それぞれの試験④~クラスメイトの事情~

「お兄ちゃんどういうこと? 授業をさぼって申請してきたの?」


 真友さんの号令で授業が終わると、聖奈が俺の席へ眉間にしわを寄せて詰め寄ってきていた。

 ただ、聞いてくることが予想とは違ったので、軽くあしらいながら椅子へ座る。


「それを平義先生が許可をすると思うか?」

「……たぶんしない」


 平義先生がそういう人ではないことを聖奈がわかっており、納得して自分の席へ戻った。

 聖奈がほっとしたように横の真さんへ違ったみたいと言いながら、仲良く談笑を始めている。


(真さんって、実家と縁を切ったから、ハンターとして働けなかったらまずいんじゃ……)


 俺よりも真さんの心配をしてあげた方がいいんじゃないかと思っていたら、2人の会話が聞こえてきた。


「真はよかったよね。ギルドは休止でも、観測センターの機能は止めないから仕事が無くならないんでしょう?」

「あくまで観測センターの支所扱いだからね……それよりも、水上さんがあんまりこられなくなるから、何も問題が起こらないように祈っているよ」

「あははっ! 仕事を任せられて、真も認められたんじゃない?」

「それなら嬉しいけど……」


 観測センターの仕事は真さんに任せて、夏さんは自分の試験勉強をする時間を確保しているようだった。

 内容を聞いていたらちょっと気になることがあったので、話をしている2人に近づく。


「真さん、観測センターって、観測員を所長の裁量で雇えるよね? 給料いらないから、俺のことを登録するだけってできる?」


 突然話しかけて驚かせてしまったのか、真さんが口を開けて俺のことを見上げていた。

 

「お兄ちゃん、何がしたいの?」

「何って……境界を見つけたいんだけど、ハンター証が使えないから観測員になるしかないだろう?」


 清澄ギルドに登録されている俺のハンター証が使えないので、境界を登録する時に使える名前が無い。

 そこで、肩書が所長の真さんに頼んで、観測員としての肩書を用意してもらいたい。


「えっと……観測員の登録だけでいいなら、しようと思えば今日にでもできるけど……私は雇われ所長だから、ギルドマスターに確認をするよ?」


 真さんは伏し目がちになりながら、お姉ちゃんに確認するということを言っている。

 俺の勝手で真さんが怒られるようなことはしたくないので、こちらもできることはやっておく。


「それなら、俺も連絡しておくよ。許可が出たらよろしく」

「う、うん……」


 真さんの作業をスムーズに行ってもらうために、お姉ちゃんへそれっぽい理由を並べたメッセージを考えて送ることにした。

 ただ、放課後にならなければスマホの電源を入れることができないので、それまではお預けになる。


 聖奈が何かを言いたそうにこちらを見ていたが、真さんと俺を見て何かを考えるように口をつぐんでいた。

 席に着くと、なぜか空席が目につき、お姉ちゃんへ送る文章のことが脳裏の片隅に追いやられる。


(あれ? 真友さんと草地くんがいない……平義先生のところかな?)


 5人しかいない教室なので、誰かが席を外していたらすぐにわかる。

 ここにいない2人も真さんと同じように、誰からの支援も受けていない。


 ハンターとして働かなければ生活費等を捻出できないため、臨時チームの申し込みに行っているのだろう。

 臨時チームについては、師匠が頭を悩ましているのが容易に想像できた。


(運用方法も決まっていないからな……どうするんだろう?)


 授業を開始するチャイムが鳴っても2人が帰ってくることはなく、その代わりにまた校内放送を知らせるチャイムが流れた。


「境界攻略チームへ参加を希望する生徒は、放課後に面談を行うので、昼休みに希望調査票を職員室へ取りに来てください」


 放送中に暗い顔をした真友さんと草地くんが教室に戻ってきたので、何があったのか話を聞こうとしたら授業担当の先生が教室へ入ってきてしまった。

 放送が終わると同時に真友さんが号令をかけて、先生が授業を始める。


 話しかけるタイミングを逃してしまい、一旦2人のことは置いておいて、再来週に迫ってきた期末テストに向けて授業に集中した。

 次の休み時間になった時、授業担当の先生が出ていく前に平義先生が廊下から顔を覗かせてくる。


「澄人、ちょっといいか?」


 目が合ってから呼ばれてしまったので、渋々廊下へ出ると周りの目を気にしながら先生が口を開いた。


「確認なんだが……清澄ギルドが休止だと、お前がやってくれている【アレ】も……できないよな?」


 先生は小声で相談するように俺に聞いてきているものの、半ば諦めているようにも見える。

 アレは俺1人の力ではなく、ギルドの力を借りているためできないだろう。


「まあ……俺1人では境界へ生徒を連れていけませんからね……」


 話を聞きながらそうだよなと困りながら呟く先生が気になってしまった。

 教室の中から草地くんがこちらを覗きこんでいるような視線を感じつつも、困っている人をそのままにはしておけない。


「えっと……どうかしたんですか?」

「高校の生徒以外にも臨時チームへの希望者が多く、編成の調整が難航しているんだ」

「それで、少しでも人数を減らすために境界案内ですか? でも、さっきの集会で特定の活動以外は禁止って言われていますよ」


 師匠があれだけ強い口調で境界へ入るなと言っていたため、少人数で行っているこの活動が認められるのか怪しいものがある。

 しかし、平義先生は腕を組んで余裕そうに廊下の壁へよりかかった。


「ああ、それなら大丈夫だ。俺が護衛に付き、突入する境界の情報をできるだけ隠すことで許可が出ている」

「そんなことをして、他のハンターから高校生だけ卑怯っていわれません?」

「ばれたら襲撃犯への情報漏えいルートがわかるだろう? それも目的だと言っておけばいい……らしいぞ」


 平義先生が独断ではなく、師匠の提案でここへ来ていることを最後の一言で悟る。


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