襲撃事件収束④~真友さんと放課後~
「ごめん、忘れてた。俺は何をすればいい?」
「箒で床の掃除をお願い、私は黒板や窓を拭くわ」
教室掃除は毎日行っており、机が少なくゴミも出ないといった理由で、毎回2人が当番となるローテーションが組まれている。
クラスメイトが5人しかいないため、3日に1度は当番になるので忘れることはなかったのに、今日に限って失念していた。
早く終わらせるために掃除ボックスから箒と塵取りを取り出す。
真友さんもバケツに水を入れて、雑巾を濡らして拭き掃除を始めていた。
「ねえ、これから【草根中央病院】へ行くんでしょう?」
「そうだけど……掃除任せていいの?」
早く終わらせるために箒へ静電気をまとわせてゴミを回収していたら、真友さんが手を止めて話しかけてくる。
病院へ行くと知っているようなので、俺を帰らせてくれるのではないかと期待してしまう。
「そうじゃないわ。私も聖奈の顔を見たいから一緒に行きましょう」
期待していた言葉ではなかったため床へ視線を戻し、相槌を打ってから掃除を再開する。
(あれ? なんで真友さんが病院名まで知っているんだ?)
聖奈が入院していることは草地くんが知っている。
しかし、病院の名前は直接行った俺やお姉ちゃんたちしかわからないはずだった。
「ねえ、真友さんって誰から聖奈が入院している病院を聞いたの?」
「えっ? 聖奈からだけど……」
聞き間違いかと思って、聖奈と名前が似た知り合いがいるのかと考えてしまう。
「そんな顔をしてどうしたの?」
「いや……本当に聖奈から教えてもらったの?」
「ちょっと来て」
真友さんは持っていた雑巾をバケツの中へ入れて、鞄の中からスマホを取り出す。
操作が終わるのを待っていたら、はいと言いながら俺へ画面を見せてきた。
【聖奈:心配かけてごめんね。それより、病院の昼食が足りなかったから、来てくれるならお菓子を買ってきてほしいな。私はベッドから動いちゃダメみたい】
そこには聖奈からお菓子を催促するメッセージが送られてきていた。
自分のスマホを見るものの、俺には何の連絡もないので言葉が出ない。
「どう? 聖奈からでしょ?」
「そう……だね……」
真友さんが見せてくれた画面に視線を戻すと、新しいメッセージの吹き出しが表示される。
「聖奈から新しいメッセージが来たみたいだよ」
【聖奈:言い忘れていたけど、お兄ちゃんには私が起きている事は内緒だよ! 来た時に驚かせようと思っているんだ♪】
メッセージを一緒に画面を見つめていた真友さんと目が合い、見つめたままどう反応すればいいのか分からなくなってしまった。
お互いに苦笑いをしてしまい、頭を悩ませる。
「えーっと……見てないことにしようか……」
「……そうしてくれる? あと……私と面会時間をずらしてくれると嬉しいわ」
「わかった。俺は先生に用事を押し付けられたから、5時ごろ着くかもって伝えておいてくれる?」
「そうしましょうか」
真友さんが掃除を再開しようとするので、先にバケツに入っていた雑巾を絞る。
「残りの掃除はしておくから、聖奈のお菓子買いに行ってあげてくれる? 時間もつぶさないといけないから、やらせてほしいな」
「お兄ちゃんも大変ね……」
「色々あったから、大切にしてあげたいんだ」
「なら、お願いするね。またね、澄人くん」
雑巾の形を整えて窓を拭き始めると、真友さんが鞄を持って教室を出ていく。
まだ4時前なので、時間をかけて掃除を行うことにした。
普段はやらないような窓の枠を隅々まできれいに拭き、教室の床もピカピカに磨き上げた。
「澄人、お前なんでまだ掃除をしているんだ?」
「遅くなってすいません。片付けをしたら終わります」
そんなことをしていたら先生が教室に現れ、あきれながら俺のことを見ている。
説明をすると長くなりそうなので、手早く掃除道具をボックスへ入れてから教室を後にした。
(のんびり歩いて行けば、真友さんに伝えた通りの時間に病院へ着くな)
スマホの地図アプリを見ながら時間と道を確認する。
中央病院までは迷うことはなく、じりじりとした地面からの熱を感じつつ歩いている。
(聖奈が俺を驚かそうとするなら、起きられない雰囲気を作ってやろう)
何も知らなかったら聖奈が起きたことで涙が出そうになると思われるが、学校で掃除をしながら少し目から漏らしてしまった。
このまま聖奈に会っても、演技が白々しいものになるのは自分が一番良く分かっている。
頭を悩ましていたら病院に着いてしまい、時間も5時になる10分前だった。
お見舞いの受付を行って、教えてもらった聖奈の病室へ向かう。
(1人部屋……なにか配慮してくれたんだろうか?)
急な入院にもかかわらず、少ない1人部屋を用意してくれた病院に感謝しつつ、扉をノックする。
聖奈の演技が始まっているので、当然のように中からの返事はない。
「聖奈、入るぞ」
1人部屋の病室は広く、お見舞いの人がくつろげるような椅子などがある。
その奥にゆったりとくつろげるサイズのベッドが置かれており、聖奈が寝かされていた。
ベッドの横にも椅子があるので、座ると視線がベッドよりも少し高くなる。
起きていると思われる聖奈が動き出す前に、点滴のために出されている手を握った。
「聖奈……今まで苦労をかけさせてごめんな……」
ここに来るまでに考えていたことだが、今まで聖奈へ言えなかった感謝の気持ちを伝えることにした。
以前、同じようなことをしようとしたとき、私が勝手にしていたことだから気にしないでと素っ気ない態度を取られたので、聞くしかできないこの状況を利用させてもらう。
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ご覧いただきありがとうございました。
次の投稿は2月22日に行う予定です。
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