それぞれの試験③~緊急集会~
「静かに! これより、緊急集会を始めます」
入学式の時に司会をしていた男性の先生が壇上でマイクを持って、集まった生徒を見下ろしていた。
集会の時にしか見かけない先生だったので、普通科を担当していると思われる。
「理事長より、重要な話があります。心して聞くように」
集まった生徒が静かになったのを見計らい、マイクを持った先生が声を張り上げた。
スーツに着替えた師匠が壇上の袖から現れ、司会の人からマイクを受け取っている。
「今日は突然集まってもらって申し訳ない。ただ、それだけ大変なことが起こっていると理解してほしい」
師匠が壇上の中央に立つとここにいる生徒に対して境界の襲撃に関する注意喚起を行い始めた。
俺はそれを聞きながら、計画をしている組織の目的を考える。
襲撃をしてハンターに怪我を負わせるというだけの目的なら、無差別に人を集める必要がないだろう。
(影渡りってハンターが1人で襲えば、誰にも見られずに実行できる)
それをしていないので、襲うことが目的とは考え難い。
また、本当に武器とお金を配布する足長おじさんのような役割をしたいのなら、わざわざ回収にはこないはずだ。
(あっ! この武器のことをすっかり忘れていた! 朝、師匠に言うつもりだったのに……)
最初にタイミングを逃し、天草姉妹の話を聞き入ってしまい、完全にこのことを忘れていた。
アイテムボックスに収納された、【アダマンタイト製の武具】数点を見つめてから、壇上にいる師匠へ顔を向ける。
「事件が解決するまでハンターの活動を原則禁止とする」
その言葉を聞いて、今まで黙っていた生徒がざわつき始めた。
ハンターとしての活動によって生活費を稼いでいる生徒もいるので、その人からすれば今回の件は死活問題になってくる。
草地くんや真友さん、真さんも活動によって生計を立てているため、不安そうに理事長を見上げていた。
「せい――」
「今、ハンター協会が事件に対応している間、境界の対応をするべく、臨時のチームを作っている!」
司会の先生が怒ったように顔を赤くしてマイクを口元に近づけて注意しようとした時、師匠がその人よりも大きな声を出す。
もしかして俺たちが参加できるのかと期待を込めるような呟きが四方から聞こえるが、ここには500名程度の生徒がいるため全員が加入させてもらえるとは思えない。
「ハンターの収入がなければ生活に困窮するなど、どうしても活動しなければならない者はこのチームへ参加して、活動することを認める。希望者はこの後担任へ申し出るように」
案の定条件があり、希望する人全員がチームの一員になれそうになかった。
この場に集まっている生徒は、どうしても活動しなければならないという理由を考えているのか、一言も発しなくなる。
師匠が頭を下げてから壇上を去るのを待って、司会の先生が解散を宣言した。
教室へ戻り始める生徒を余所に、体育館の壁へ背中を付けてもたれかかるように立っている平義先生を見つけたので、武器のことを相談するために近づく。
「先生、ご相談したいことがあるのですが、今お時間よろしいですか?」
「授業があるから手短に頼む」
周りに人が多く、話を聞かれるかもしれないので、知っている人しか分からないように言葉を選ぶ。
「影が探しているものを持っています。どうすればいいですか?」
「そうか……一緒に理事長室へ行くぞ。1限の先生には俺が連絡をしておく」
「わかりました。よろしくお願いします」
表情をピクリとも動かさず、平義先生が指で体育館を出るように指示をしてきた。
返事をしてから軽く頭を下げたら、平義先生がゆっくりと壁から離れる。
「先に理事長室へ行っていてくれ、俺は職員室に寄っていく」
俺を置いていくように早足で体育館を出るので、言われた通り理事長室に向かう。
大勢が教室へ向かう中、1人だけ違う場所へ向かって歩く俺を気にする生徒はいない。
しかし、職員室へ向かった平義先生がまだ来ていないので、待っていると誰かが近づいてきた。
「ん? 澄人、どうしたんだ? 授業は?」
壇上で見た姿のまま師匠が戻ってきており、教室へ戻るように指示をしてくる。
これ以上後回しにするわけにはいかないので、首を横に振ってから師匠の背後から来ている平義先生を見た。
「平義先生と師匠へお話があります。申し訳ありませんが、お時間をとっていただけると嬉しいです」
俺の視線に気付いた師匠は横目で後ろを見て、平義先生の姿を確認する。
「……そうか、それなら入れ。終わったらすぐに戻るんだぞ」
師匠が軽く息を吐いてから、理事長室の扉を開けてくれた。
平義先生と一緒に入室し、師匠が奥にある理事長席へ座る前に、アイテムボックスからアダマンタイトの剣を取り出す。
「連絡が遅れて申し訳ありません。昨日の夜、襲撃犯が持っていた武器を俺が保持していたのを忘れていました」
理事長室で黒い刀身の剣が蛍光灯の光に当たって、鈍く輝いている。
俺が剣を紹介すると、師匠と平義先生はほぼ同時に頭を抱えてしまった。
「澄人、もっと早く……いや、お前も動揺していたんだ、無理もない。持ってきてくれて感謝する」
苦笑いをしている師匠が、唖然としている平義先生の方へ顔を向ける。
師匠が咳払いをすると、平義先生がハッっとして俺の傍に寄ってきた。
「その剣を渡してもらえるか?」
「どうぞ。後、盾と槍もあるので、受け取りをよろしくお願いします」
「……わかった」
剣を受け取ってくれた先生へ、アイテムボックスから残りの装備を出して、渡そうとした。
俺が渡そうとした物を両手で受け止めきれないため、平義先生は理事長のテーブルへ剣を置いてから盾と槍を持つ。
師匠は何かを確認するように剣の柄をじっと見ていた。
「これで装備の入手経緯が分かるな」
「そうですね。理事長ハンター協会へ連絡をしていただけますか?」
師匠と平義先生が武具を見ながら話をしている。
俺は用件が終わったため、授業へ向かうために退室する。
「お忙しいところ失礼しました。教室へ戻ります」
理事長室を出て教室へ戻ると、話を聞いていた授業担当の先生は自然に受け入れてくれたものの、他の4人のクラスメイトから疑念の目を向けられた。
事件についてあまり口外しないように言われているので、なんと言い訳するのか考えていたら1限の授業が終わってしまった。
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