夏休みに向けて②~ライコ大陸調査~
「先生、これから灰色の湖へ向かいたいと思います」
「ああ……それなら、こっちだな……」
先生が剣を背負い、ミステリー研究部で作っている地図を片手に、周辺の地形と見比べながら進む。
その後に続いて、現在位置を小さくして自分のいる大陸の名前へ目を通す。
(ここがライコ大陸……まだ周りには何も表示されていないけど、別の大陸があるんだ)
今までの経験から、達成できないミッションはないと俺は考えている。
ただ、他の部員や先生へ別の大陸のことを聞いても、そんなものはないと断言をするように言われた。
そのため、今は異界の調査と鍵について調べたいと言い、先生に付いてきてもらっている。
(ミステリー研究部が足で集めた情報をまとめている資料には、この大陸のことしか載っていなかったからな)
この数十年間、ミステリー研究部の部員が収集した異界の情報は、地形や出現モンスターなどが主で、外の大陸についてほとんど触れられていない。
そして、今向かっている【灰色の湖】と呼ばれている場所は、俺にとって未開の地だ。
平義先生は何度か灰色の湖へ行ったことがあるのか、迷わずに足を進めている。
灰色の湖へ近づくにつれて草木がなくなり、地面が荒れてきているような気がしてきた。
(普通、湖の周辺って自然が溢れているようなイメージがあったけど……異界はそうじゃないのか?)
見晴らしが良くなり、モンスターを警戒するべく雷を展開するが、なんの気配もない。
地面が砂漠のような砂地になったころ、先生が足を止めてこちらを振り向く。
「見えたぞ、あれが【灰色の湖】だ」
「こんなに広い湖なのに……どろどろしてそうな灰色の水ですね……」
先生が指し示す方向には、灰色の水面がはるか向こうの方まで広がっている。
「待て、それ以上は危ない」
「えっ?」
水面に近づこうとした俺を先生が肩をつかんで止めてきた。
先生は胸ポケットから小型ナイフを取り出して、軽く息を吐く。
「見ていろよ」
足元に気を付けながら持っていた小型ナイフを湖の方角へ向かって投げると、20メートル程離れた場所にポトリと落ちた。
落ちた所はぬかるんでいるのか、ナイフがゆっくりと沈むように飲み込まれていく。
――ジュゥゥゥ
すると、焼けるような音が聞こえ、ナイフが落ちたと思われる場所から白い煙が上がる。
それを見ながら、先生がこれ以上進まないように俺の肩から手を離さない。
「ここから先に進もうとしたら、あのナイフのように溶けるぞ」
「あの灰色の水が原因なんですか?」
「おそらくな……さまざまな金属を試してみたが、全部溶かされた」
俺が数歩下がると先生は肩から手を離し、ため息をつきながら湖へ目を向けた。
先生が湖を見ながら黙るので、俺は地図でここがどのように表示されているのかを確認する。
(あれ? ……なんにもない? どういうことだ?)
俺が表示した地図には湖など存在せず、なにもないことになっていた。
拡大をしても何も映らず、地図上ではただの平地となっている。
草原や山などの場所には必ず名前が表示されていたので、この地図に載っていないことが不思議だ。
先生へ相談しようかと思った時、湖の方から視線のようなものを感じる。
「先生――」
「見られている……が、湖の中からで確認ができない」
俺の言葉を遮る先生は俺と同じ方向へ鋭い目を向けていた。
雷でこちらを見ている相手を探ろうとしても、湖の中まではわからない。
鑑定も届いていないのか、地面以外の表示がないため、灰色の水さえも正体不明だ。
(ただの水ではないことはナイフを見たらわかったけど、それなら一体なんだ?)
まとめてグラウンド・ゼロで吹き飛ばす方法もあるが、魔力回復薬(大)の無料期間が終わっているため、この後も異界で活動をするなら今は使えない。
メーヌに道を作ってもらうとしても、素材の地面がこちらを溶かしてくるので得策ではないだろう。
(神器解放を使っちゃったから、神の一太刀も使えない……今日は手が出せない)
現状、灰色の湖と呼ばれているものを放置する以外に俺ができることはない。
目を凝らすと、微かに灰色の湖の向こう側に地面のようなものが見える。
しかし、ぬかるんでいる場所が分かりにくいため、迂回するのさえ難しそうなので、こちらの方角へ進むのは諦めることにした。
「えっ!?」
そんな時、僅かだが異界で初めて違和感を覚えたため、驚いて振り向いてしまう。
「どうした!?」
俺があまりにも急に動いてしまったので、先生は背中の剣に手を添えながら声を出す。
ただ、俺や先生が見ている方向には何の気配もなく、砂地が広がっているだけだ。
「先生……異界に境界って発生するんですか?」
「……俺は今まで2度しか異界で境界が発生したのを見たことがない」
「鍵を使用した時……ですよね?」
「ああ……そうだ……」
先生が警戒を解いて、複雑そうな顔で俺の質問を返してくれていた。
そんなことを気にせず、俺はまだ地図が表示されていない方向へ走り出したくなる。
今回の異界探索は12時間というリミットが決まっているため、迷っている暇などない。
「先生、付いてきてください。少し遠いようなので走ります」
俺の言葉を聞いた先生は腕時計を一目見て、わかったとうなずいてくれた。
「時間通りに帰らないと、2度と許可を出してもらえないからな」
「わかっています」
モンスターに構っている余裕がなくなったため、雷の気配察知を最大限まで広げて走り出す。
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ご覧いただきありがとうございました。
次の投稿は2月28日に行う予定です。
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