それぞれの試験⑧~生徒の境界突入について~
今回、生徒を連れて境界へ突入するのはハンター協会の会長である師匠が苦肉の策で案を編み出した。
条件としては、その場で発見された境界であることと、護衛としてクイーン級以上のハンターがいなければならないという2つが突入できる例外として公表されている。
(生まれたての境界を発見できるのが俺だけだけど、偶然発見することもあるからな……ただ、そこにクイーン級以上のハンターが居合わせってなかなかないぞ……)
境界を見つけてから危険度を測るとDと出たので、真さんへ連絡をして突入申請を終えた。
突入のためにアイテムボックスから武器などを取り出して準備をしていたら、先生が俺へ剣を差し出してくる。
「澄人、これを使え。お前の分も許可が下りた」
申し訳なさそうに先生が俺へ渡そうとしているのは【アダマンタイトの剣】で、聖奈の剣よりも若干太くて長い。
鑑定で本物であることを確認してしまい、さらに受け取りづらくなってしまった。
「えっ!? いいんですか?」
「ああ、昨日出来たばかりの新品だぞ。今回のお礼としてこんなことしかできないが……すまないな」
申し訳なさそうにしている平義先生は、本気でお詫びのつもりでこの剣を俺へ渡そうとしている。
正直境界へ案内をするだけで、お金では買えないこのような物をくれるとは思ってもみなかった。
落とさないように黒い鞘を両手で受け取り、剣を抜いてみる。
「凄い……先生、ありがとうございます!」
「いいんだ。それより、ここで待っているから境界へ行って来い」
「はい!」
待たせてしまった聖奈へ謝りながら境界へ入り、新しい剣を思う存分振るう。
境界内での作業を終えると、平義先生の車で一番近くの宿へ移動し、そこで宿泊をする。
もちろん、俺と聖奈は平義先生監視の下勉強を行うという、お姉ちゃんとの約束があるため、のんびりしていられない。
車で1時間ほどかかって宿に着くと、夕方になっており、明日も参加する生徒がちらほらロビーにいる。
「先生、明日も参加する人はどのくらいいるんですか?」
「10名程度だな。比較的硬い前衛と、支援系の生徒に残ってもらっている」
「なるほど……」
おそらく、その10数名がいないと戦力的に危うくなると予想した。
明日は今日よりも能力的に劣る生徒が多く、危険度が高くてもFと言われているので、それ以上のものはこちらで適宜処理をするそうだ。
ロビーで先生が受付を行い、案内をしてくれる人が来てくれた。
夕食後に勉強を行うので、集合時間と先生の部屋を教えてもらってから歩き出す。
「案内ありがとうございました」
「ごゆっくりおくつろぎ下さい」
旅館の人に俺と聖奈の部屋へ案内をしてもらい、扉を開けたら聖奈が感嘆するような声をもらす。
一番グレードの高い部屋と思えるくらいに広く、くつろげそうな空間が広がっていた。
「お兄ちゃん、見て! 露天風呂があるよ!!」
「おおっ!? 部屋に付いているのなんて初めて見たな……」
「こんなところに泊まっていいのかな?」
興味津々に部屋を探検していた聖奈が露天風呂を発見し、この客室が普通ではないことを確信する。
ここにくるまで黙っていた聖奈がはしゃいてくれたのも相まって、なんだか気分が高揚してきた。
「いいんじゃないか? 先生も別の部屋へ行っていたし、ここでゆっくり過ごそう」
「うん! お兄ちゃんなんだか旅行みたいだね!」
「確かに。こんなに良い部屋だとは思わなかったから、寝るだけのつもりで来ていたよ」
「私も!」
嬉しさのあまり2人で笑ってしまい、聖奈が元気になってくれて安心した。
荷物を置いてから近くにあった大きめのベッドへ横たわると、疲れがどっと押し寄せてくる。
普段しない作業で神経と体力を使ってしまったためだと思われるので、聖奈へ先にお風呂に入ってもらいたい。
「俺は少し休んでから後で入るから、聖奈が先にお風呂に入んなよ」
聖奈もベッドへダイブして体を布団に埋めて、顔だけこちらへ向ける。
「私も疲れちゃったから、後で入りたいな」
くたびれた顔で目を細めており、ツインテールも力なくしょげているように見えた。
夕食前と後で入らなければ先生と約束している時間に間に合いそうにない。
「なら、先に俺が入るか……聖奈は晩御飯の後でゆっくり入ってくれ」
「なんで? せっかくの広いお風呂だから、一緒に入ろうよ」
重い体を持ち上げながらベッドから這い出ようとしたら、聖奈が不思議そうにこちらを見る。
聖奈のキラキラとした瞳に見つめられ、その提案にうなずいてしまいそうになるのを理性で止めた。
「いや……それはちょっと駄目だろう……」
「どうして? 小さい時から1度もお兄ちゃんとお風呂に入ったことがなかったから、憧れていたのに……」
悲しそうな表情を浮かべる聖奈は、目を赤くして布団に顔をうずめる。
お互い高校生になって、一緒にお風呂に入ることに抵抗があったが、今まで尽くしてくれていた聖奈の憧れというのなら叶えたい。
「……わかった。夕食の後、一緒に露天風呂へ入ろう」
「本当!? やったー!! もうキャンセルしちゃダメだよ!!」
悲しい顔や疲労を吹き飛ばす勢いで聖奈がガッツポーズをしてベッドの上で喜んでいる。
(まあ、一緒にお風呂へ入るくらいどうってことないだろう……たぶん……)
これまで気にもしていなかった聖奈の胸は平らで、意識しなければ視線が向かうことはないだろう。
ただ、洗濯で1度も聖奈の下着を見たことがない。
(その謎を解明するために、聖奈とお風呂へ入ると思えば気が楽だ)
1年以上解けなかった謎を解くため、俺はソワソワしながら運ばれてきた夕食で腹を満たす。
その間、聖奈が上機嫌に話をしてくれていた内容が頭に入ることは一切なかった。
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