境界への客⑨~襲撃者~

 相手がどこにいるのかを常に雷で探りつつ、作戦をメーヌと意思疎通を図る。

 俺の意志を魔力へ込められるので、どうしたいのか考えるだけでメーヌがその通りに実行してくれる。


「本当にどこにもいないぞ!?」

「でも、外には出ていないって言っていたし、必ずどこかにいるわ! 手分けして探しましょう!」


 襲撃者は3人で、これから別れて俺たちのことを探そうとしていた。

 今、足元に俺たちがいるなんて想像もしていなさそうなので、メーヌへ合図を送って作戦を実行する。


「メーヌ」


 声をかけるだけでメーヌの体が光り、襲撃者を捕えるために大地を動かす。

 メーヌへ頼むと同時に、回避された場合を考えて俺も穴から飛び出した。


「全員埋まっちゃっている……それに、まったく強くない……」


 大地から飛び出した俺が見た風景は、首だけが地面から出ている大人の男女3人。

 鑑定でステータスを覗けるほど神格が高くなく、能力はナイト級にも届いていない。


「お前、どこにいたんだ!?」

「ここから出しなさいよ!! 私たちを誰だと思っているの!?」

「こんなことをしてただで済むと思うなよ!!」


 埋まっている人たちは顔を真っ赤にして俺へ向かって罵詈雑言を浴びせてきていた。

 必死にもがいているものの、首から下が埋まっている状態をなんとかできるようなスキルも持ってはいないようだった。


【緊急ミッション達成】

 侵入者を無力化しました

 境界時間継続(1時間)フリー権を授与します


 ミッションが達成された通知が現れ、侵入者を無力化することに成功したようだ。


(この効果を確かめるのは後回しだ。今はこっちの方が気になる)


 どうしてこんな人たちがアダマンタイトの武器を持っているのか不思議なので、俺の感覚が間違っていないのか確かめるためにメーヌへ武器の回収を頼む。


「はい、澄人」


 俺が3人の持っていた武器を回収すると、浴びせられていた声がさらに大きくなる。

 地面の中にいる楠さんへ聞こえそうなので、黙ってもらうことにした。


「あなたたちは違法侵入を行いました。首より上も地面に埋まってもいいのなら、口を開いていてもいいですよ。それよりも首を切られる方がいいですか?」


 回収した黒い剣の剣先を喉元に当てていると、途端に声を出さなくなった。

 剣や盾など3人が持っていた武具を鑑定した結果、すべてがアダマンタイト製の物で間違いない。


 少なくとも、この人たちレベルのハンターが手にしてよい武器ではないことを知っている。

 聖奈でもようやく許可が出たアダマンタイトの物をこの人たちがどうやって入手したのか聞く必要があった。

 

「これ、どうしたんですか?」

「も、もらったんだ。今回の訓練・・をする報酬で」

「訓練?」


 俺の一番近くにいた男性が苦し紛れとは思えないほど、はっきりとこの武器を入手した経緯を口にしている。

 他の2人もその言い訳に驚くことなく、そうだと言わんばかりにうなずいていた。


「境界突入中のハンターが襲われることが多くなってきたから、忠告するためにこういう活動しているんだ」


 多数の境界に突入してきて初めてこんなことがあったため、この人たちの言葉をそのまま信じることができない。

 また、お姉ちゃんや師匠からこういうことが起こるなんて一言も聞いたことがなかった。


(忠告ってことは、抜き打ちってことか? だからあえて言われなかった?)


 何も言われなかった理由はたくさん思い浮かぶものの、1人で悩んでいたらどれが正解なのか俺には判断がつかない。


「誰があなたたちに指示をしているんですか?」


 無許可でこんなことを行えばハンター資格を失うはずなので、ハンター協会にいる師匠クラスの偉い人が関わっているはずだ。

 それを聞きたいだけなのに、理由を流暢に口にしていた人がその質問をしたら気まずそうに口をつぐむ。


「極秘で行われているから言えないの」


 後ろの女性が男性をフォローするために必死に言い訳をしていたが、信じるわけにはいかなくなった。


「それなら、今からハンター協会の会長へ連絡を取るので待っていてください」


 入ってきた時や捕まえた時の言動から、この人たちがまともに依頼を受けて襲撃をしてきたとは考えられず、今の対応でこのまま解放することはできないと判断した。


「待て!! 本当だからここから出してくれよ!!」

「あなたのことはちゃんと対応できているって報告するから!! 私たちを信じて!!」


 俺が踵を返すと、黙っていた3人の男女が再び大声を出し始めている。

 メーヌに守ってもらっていた楠さんを地中から出して、後ろの声を気にしないようにしてもらいたい。


「ごめん、ちょっと問題が発生したから境界を出るよ。あの人たちは無視してくれる?」

「う、うん……」


 境界を出る前に、あの人たちが時間切れで弾き出されないように無料延長を使用する。

 楠さんをエスコートしながら境界を出たら、警備の人たちが地面に倒れていた。


(これは訓練じゃない!! 本物の違反侵入者が来たんだ!!)


 ただの訓練でここまでする必要を感じないため、回収した物をアイテムボックスへ放り込んで対応に急ぐ。


「楠さん、絶対にここを動かないで!」


 返事を聞く前に警備員さんへ駆け寄り、息があることを確認できた。

 治療を行おうとするが、10名ほどいる人が全員倒れているので俺だけでは助けられそうにない。


 夏さんへ電話をかけて、地面に置いたスマホをスピーカーモードにしてから治療を始める。


「澄人様、境界が終わりましたか?」

「夏さん! 境界に侵入されました! それに、警備の人たちが瀕死です!!」

「すぐに対応します。侵入者はどうしましたか?」

「境界内で拘束しています! これからどうすればいいですか!?」


 電話に出てくれた夏さんへ怒鳴りつけるように話しかけると、一瞬で緊張感が伝わってくれたようだった。


 救急車や周辺の警備を強めるように手配を行い、数分も経たないうちに周辺の再封鎖が完了する。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございました。

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