それぞれの試験⑮~聖奈の搬送~

 先ほどまでの出来事を救急隊員の人に聞かれては困ると思ったので、お姉ちゃんへ聖奈が運ばれている病院のことだけを伝えて電話を切った。


(エンジン音っぽいのが聞こえたから車の中だったのかな?)


 救急車が病院に着いてから、聖奈が処置を受けるためにストレッチャーで運ばれていくのを見送り、俺は看護師さんに待合室へ案内された。


「それではここでしばらくお待ちください」

「妹をよろしくお願いします」


 聖奈は救急車の中でも一切反応を示すことはなく、救急隊員の人に気付かれないように治療を行っても効果がない。

 人のいない6畳ほどの待合室で椅子に座って聖奈の無事を祈っている時、赤色の画面が表示される。


【緊急ミッション達成】

 2名の救助者を救いました

 貢献ポイントを授与します


 ここまできて、ようやくミッションが終わったという通知が現れてくれた。

 消すために振り払おうとしたら、自分の手が震えていることに気が付く。


(もう脅威は去ったから怖がる必要は……違う……そんなことでこうなっているわけじゃない……)


 震える手を抑え込むように足へ押し付けて、自分がやってしまったことを自覚する。

 興奮が収まり、手のひらに影渡りの腕を叩き切った時の感触や、頭に電気を流した時の皮膚がうごめく反応が蘇ってきた。


(ミッションを【盾】に俺は人まで殺せるようになっている……それは……言い訳か)


 影渡りによる聖奈への歪んだ欲求を目の辺りにしてしまい、憎悪で何も考えられなくなる。

 途中からは、自分の持てる力でどのように戦えば影渡りを殺せる・・・のかという思考に変化した。


 自分のことが制御不能になったあげく、人体実験を止められて憤りを感じてしまう。


「ふーっ……きっと詳しく聞かれることになるんだろうな……」


 相手が犯罪者で自分を殺そうとしてきていたとしても、それを行った者がハンターなら全容がわかるまで武器を取り上げられる。

 金嶺と水鏡の苗字を持つ誰かがいるというビルへ向かってくれた師匠と平義先生が襲撃事件を解決してくれることを信じるしかない。


 待合室でしばらく待っていたら、複数の足音がこちらへ向かってきているのが聞こえてきた。

 

「澄人!」

「澄人様!」


 お姉ちゃんと夏さんが血相を変えて待合室へ飛び込んできて、俺の無事を確かめるかのように肩や手を撫でてくる。

 夏さんにいたってはなにも悪くないのに、ごめんなさいと謝り続けてきた。


「聖奈の様子は!? 何か聞いた!?」


 夏さんを落ち着かせていたら、お姉ちゃんが診察室の方向を見ながら俺へ質問をしてくる。

 聖奈が運ばれてから誰からも連絡がないので、ゆっくりと首を左右に振った。


「わからない……俺はここの奥に運ばれたことしか知らないよ」

「そう……お医者さんを急かす訳にもいかないから待つしかないわね……」


 ため息をつきながらお姉ちゃんが俺の横に座り、腕を組んで何かを考えるように目を閉じる。

 暗い顔をしていた夏さんは何とか気持ちを持ち直すものの、一向に俺の手を離してくれない。


 包まれた手をどうしようか困っていたら、夏さんが上目づかいでこちらを見てきた。


「澄人様、もう少し私たちを頼っていただけませんか?」

「すいません……今回は突発的なことが多く、連絡ができませんでした」


 聖奈がさらわれたと聞いてから、2人に連絡するという考えがそもそも思い浮かばなかった。

 信頼をしているとか、していないとかの問題ではなく、こんなことが起これば目の前のことで精一杯になる。


 もっと冷静でいられればという悔しい気持ちを抱き始めた時、お姉ちゃんが頭に手を添えてきた。


「夏、そんなに言わないの。師匠から聞いたでしょう? 聖奈がさらわれて澄人も余裕がなかったのよ」


 俺の気持ちを察したようにお姉ちゃんが代弁してくれる。

 夏さんもハッとしてお姉ちゃんの顔を見た後、ゆっくりと俺から手を離した。


「そうですよね……すいません澄人様、私……責めるようなことを……」

「いえ……そんなことは……」


 相談できなかったことは事実なので、夏さんの言葉への返答に困る。

 俺がつぶやくような返事をしてしまったからなのか、待合室の中に静寂が訪れた。


 そんな時、聖奈が運ばれた診察室の方から白衣を着た男性がこちらへ歩いてくる。


「草凪聖奈さんのご家族の方ですか?」

「そうです。聖奈は?」

「こちらへどうぞ。意識が戻りました」


 聖奈の様子を教えてくれた人はお医者さんなのか、胸にDrというネームタグを付けていた。

 呼びに来てくれたお医者さんは、俺たちが立ち上がると同時に白衣をひるがえして診察室へ戻る。


 診察室にいる聖奈はベッドへ寝かされ、院内着なのか、無地で薄ピンクの服を着せられていた。

 お医者さんは聖奈の顔をのぞき込むように1度見て、ベッドから離れる。


「聖奈さんですが……意識は回復したものの、まだ混濁しているため、話ができるようになるまでもう少し時間がかかると思います」

「わかりました。聖奈、聞こえるか?」


 横になっている聖奈は俺と目が合わず、呆然と天井を見つめている。

 声をかけても反応がなく、お姉ちゃんや夏さんが話しかけても同様だった。


 俺たちのことをじっと見ていたお医者さんは、ボードに挟んだ紙をお姉ちゃんへ差し出す。


「今日から回復するまで入院させたいと思いますので、同意書の記入と手続きをお願いします」

「はい。よろしくお願いします」


 お姉ちゃんがボードを受け取ると、お医者さんが看護師さんへ指示をして聖奈の寝ているベッドの移動を始めた。

 お医者さんは入院手続きを行うため、お姉ちゃんを別室へ案内をする。


(俺は聖奈と一緒に居よう)


 聖奈の看病のために看護師さんに付いて行こうとしたら、夏さんが俺の手を取って見つめてきた。


「後のことはやっておくので、澄人様は帰って休んでください」

「でも……」


 聖奈の寝ているベッドが搬入用と書かれたエレベーターの前で止まり、看護師さんが待ってくれている。


「明日も学校がありますし……今の澄人様は精神的にも肉体的にも疲労しているので、帰って休んでほしいです」

「……わかりました。夏さん、後はお願いします」

「はい。お任せください!」


 最後に夏さんが必ず休んでくださいと言い残して、走り去っていってしまった。

 俺は帰るために病院の外へ出て、2度とこんなことが起こらないように強くなりたいと思いながらステータスを見る。



【名 前】 草凪澄人

【年 齢】 15

【神 格】 3/3

      《+1:200000P》↑

【体 力】 11000/11000

      《+100:10000P》↑

【魔 力】 12500/12500

      《+100:10000P》↑

【攻撃力】 B《1UP:40000P》↑

【耐久力】 B《1UP:40000P》↑

【素早さ】 B《1UP:40000P》↑

【知 力】 A《1UP:100000P》↑

【幸 運】 B《1UP:40000P》↑

【スキル】 精霊召喚(火)・メーヌ召喚

      鑑定・思考分析Ⅱ・剣術Ⅱ

      治癒Ⅲ・親和性:雷S

      親和性:剣E・天翔Ⅲ

      グラウンド・ゼロ □

【貢献P】 240000

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