それぞれの試験⑤~平義先生からの依頼~
俺としては境界へ行けることは嬉しいが、案内をするだけでこちらのメリットがほとんどない。
それに、テスト期間だから活動を休止しているという理由もあるため、諸手を挙げて賛成することは難しかった。
ふと、教室から不安そうに真友さんと草地くんがこちらを見ていることに気付き、その視線が天草姉妹を連想させる。
(多数の人へ恩を売るというしかメリットがないけど……今回は緊急みたいだしそれでいいか)
人との繋がりはどこで役に立つか分からないので、今回はそれを報酬だと思うことにした。
先生が何も言わずにじっと待っているので、おそらく俺が了承するのも待っていると思われる。
「それなら俺は大丈夫です。ただ、移動手段や警備の手配……それと境界等の手続といった、今まではギルドが行なっていたその他の調整はすべてお願いしますね」
先生がそれを聞いて要望が通った嬉しさ反面、やることが増えたので肩を落としている中、一番重要なことを伝え忘れていた。
「最後に、俺が参加できるようにうちのギルドマスターの説得をお願いします」
「そうだな……休止中のギルドから人を借りるから、そこは筋を通さないと……だめだな……」
お姉ちゃんへの連絡を忘れたら話がこじれそうなので、部活の前に必ず電話をかける必要がある。
平義先生と話をしていたら休み時間が無くなり、次の授業担当の先生が教室へ入室していた。
「助かった、話が決まったらまた連絡する……これから授業か……」
教室の中を見てから、平義先生が首を解すように手でもみながら別の教室へ向かう。
しんどそうに歩く後ろ姿から、ハンターと先生の両立が体力的にしんどそうな印象を受けてしまった。
それから2つ授業を受けて昼休みになった時、電話を借りるために職員室へ向かおうとしたら、人に阻まれて進むことができなくなる。
階段で下へ向かっていたら人で溢れ、みんなが我先にと職員室を目指しているようだった。
「この中を進む気にはならないな……」
俺の用件は放課後になれば自分でできるので、先生のためにこの中を突っ切る気力が湧かない。
「げっ!? なんだよこれ、もう進めないじゃん……」
「みんな調査票が欲しいんでしょう? ほとんど全員が来ているんじゃない?」
踵を返して戻ろうとした時、紫苑さんと数人の1年生が上から降りてきていた。
特に話すことはないので、そのまま横を通り過ぎて自分の教室へ向かう。
「草凪くんも調査票をもらいにきたの?」
「えっ? いや……俺は職員室に行こうとしたけど、こんなんだから後にするよ」
その集団と階段ですれ違う直前にそれまで友達と談話をしていた紫苑さんが急に話しかけてきた。
声をかけられるとは思ってもみなかったので、首を振って否定しながらその場を去る。
(はて? 紫苑さんの友達かな? 恨まれるようなことしたか?)
朝とは違って血色の良くなった顔だなと思いながら通り過ぎると、集団にいる切れ目の男子生徒が【憎悪】の感情を込めて俺のことを睨みつけてきていた。
特に何をしてくるわけでもないので、そのまま気にせずに教室へ戻り、昼食をとる。
「絶対、先生たちもあんなに来るって思ってなかったぜ?」
「翔くん、そんな愚痴を言うくらいなら、早くご飯を食べた方が良いよ。もう昼休み終わっちゃう」
「げっ……マジか……」
昼休み終了ぎりぎりになってようやく、希望調査票をなんとか確保して真友さんと草地くんが戻ってきた。
草地くんが持ってきた昼食を掻き込むように食べ始める。
「真友、これ簡単に食べられてお腹の持ちが良いから、あげるよ」
「いいの聖奈? これ、あなたが部活前に食べているおやつでしょ?」
「おやつじゃなくて、ハンター用の軽食! それに、部活前に食べないとお腹が減って力が出ないってだけだし!」
聖奈が部活用に持ってきていたお気に入りの栄養食を真友さんへ渡していた。
補講に出て追テストで合格点を取った聖奈は部活に復帰しており、今日異界へ突入する予定になっている。
真友さんもそれが分かっているので、食べるのをためらっているように見える。
「いいから食べなよ。私は部活前に真友のお弁当を少しもらえれば大丈夫だから」
「なら……いただくね。ありがとう聖奈」
机の上に出していたお弁当を鞄へ戻し、真友さんが少し嬉しそうに携帯食の袋を開けた。
食べている様子をじろじろ見るのも悪いので、視線を落として2人が躍起になって取ってきた希望票のことを考える。
(数を絞るっていっても、あれだけの数が押し寄せたらさばけるのか? それに、俺の方に何人くるのか聞いていないぞ?)
協会の臨時チームに入れなさそうな人をこちらへ送るとしか先生から話をされていないので、具体的に頼まれる何人は分からない。
そんなことを考えながら授業を受け、副担の草矢さんが帰りのHRを行うために教室へ来た。
挨拶を終えて放課になったので、お姉ちゃんへ連絡をするためにスマホを取り出していたら、俺の机に誰かが手をつく。
「お兄ちゃん、部活へ行くでしょ? ……なにやっているの?」
聖奈がはしゃぐように声をかけてきて、俺のことを見ながら首をかしげている。
観測員のことで電話をかけないと真さんに迷惑がかかるので、先に済ませておきたい。
「電話をかけてから行くよ。先に行っていてくれる?」
「はーい」
聖奈がわざとらしく右手を上げて、廊下で待っている真さんと一緒に部室へ向かっていった。
お姉ちゃんの連絡先を開いてから、通話ボタンをタップしてしばらく待つ。
「もしもし、澄人? どうかしたの?」
「ちょっと相談があるんだけど、今大丈夫かな?」
「あー……学校の生徒を境界へ案内する件なら、平義さんから聞いたわよ?」
お姉ちゃんがペンを置いた音が聞こえ、先生が連絡をしてくれたことがわかった。
それとは別に俺から頼みごとがあるので、慎重に話を進める。
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