それぞれの試験⑭~雷の使い方応用編~

 雷だけの剣を作ることはできなくても、人を素直に命令に従わせることならできる。


(1回これをやっちゃうと脳がこわれるけど、この人なら気にしなくてもいいか)


 本格的に雷を脳へ介入させ、無抵抗になった影渡りをゆっくりと地面へ降ろして、首から手を離す。

 壁に寄り掛かるように座らせた後、命令を聞きやすくするために頭の上に手を乗せた。


「水鏡真をここへ連れてくるように命じた理由は?」

「へぁ……み、みかが……みのおんながぁぁあ……い、らいを……」


 人の脳は調整が難しく、非常に聞き取りにくくなってしまってしまった。

 ただ、話をしている内容はわかったが、曖昧で誰のことを指しているのかわからない。。


(水鏡の女って誰だ? 多すぎてわからないな……なにか手がかりがあれば……そうだ)


 言葉が聞きやすくなるように雷の微調整をしつつ、影渡りへの質問を続けた。


「俺と真さんがこの工場に来たら、どうするつもりだったんだ?」

「依頼……人へ……渡す……」

「引き渡し場所は?」

「あっ……あっ……郊外にある……金嶺の……ビルで……ぇえええええええええ!!!!」


 さらに質問を続けようとしたら、影渡りの体が大きくのけぞるように跳ねて、エビ反りのまま動かなくなってしまう。

 白目を向いて倒れてしまった影渡りは呼吸が止まり、心臓も動いていない。


「まだ聞きたいことがあったのにもう壊れたか……次はあの人にしようかな」


 負荷がかかりすぎて脳が壊れてしまい、質問に答えなくなってしまった影渡りから離れ、最初に雷で倒れてしまった一番大きな人へ目を向ける。

 あの人だけ脂肪が多く、他の人よりも早く目が覚めてしまったようだった。


 影渡りへの尋問中にチラチラと薄目を開けてこちらの様子をうかがっていたので、逃げないようにメーヌに頼んで下半身をコンクリートへ埋めた。


「あなただけ意識がありますよね? お話を聞かせていただきます」

「ひぃ!? や、止めてくれ!! 殺さないで……草地ぃ!! 助けてくれ!!」


 下半身を固定されたお腹に脂肪を蓄えた男性は怯えて、草地くんに助けを求めている。

 俺はそんなことを気にせずに影渡りと同じように情報を引き出すために近づこうとしたら、工場の外に大量の人が駆けつけてきた。


 雷で人の脳を操作するチャンスを逃してしまい、ため息をついてしまう。


「時間切れか……メーヌ壁をなくしてくれ」


 工場内から出られないようにしていた壁を取り除くと、外から人がなだれ込んでくる。

 その中には師匠や平義先生の姿もあったため、俺は無事を知らせるために手を振った。


「澄人無事か!? こ、これは!?」


 工場内に立ち入った人たちがあまりの明るさに驚き、手で目を覆って光を見ないようにしている。

 もう外は夜になっているので、この明るさを急に目の当たりにして何も見えなくなっているようだ。


 四方八方から炎でこの中を照らしているため、手で覆う程度では光を遮ることはできない。


「皆さんすいません! 影渡りに影を使わせないように炎を展開していました。解除しますね」


 火の精霊への魔力供給を終えて工場内が薄暗くなると、下半身を拘束された男性が喚き始める。


「助けてくれ!! あいつに殺される!! ここに居る全員が殺されたんだ!!」


 大柄な男性が叫ぶと、ここへ助けに来てくれた人が目を見開いて俺を見てきた。

 そんなことを気にせず、みんなと同じように顔が険しくなっている師匠へこれから金嶺のビルへ向かう許可を貰いたい。


「師匠、影渡りへ依頼をしていた人物は金嶺と水鏡で、これから郊外のビルで会う約束をしていたようです」

「澄人……お前……」

「それと、亡くなった人は影渡りという人だけで、残りの人はまだ死んでいませんよ」


 師匠はまだ事態を飲み込めていないのか、戸惑うように表情を変えて、許可を出してくれない。

 俺と師匠の間へ誰かが体をねじ込むように割り込んできた。


「草壁さん、ここを他の人へ任せて、あなたと平義さんで2人のいる場所へ向かわれてはどうでしょうか?」

「草地……そうだな。そうしよう」


 草地さんが今後のことを提案しており、師匠がゆっくりとうなずく。

 2人の関係が気になるところだが、今は事件を解決することを優先する。


「師匠、影渡りから聞き出した証言を録音してありますが、スマホへ送ればいいですか?」

「まさか……ごうもっ!? んんっ! ……なんでもない……送ってくれ」

「わかりました」


 影渡りのスマホを操作していたら救急車のサイレンが聞こえ始め、聖奈のことを介抱していた人たちが道を開けた。


「澄人、ご苦労だった。後は任せて、聖奈へ付いてあげなさい」

「よろしくお願いします」


 送信を終えると、師匠が平義先生と合流して慌ただしい工場内から外へ出ていった。

 救急隊員の人が聖奈をストレッチャーで運ぼうとしていたので、一緒に乗らせてもらう。


「この子の家族です。乗ってもいいですか?」

「よろしくお願いします。どうぞ」


 救急車のバックドアから中へ乗り込む前に、心配そうな顔をしている草地くんと目が合った。

 手招きをして草地くんを呼び、救急隊員へ少し待ってもらうために、頭を下げる。


「すいません、伝え忘れたことがあります。30秒ほど待っていただけますか?」

「どうぞ」


 1番近くにいた男性隊員が了承してくれたため、救急車を降りて草地くんへ駆け寄った。


「澄人くん、助けてくれてありがとう」

「いいんだよ。俺たちは仲間なんでしょ?」

「……あり……がとう」


 手を差し出すと、草地くんが泣きそうになりながら握り返してくれた。

 あまり時間をとることができないので、手を離してから簡単に別れの挨拶をして車へ戻った。


 救急隊員の人が後ろのドアを閉める直前、草地くんが心配そうに手を振ってくる。


「澄人くん! 聖奈さんが目覚めたら連絡してくれると嬉しいな!」


 その言葉に笑顔でうなずきながら、仲間だという草地くんのことを名前で呼びたいと思った。

 救急車で運ばれている時、お姉ちゃんから電話がかかってきたので、どこから話そうかと考えながら通話ボタンをタップした。

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