みをしてきているからな」
「日本には異界に入れる場所が3ヶ所しかないからですか?」
異界への入り口は日本に3ヶ所あるのは知っているが、俺は草根高校のしかわからずにいる。
ハンター協会の異界に関する資料には草根高校のことさえ載っていないので、特定の人しか知らない情報なのだろう。
先生が質問を聞きながらわずかに頬を吊り上げた。
「そうだ、興味があるのか?」
「少しだけあります」
部室に遅くまで残っていると、たまに大人のハンターが異界へ突入しているのを見る。
企業名などは豊留さんに聞けば教えてくれるが、自動車メーカーから個人のギルドなど多種多様な人たちが来ていた。
1度に入れるのが1グループだけなので、今回はその合間を縫って俺と先生が異界に突入している。
第一優先は草根高校のミステリー研究部だというものの、これだけ自由に入れないことには不満があった。
(もっと異界内を探索したいのにもどかしい!!)
横から現れるトラのようなモンスターへ、胸中に沸いた気持ちをぶつけるように雷を放つ。
倒してしまったのでアイテムボックスへ収納するために止まる。
「異界のモンスターの素材は手に入るのに、どうして境界のモンスターは倒すと消えてしまうんでしょうね」
モンスターを収納しつつ、俺の背後に立つ先生へ呟くように質問をしたら、呆れるような息づかいが聞こえてきた。
「それは境界内が安定していないからだと、授業で説明しただろう?」
「安定していないというのなら、人間も消えるものだと思っていましたが、実際は違いますよね」
「それはそうだが……
歯切れが悪くなった先生の方を向くことなく、再び直感に従って走り出す。
「その謎を解明しない限り、境界は消えそうにないな……」
小さく言った言葉が聞こえてしまったのか、先生が非常に険しい顔をして俺の後を追ってきていた。
3時間ほど走り、帰る時間を考えればもう戻らなければいけないと思った時、先生が俺の前に出てくる。
「澄人、時間だ。帰るぞ」
「もう少し時間を下さい。あの山、不自然に穴が開いていますよ」
肩で息をするように呼吸をしている先生は、何を言っているとつぶやきながら俺の見ている先へ顔を向けた。
地図にこの小さい山の名前がないので、人工的に作られたものだと思いながら近づく。
その山のそばに立つと見上げる程度の高さしかない。
ただ、開いている穴の先は地下へ道が続いており、どう考えても自然にできるようなものではなかった。
俺のそばに立つ先生はここを初めて見るのか、息を飲む。
「先生、異界で知らない人に会ったことあります?」
「…………ない」
長い沈黙を続けていた先生は絞り出すように声を出す。
雷で探ってもこの先にはなにもなかった。
ただ、これがなんの目的で作られたのか調べたいので、奥へ進みたい。
「下には誰もいません。火の精霊で明りを確保して降りてもいいですか?」
「なにがあるかわからん……俺が先導する」
先生は人がひとり通れるぎりぎりの幅しかない穴へ入って、中を進み始めた。
中はとても暗かったので、火の精霊でできるだけ灯すと一直線にしか作られていないようだ。
慎重に歩いていた先生は洞窟の壁に手を添えながら下っており、触れた所からパラパラと土が落ちている。
地面もしっかりとした道ではなく、歩けるようになんとなく整えただけという印象を受けた。
メーヌに頼んで道を舗装をしようかと思ってしまうほど歩きにくく、右手に魔力を込めた時、先生が急に止まった。
「いっ……すいません」
俺が背中に追突したのに先生が何も言わず、そんなに怒ることかと思いながら様子をうかがおう。
少し壁沿いに寄って先生の顔を見ようとしたら、前方が青く光っている。
「先生……あそこ……」
「……ゲートだ……この洞窟はモンスターの侵入を防ぐために作ったんだろう……」
青い光の方に進む先生は、道幅の広がった洞窟内を見まわしながら俺の言葉に答えた。
ゲートを目視したら、地図に【G2】と書かれた印が付く。
元々俺たちが突入してきたゲートには【G】という表示しかなかったが、今は【G1】となっていた。
(Gの後に数字……同じ大陸に何ヵ所もあるって示唆しているんだ……)
先生はしばらく青い渦を眺めた後、困惑したように俺の方を向いてくる。
「澄人、お前どうしてここがわかったんだ?」
「いつもの勘です。なにかがあるとしかわらかなかったですが、ゲートだとは思いませんでした」
勘と聞いた先生はフッと軽く笑い、首を振りながら片手を腰に当てた。
「それでこれが見つかるのか……それで、このゲートをどうするんだ?」
先生が困った顔をしながら親指でゲートを示す。
俺はあえて考えるように手を組み、先生を見上げる。
「うちの例ですけど、ゲートから出てきたものって観測されているんですよね?」
「そうだ。モンスターが出てくる可能性があるから、24時間監視している」
「それなら、ここを使えなくします。外へ出ましょう」
「はっ? お、おい!! 澄人!?」
やることが決まったので、踵を返して洞窟を引き返す。
そうすることで異界の価値が上がり、アイテムボックス内にある収集品の買取価格も高くなるだろう。
洞窟を出た俺は周辺に人がいないのか入念に調べ始めた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ご覧いただきありがとうございました。
次の投稿は3月2日に行う予定です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます