境界への客⑧~見学終了~
「こうやって貴金属を回収したら、境界に入ってから行うことが終わりだよ」
召喚したメーヌが俺の周りを漂いながら、鼻歌交じりに貴金属を集めてくれている。
今までよりも範囲が広くて量が多いため、ポイントショップで売却すれば500ポイントくらい軽く越えそうだ。
(ポイントショップがアイテムや装備の買い取りまでやってくれるって気付けてよかった)
モンスターを倒した時、自動的にアイテムボックスへ入れられる物の処分に困り、タップし続けていたらポイントに変換することができた。
それにより、今まで回収された大量の収集品を売却して、10万ポイントほど手に入れられた。
訓練用境界ではミッションが発生しないため、これ以上ポイントを稼ぐのならこの後別の境界を探す必要がある。
集めた貴金属をアイテムボックスへ入れていたら、楠さんがメーヌを目で追っていた。
「その子って、あなたのように使っている人が多いの?」
「僕たちを召喚できるのは澄人だけだよ!」
「え!?」
俺の代わりにメーヌが質問に答えつつ、楠さんの眼前へ移動する。
意思を持っている精霊と会話をしている現実を受け入れているのか、楠さんが驚きながらメーヌを見ていた。
「そ、そうなの? 草凪くんはすごいんだね……」
「本当にすごいんだよ! きみは気付いていないと思うけど、澄人が体力を回復してくれているんだ!」
「た、体力を……回復?」
メーヌは自慢気に楠さんへ俺のことを紹介しており、黙っていてほしいことまで話をしてしまっている。
楠さんが助けを求めるような目を俺へ向けてくるので、メーヌを黙らせつつ笑顔を向けた。
「境界内って自然に体力が減っちゃうんだ。だから、底を突かないようにする必要があるんだよ」
「無くなったらどうなるの?」
「動けなくなって、助けがないとそのまま境界の外へ弾き飛ばされるよ」
「死ぬとかじゃないんだね」
楠さんの体力を鑑定で確認しつつ、軽く受け取っている彼女にどうなるのか現実をしっかりと教える。
「まあ、その結果ほぼ瀕死になって、数週間は動けなくなるけどね」
「そ、そうなんだ……それはきついわね……」
少しきつめの口調で言ってしまったため、楠さんを委縮させてしまった。
境界を追い出されるということで、境界の制限時間についての説明もした。
【滞在残り時間 0:15:48】
この境界にいられる時間が15分程度しかないので、メーヌへ貴金属の回収を急いでもらう。
あらかた回収が終わり、楠さんを連れて境界を出ようとした時、なぜか誰かがこちらへ来ようとしていた。
境界線が青い光を何度も放っていたため、隠れるためにメーヌへカモフラージュ用の穴を地面へ作ってもらう。
「楠さん、説明は後で必ずするから、今はここへ入って!」
「えっ!? ちょっと!?」
メーヌは一瞬で俺たちがぎりぎり入れる穴を掘ってくれたので、楠さんをその中へ放り投げる。
俺も穴へ隠れてから、メーヌへ蓋をしてもらい、音だけで外の様子をうかがう。
すると、密着していた楠さんが震え始めるので、小さく声をかける。
「大丈夫?」
「平気……平気よ……やっぱり無理、暗いのだけは駄目なの」
俺にしがみつきながら震える楠さんの不安を解消するべく、火の精霊を召喚して明かりを確保した。
何もないところから現れた小さな無数の火の玉で明るくなり、楠さんの体の震えが止まる。
「これもあなたがやっているの?」
「そうだよ。これで大丈夫かな? ちょっと静かにしていてね」
口を閉ざすと数人が地上に降り立つ音と振動を感じ、しばらく待つと会話を始めた。
「誰もいないぞ? どこにいるんだ?」
「早く探せ! 警備のやつが後10分くらいしかないって言っていたぞ!!」
「いちいちうるせぇな! 黙って探せよ!! 襲撃しないとこの武器が回収されるんだぞ!!」
「あんたたち口だけじゃなくて体を動かしな!! 相手は子供だからそこらにいるはずさ!!」
数名の男女は俺たちが境界に入っていると知りながら、侵入してきているようだった。
それも、襲撃を目的としていることをはっきりと言っており、それを聞いた楠さんが恐怖で顔から血の気が引いている。
「草凪くん……こんなことって……良くあるの?」
「いや。誰かが突入している境界へ無許可で入ったらハンターの資格を失って、今後一切活動できなくなるはずだから、普通はないよ」
楠さんに状況を説明しつつ、今この境界で普通じゃないことが起きてしまっていることを自覚した。
それと同時に、最近あまり見なかった緊急を知らせる赤い画面が表示される。
【緊急ミッション:侵入者を制圧せよ】
成功報酬:境界時間継続(1時間)フリー
※1境界につき1回
達成条件:侵入者全員の無力化及び死亡
1回500ポイント使用できる境界の滞在時間を延長する効果が使い放題になると報酬に書かれている。
夏さんがいない時、境界に入るたびに使用していたため、生活ミッションで獲得したポイントをこれに当てていた。
これからはその分が溜められると思うと、襲撃者へミッションを発生させてくれてありがとうと伝えたくなってくる。
(この状況だと無力化の方がいいな。なんでこうなったのか聞かなきゃいけないし)
幸いなことに、雷の気配察知で相手がどこにいるのかは把握できているので、無力化はそんなに難しいことではない。
ただ、襲撃を行っている人が聖奈と同じような武器を持っているため、慎重に動く必要がある。
(聖奈級の相手が数人……1度で決める必要があるな……)
相手がアダマンタイト製の武器を持っているような実力者と判断し、確実に無力化するために全力で奇襲を行う準備をする。
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ご覧いただきありがとうございました。
明日も投稿する予定です。
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