それぞれの試験⑨~期末テスト直前~

 期末テスト直前で部活が無く、学校から帰宅している時、聖奈について頭を悩ましてしまう。


 草地高校の生徒を連れて境界へ行った日から、聖奈の様子がどうにもおかしい。

 具体的には初日の夜、俺が1人で勉強をすると部屋を出た後に戻った時からだ。


 今まで1度たりとも自分でやらなかった洗濯を積極的に担当するようになり、全裸で家の中をうろつかなくなった。


(なんだか距離感も前とは違って近いんだよな……)


 特に自分の部屋で過ごすことが少なくなり、俺の部屋に入り浸るようになったことが困っている。

 何をするわけでもなく、勉強や読書、ラジオを聞いてお互いの時間を過ごしているだけだ。


 ただ、寝る時さえも一緒に居ると言い、布団へ潜り込もうとしてきたこともあったため、今は22時になったら退室しないと部屋へ入れないという約束をしてある。


(引き離そうとすると、言うことには従おうとするもののすごく悲しそうな顔をするから厳しいことが言いにくい……)


 俺にできたのは夜の安眠を確保するだけで、それ以外は聖奈のことを止めることはない。

 露天風呂へ入る時、聖奈の下着に衝撃を受け、普通の女子高生が付けている下着をスマホで検索してしまった。


(下着のことはお姉ちゃんに相談して……真さんと買い物へ行くように調整してもらえてよかった……)


 昔見た下着の値段が高いというだけで買っていないそうなので、女子高生が買いそうな物を真さんと選びに行ってくれている。

 お金もお姉ちゃんがプレゼントということで出してくれているため、誘いに乗ってくれた。


(誰だ!?)


 ドアノブに手をかけて家に入る直前に視線を感じ、雷による索敵を行うものの、周囲には誰もいない。

 最近になってこういうことが増え、警戒しているけれど気のせいなことが多かった。


(襲撃のことがあるから敏感になっているだけなのかな?)


 師匠の話では未だに犯行グループの特定はできず、草凪ギルドのバッジを持っている人物も不明なままだ。

 目的もわからないという、犯人に結び付くものは何一つ見つかっていない。


 部屋に荷物を置いて、着替えてからリビングへ向かうと夏さんがテレビを見ながらリラックスしていた。


「澄人様、おかえりなさい。今日も境界の計測へ行くんですか?」

「そうするつもりです。お姉ちゃんは……」

「香さんは書類を取りに県庁へ行っているので、帰りは遅くなると思います」

「そうなんですね……うーん……」


 お姉ちゃんへ場所を伝えてから境界の計測へ行くということになっているので、スマホで済ましてよいものか考えてしまう。


(まあ、連絡しておけばいいだろう)


 畳の上に座り、スマホでお姉ちゃんへのメッセージを作っていたら、夏さんが麦茶を入れてくれた。


「私も飲むので、ついでで申し訳ありませんが、どうぞ」

「ありがとうございます」


 グラスを傾けて飲み始めると、夏さんがテーブルに肘をつきながらスマホを見ていた。


「澄人様、臨時チームのことをなにか師匠から聞いていますか?」

「いや……特に……なにかありましたか?」

「観測員仲間から教えてもらったんですけど、すごく・・・評判が良いみたいですよ」

「すごく良いんですか?」


 困ったようにスマホへ目を向けていた夏さんがため息をつき、持っていたものをテーブルへ投げ出した。


「理由を聞きましたけど……私たちが活動していないからですね」

「あー……境界へ突入できる頻度が増えたとかですか?」

「そうです。後は、権利購入費用がかからないかとかもありました……臨時チームが解散したらどうするつもりなんだろう……」


 最後は呟くように言っていた夏さんは、コップに口を付けて麦茶を飲む。

 真友さんや草地くんも前よりも境界に入る頻度が多くなったと言っていたので、上から下まで十分に行けているのだろう。


 俺が境界を探していることもあり、境界には困っていなさそうだった。


(確かに、臨時チームが解散したら境界への斡旋がなくなるので、ほとんどのハンターが以前と同じように、競って高くなってしまった突入権を購入することになる)


 その対策も考えないとハンターによる暴動が起きそうな気もするが、師匠なら何とかしてくれるだろう。

 お姉ちゃんへメッセージを送信してから、お茶を飲み干して境界探索へ向かうことにする。


「それじゃあ、俺は行ってきます」

「気を付けてください。夜はお肉を焼こうと思っているので、遅くなったらなくなっちゃいますよ」


 夏さんに見送られて家を出た俺は、タクシーを使って直感に従って方向を伝えた。

 呆然とタクシーの窓から風景を眺めていると、ポケットに入れたスマホが震える。


 真さんからの連絡だったので、聖奈の買い物が終わったのかと思って通話ボタンをタップした。


「澄人くん!? 今どこ!?」

「今は……タクシーで街から離れているところだけど、どうかしたの!?」


 買い物が終わったにしては真さんの声が緊迫しており、ただ事ではないことが起こっているように感じた。

 タクシーの運転手さんに街へ引き返してもらうように伝えていたら、真さんの声が聞こえてくる。


「聖奈がさらわれたの!」

「どういうこと!? 聖奈が!? あの聖奈だよ!?」


 ルーク級の能力を持っており、剣を振るえば岩さえも両断する聖奈がさらわれるなんて想像もできない。


「複数の男性に囲まれて、抵抗できずに連れて行かれたわ!! 警察には電話をしたけど、香澄さんや先生には繋がらないの!! 澄人くんなんとかして!!」


 真さんは狼狽するように電話越しに俺へ訴えてきており、いち早く駆けつけてあげたい。

 タクシーの中にいる俺が慌てても意味がないので、落ち着いて今できることを思い浮かべる。


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