それぞれの試験⑬~澄人の反抗~
「俺はこいつをここで無力化するよ」
「あいつはキング級のハンターなんだよ!? それを1人で!?」
「この通り、なんとか戦えるから……聖奈を頼むよ」
聖奈を任せて草地くんに廃工場の外へ出てもらおうとしたところ、地面に倒れている影渡りがほんの少し口角を上げた。
窓から外を見ると夜になっており、外へ誰も出さないため、工場内を囲むようにメーヌで土壁を作り出す。
「草地くん、指示が二転三転するんだけど、もう外が暗いからこの中にいた方が影に襲われないと思うんだ。だから、聖奈を抱えて壁沿いにいてくれる?」
影渡りと草地くんが俺の作り出した壁を見て目を見開いていた。
だが、2人の表情にはだいぶ差があり、悔しそうに唸っている影渡りへ雷を放つ。
「動くな!!」
「ちぃ!!」
雷による攻撃を初見で避けられてしまい、影が使えなくても厄介な相手であることが分かった。
アダマンタイトの剣を握り、充電しながら影渡りとの距離を縮める。
俺から逃げるように後退する影渡りは、こちらを向いたまま後退していき、背中に壁が付く。
脇腹を庇っていない方の手で壁を触った影渡りがうろたえながら口を開いた。
「なんなんだよお前は!? こんなことができるなんて聞いていないぞ!!」
「あんたに話すことなんてない。自慢の影が使えないと攻撃さえできないのか?」
3歩ほどで届く距離で止まり、帯電した剣を構えたまま影渡りの動向を注視する。
すると、壁と体の間に影を作った影渡りが無造作に手をその中へ突っ込んでいた。
「無能のガキが付け上がりやがって!! 死ね!!」
「無駄です」
何かを俺へ振ろうとしていた影渡りの手には何も握られてなく、俺は迎え撃つように剣を動かす。
影渡りの右腕が肘から下が吹き飛び、壁に当たってドシャっという音を立てた。
「……は? なんでシャドーソードがないんだ!!??」
腕が切られた影渡りは腕を見たまま惚けてしまい、現実を受け入れられていないようだ。
火の精霊への魔力を補充しながら、前のめりになっている影渡りの首をつかむ。
「影で何かをしようとしていたみたいですが、俺の精霊が常に見張って周囲を明るくしています。残念でしたね」
「グガガ……化け物め……」
影渡りの首を思いっきり締め上げたため、苦しそうに顔を歪め俺の手を振り払おうとしてくる。
残っている手を剣で叩き切ると、両腕から血が溢れ、影渡りの顔が青白くなってきた。
「勝手に休んだら駄目ですよ。あなたには聞きたいことが沢山あるんですから」
影渡りが出血で意識を失わないように、治療で腕の止血を行う。
最初に余裕を浮かべていた影渡りの顔は恐怖に染まり、充血した目は怯えるように俺へ向けられている。
大人しくなってくれたため、話ができるように首を掴んでいる手の力を弱めた。
「さて……あなたはなんで境界を襲撃させていたんですか?」
「お、俺じゃない」
「じゃあ、誰なんです?」
「…………」
俺から目を逸らして口を閉ざす影渡りへ手心を加えるつもりはないので、つかむ手に魔力を込める。
「10秒以上待ちません。10……9……8……」
何をするのか言わないでカウントをしていたら、影渡りが苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
脅しのように影渡りへ雷を流すと、1度大きく全身を震わせる。
「金嶺から依頼をされたんだ……」
どこかで聞いたことがあるような苗字だったが、あまり印象に残っていない。
師匠や先生ならわかると思い、スマホの録音機能を使い始める。
「依頼したのは【誰】ですか?」
「金嶺グループの……老婆が依頼人だ。名前は知らない」
「なるほど……目的は?」
「境界の秩序を乱し、ハンター協会に隙を作りたいと……言っていた」
「本当に?」
「ああ……本当だ。信じてくれ」
襲撃の主犯に関することを聞けたので、それが真実かどうかを判断するのは大人に任せることにした。
今度は聖奈との関係のことについて質問を始める。
この話が聞きたいからこそ、俺は影渡りを殺したい気持ちを抑えることができていた。
「あなたが聖奈に執着していた理由は?」
「それは……」
「遺恨を残されるくらいなら、あなたをここで殺さないといけないんですけど……どうしますか?」
理由を聞けないのは残念だが、聖奈に執着しているのは影渡りなので殺せば解決しそうだ。
首をはねるために剣を振り上げると、影渡りが泣きながら首を振る。
「草凪ギルドで兄のためと言いながら戦う彼女の姿を見て美しいと思ったんだ……それと同時に私のモノにしたいと思った……」
聞きたいことが終わったため、また聖奈がさらわれても困るので、首をはねようとしたら影渡りがさらに口を開く。
「そ、そこにいる草凪ギルドのやつらから聞いたんだ……聖奈がお前のもとにいるから、手に入れたかったら殺すしかないとな……」
「へぇ、それで聖奈をあんな姿にしたんですか」
もうこれ以上こいつの口から言葉を聞きたくないので、剣を振り上げる。
「待って!! そいつは澄人くんのほかに真さんもここへ来させようとしていたんだ! 今の話だけだと、それがわかっていない!!」
すると、草地くんが声を張り上げて俺を止めた。
真さんまで標的になっていたことは知らなかったので、一言もそのことに触れなかった影渡りを睨む。
「隠し事がありましたね」
「き、聞かれなかったから答えられなかったんだ!」
「ふむ……もうあなたの意志を信じるのは止めにします」
「どうする……つもりだ?」
影渡りが緊張で息を飲み、体を強張らせているのが分かる。
まだ
「ひ……」
この状況で笑ってしまった俺に首をつかまれている影渡りが恐ろしいものを見るように悲鳴を上げた。
草地くんには聞こえないように影渡りの耳元に口を近づけ、これからやることを説明する。
「知っていますか? 動物の体って微弱な電気信号で動いているんですよ?」
勢い余って神経を焼き切ってしまわないように、影渡りの体に流れている電気信号を魔力で探す。
「あっ……あっ……あっ……」
俺の電気による介入が始まると、影渡りの全身が小刻みに震え、口から白い泡を吹き始めた。
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