襲撃事件収束②~草地さんのお話~

「私が澄人さんの家へ行ってしまった時、草凪ギルドは崩壊寸前でした」


 悔しそうに語り始めた草地さんの言葉は口火を切られ、止めどなく続けられた。


 草凪ギルドはじいちゃんが行方不明になってからは、資格を持っていた草地さんがギルドマスターの代行を行なっていた。

 なんとかギルドの体裁を整えて活動をしていたものの、じいちゃんの抜けた穴は大きく、次々と問題が出てきてしまったそうだ。


 特に大きな問題は、キング級のハンターが派閥を作ってしまい、別のグループの妨害やギルドからの離脱など、分裂に直結することが起こってしまってから、歯止めが利かなくなってしまった。


 さらに、当時草凪ギルドに所属していた師匠は、ハンター協会の会長や高校の理事長などの引継ぎの過程で、ギルドを抜けなければいけないことになる。

 師匠がギルドに残っていれば草凪ギルドがここまで地に落ちることはなかったと思うので、話の途中に口をはさんでしまった。


「どうして師匠はギルドを抜けることになったんですか?」

「ハンター協会を今のように大きくした草凪正澄様だから、ギルドマスターと会長の職を兼任していたと大多数の役員に言われたからな……どちらかを止めるしかなかったんだ」

「そうだったんですね……」


 そんな師匠や草地さんの目を欺いて、将来を期待されていた聖奈が奴隷のように酷使されていた。

 このことに気付いたのは清澄ギルドと衝突してしまった後で、草地さんは謝るために禁忌を犯して俺の家へ来てしまい、師匠からハンター資格をはく奪された。


「ハンター資格を失ってからはしばらく身体を休めておりましたが、何か仕事をしようと思い草壁さんへ相談をしたところ……タクシー会社を紹介されました」

「師匠、なぜタクシーだったんですか? ギルドマスターになれる資格があれば、ハンター協会の事務職もできますよね?」

「それはそうだが……」


 日本一巨大だったギルドのギルドマスターを代行した草地さんをタクシー会社へ紹介した師匠に驚きを隠せない。

 師匠が背もたれに体重をあずけながら困った表情であごを触り、草地さんの方を向いている。

 

「私の意向です」

「そうなんですか?」

「……せめて少しでも罪滅ぼしをさせてもらうため、草凪澄人さんや聖奈さんを見守りたいという私の考えを汲んで、草壁さんはタクシーの運転手という道を私へ示してくれたんです」

「俺たちを見守るため?」


 草地さんはそうですとうなずきながら、何度も境界群生地を行き来する俺を送迎していると言っていた。

 境界を探した後は疲れてしまい、運転手さんにまで気が回っていなかった。


(これは謝るべきなのか? 運転手さんと話すことなんてほとんどなかったから、あの時乗せましたなんていわれてもわからない……)


 困っている俺の様子が伝わったのか、草地さんは優しく微笑む。


「今回はそのおかげで、いち早く現場へ向かえてよかったです」

「……昨日はありがとうございました」


 聖奈がさらわれたと聞いた時には冷静さを失ってしまい、本能のままに行動をしそうになった。

 それを止めて、諭してくれた草地さんには感謝しかない。


(そうだ。結局、あの後はどうなったんだ?)


 金嶺と水鏡がいるというビルへ師匠と平義先生が向かった後のことは、誰からも教えてもらえずにいる。

 丁度目の前に師匠がいるので、俺から質問をしてみることにした。


「師匠、金嶺の所有しているビルには誰が居たんですか?」

「……金嶺の当主と孫――」


 師匠がタブレットでそれぞれの写真を表示させながら誰が居たのか説明してくれている。


 金嶺の当主は身に覚えがあり、以前、草根高校の副校長をしていた老婆で、あの時よりも痩せて目付きが鋭いように見えた。

 孫という人は、奨学生として入学しようとしていた男子が映っている。


(この2人が……確かに師匠へ恨みを抱えていそうだけど、ここまでするのか……)


 まだ金嶺しか出てきていないので、水鏡の者を表示させるためにタブレットを操作する師匠の手が止まらない。


「それに、水鏡ギルドの副マスターと水鏡家当主の妻がいた」

「あの2人が……この人たちは前にも俺たちへ手を出してきましたね」


 顔写真を見て、数ヵ月前に境界を出た後この2人が俺と夏さんを無理やり連れて行こうとしたことがあったことを思い出した。

 俺はこの4人が襲撃事件を計画して、影渡りを雇って実行に移した犯人だと思っている。


「この4人が影渡りを雇った犯人だったんですね」

「まだ断言はできない」


 師匠がおかしなことを言ったので不可解に思いながら顔を上げると、眉間にしわを寄せて腕を組んでいた。

 目を閉じで俺と視線を合わさないので、怒りを込めて口を開く。


「どういうことですか?」

「……今、全員を協会の地下に拘束して、事情を聞いている。しかし……この4人の証言がバラバラで的を得ないんだ」

「影渡りが指定した場所にいたんですよ!? 犯人じゃなかったらなんなんですか!?」


 感情が抑えられず、目の前にある木の机を勢いよく叩いてしまい、部屋に鈍い音が反響する。

 正面に座る2人の老人は動く気配すらなく、冷静に俺のことを見つめていた。


「すまない。実行犯だった影渡りが死亡しているため、全容がわからないから断定するのが難しいんだ」

「澄人くん、今この瞬間にも、何か1つでも証拠を掴むためにハンター協会の人たちが捜査をしてくれているから、安心してほしい」


 自分よりもはるかに年上の人から頭を下げられ、何も言うことができなくなる。

 この件はもう自分ができることはなさそうなので、椅子に深く座って諦めるようにうなずく。


「お任せします」

「任せてくれ」


 師匠は必ず証拠を見つけると付け加え、草地さんが安堵の表情を浮かべた。


キーンコーンカーンコーン――


 話の区切りがついたときに授業が終わるチャイムが鳴ったので、退出しようと思う。

 チャイムが終わったタイミングを見計らい、席を立とうとした。


「最後に、澄人が影渡りを殺した件について話をしよう」

「わかりました……もう、武器を渡しておけばいいですか?」


 悪人といえども人を殺めてしまったことには間違いがないので、規則に則り処理をするのだろう。

 俺はアイテムボックスを表示させて、アダマンタイトの剣を取り出す。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございました。

次の投稿は2月18日に行う予定です。

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