それぞれの試験⑦~観測員草凪澄人~
ギルドが休止してから初めての週末、街から離れた県境にあるひっそりとした山岳地帯に来ている。
境界が比較的生まれやすいものの、見つからない時はまったくないので、ハンターからは不人気の場所だ。
別のバスに乗っている草根高校の生徒を眺めながら、ストレッチを行って固まった体を解す。
(やっと着いたな……ずっと座っていて体が痛い……)
バスに3時間ほど揺られてようやく着くようなところで、俺たち以外に来ているような集団はいない。
ここで1日、観測員として、【助手】の聖奈を引き連れて境界を探し出す。
「澄人、最初の集団は後20分ほどで準備が終わるそうだ」
「わかりました。その間に探しておきます」
草矢さんから連絡を受けた平義先生が心配そうに俺へ時間を伝えてきていた。
一応持っていくように言われた計測用の機材を抱える聖奈が不満そうにこちらを見てくる。
「お兄ちゃん、私こんなことするなんて聞いていないけど」
「俺ばかりずるいから、聖奈も一緒に行くって言っただろう? こんなことしかしないから、嫌ならバスへ戻っていろよ」
しばらく歩いていたら、横を歩く聖奈が頬を膨らませながら抗議をしてくる。
この土日は、生活が困窮しているにもかかわらず、力不足で協会の臨時チームに推薦されなかった人たちを
「全部で100人くらいで、今日は半分が来ているから1日5ヵ所見つければ満足してくれるだろ?」
「見つかるの? この場所、最近あんまり出ていないって聞いているよ?」
聖奈もハンター関連の知識はかなり豊富で、県内の境界発生地についての情報収集は怠っていないようだ。
ただ、観測センターの記録を確認した時、定期的には見つけているため、人員不足でカバーできていないだけの印象を受けた。
「今のところ2ヵ所はありそう。あ、ここだ」
境界が生まれそうな場所を発見し、境界線が安定するまでじっと待つ。
その間、聖奈が地面へ荷物を降ろしてから、教わったように機材の準備を行っている。
「ここが……こうで……そっちのボタンを最初に……」
メモを見ながら作業をする聖奈は、文句を言いつつも担当する仕事はこなしてくれていた。
(こういうところは素直でかわいいんだよな……剣を持つと人が変わるけど……)
お姉ちゃんと聖奈はなぜか剣を握ると容赦がなくなり、目付きに殺気を宿す。
「できたよ! これで計測してみて!」
「ありがとう。助かったよ」
やるだけやってみようと思いながら機器の操作を始め、境界線に向かって照準を合わせる。
境界線が安定して青い光を放ち始めたので、危険度の計測を行うが、まったくうまくいかない。
一級観測員である夏さんの指導を受けて4級観測員の資格を取ることができたが、補助無しで行うとこんなに難しいことなのかと額に汗が噴き出てきた。
そばに立つ聖奈は何も言わないでくれているので、俺へ気を使ってくれているのだろう。
「ふー」
なかなかできないので、一旦落ち着くために息を吐き、手のひらの汗を服で拭った。
改めて作業を開始してから10分ほどで、ようやく機器のモニターへ危険度が表示される。
「出た……Eだ……聖奈、真さんへ連絡してくれる?」
「お兄ちゃん、お疲れ様。真へ場所と危険度を伝えて、このデータを送るね」
「頼むよ」
機器に記録したデータの送信と連絡を聖奈に任せ、俺は平義先生へ連絡をする。
ワンコールも鳴り終らないうちに電話に出た平義先生へ、境界を発見した報告を行う。
「危険度Eの境界を発見しました。突入しますか?」
「Eか……草矢先生が同行すれば大丈夫だろう。チーム1で申請しておいてくれ」
「わかりました」
真さんへ連絡をしてくれている聖奈へ、右手の人差し指だけを出して数字を伝える。
頷いた聖奈が数字を伝えると、事前に真さんへ渡してあるチーム表に従い、突入する人を登録してくれているはずだ。
(夏さんってやっぱりすごいんだな……じいちゃんありがとう)
境界の危険度計測を数秒で終わらせる夏さんのすごさを実感し、その人が俺のサポートをしてくれていることを幸運に思う。
どんな感覚があれば夏さんのような人材を確保できるのか、じいちゃんに直接聞いてみたい。
(幼い夏さんを見て、じいちゃんは何を感じ取ったんだろう?)
俺と聖奈が電話を終えて、計測機材を片付けている時に生徒の集団が現れ、草矢さんが境界の前へ生徒を集める。
邪魔になるので、次の境界を探すために立ち去ろうとしたら、天草先輩と目が合う。
(あれ? 治療系ハンターは臨時チームに優先して入れるって聞いていたんだけどな……)
天草先輩がここにいることに疑問を持ちながら歩き出し、周りに人がいなくなってから聖奈が俺の横に並んだ。
「天草先輩は、妹のことが心配だからこっちを希望したみたいだよ」
「よく知ってるな? 先輩から聞いたのか?」
いつの間にかそういうことを話すようになったのかと思っていたところ、聖奈が左右に首を振って否定する。
「……真友がそう言ってた」
「聞いたことなかったけど、なんで先輩と仲が悪いの?」
「言いたくない……」
それから聖奈が口を閉ざし、5ヵ所の境界観測が終わるまで最低限のことしか会話をしなかった。
5ヵ所目の突入が終わり、生徒の護衛をしていた平義先生が時計を見る。
「これで、今日来た生徒は全員境界へ入ったから帰すことにする……これ以上、別の境界が見つかってしまったら困るな……」
平義先生がわざとらしく困ると言っているので、俺は更に境界を探す。
聖奈もようやく自分たちが突入できる番になり、目を輝かした。
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