境界への客⑩~再封鎖~

「きみが侵入者に襲われたハンターかな?」


 そんな中、俺が3人目の治療をしている時に中年の男性が後ろから話しかけてきた。

 妙に高圧的なその風貌から警備の人には見えず、俺は雷を待機させながら治療を続けて対応をする。


「そうですが、あなたは?」

「そいつらが使っていた武器はまだ中にあるのか?」


 この状況で周りの人や俺の質問を無視して、武器について聞いてくる男性に対して警戒を強めた。

 また、鑑定でステータスを覗こうとしても、神格が高いため見ることができないため、緊張感が高まる。


「いや……あの子を守るために必死だったので、そこまでわからないです」


 心臓が強く鼓動する中、慌ただしい雰囲気になってしまい、境界のそばでおろおろとうろたえている楠さんに視線を移す。

 中年男性も楠さんのことが目に入ったのか、納得をするように視線を外して境界を眺めた。


「そうか。犯人はまだ中にいるんだな?」

「ちょっとそれも……」

「協力ありがとう、治療を続けてくれ」


 一方的に質問だけをしてきた中年男性は聞きたいことが済んだのか、境界へ向かって一直線に歩き出す。

 表面的には冷静を装っているが、男性の心の中が憤りを感じていたため、境界内の襲撃犯へ何をするかわからない。


(あの人……なんだったんだ……)


 なぜかスーツ姿でここにいる男性が境界へ入る前に数台の救急車が到着したので、治療を来てくれた人たちに任せる。

 俺が男性を追いかけて境界へ入ろうとした時、楠さんが俺の腕をつかんできた。


「草凪くん、一体何が起こっているの?」

「俺にもわからない。怖い思いをさせてごめんね」


 恐怖で足を震わせている楠さんを置いていくことができず、境界の中へ中年男性を追いかけていくのを止めた。

 その代わりに、メーヌに頼んで中の様子を探れないか頼もうとした時、耳元に魔力が集まる。


「澄人、境界線を挟んだら力を送るのは無理だよ」


 メーヌが小声で俺へできないと教えてくれていた。

 こんなに人が多い場所でメーヌが姿を現すとさらに混乱するので、配慮してくれたのだろう。


「わかった」


 耳元にいると思われる小さなメーヌに対して呟くように返事をすると、魔力が飛散した。

 楠さんに腕をつかまれたまま今の境界へ入るのは危険なので、新しく来てくれた警備員さんへ保護してもらおうとしても、手が空いている人が誰もいない。


「あの、すいません」

「はい? なんですか?」


 たまたま近くを通ったあちこち移動して指示を出している男性の警備員さんを捕まえて、事情を説明する。


「清澄ギルドの草凪ですが、またこの境界へ入りたいのでこの子を保護していただけますか?」


 ハンター証を見せながら説明すると、警備員さんは難しい顔になり、それはできませんと言いながら言葉を続ける。


「この境界は閉鎖となりました。申し訳ありませんが、聞きたいことがあるため調査員が来るまでこの場に残っていていただけますか?」

「さっき、180センチくらいで髪型がオールバックの男性が境界へ入っていきましたけど……あの人は調査員なんですか?」


 境界が封鎖されたと聞いて、怒りながらこの中へ入っていった男性のことを切り出す。

 一応、調査員という可能性もあったが、そのことを聞いた警備員さんは肩の付近に付いていた無線を手に取る。


「それは本当かい!?」

「はい。中に武器と襲撃者が残っているのか俺に聞いた後、入っていましたよ」

「それはっ!? いや……教えてくれてありがとう」


 警備員さんは俺たちに頭を下げた後、無線へ何かを連絡してから境界を見張っている人たちの方を向く。


「おい! さっき男性が境界に入ったか!?」


 境界を挟むように立っている2人の警備員は顔を見合わせた後、首を振り、誰も入っていないと意思表示をしていた。

 そんなはずはないと口を開こうとした時、大声を出した警備員さんがやられたと悔しそうに呟く。


「緊急! 緊急! 【影渡り】が出た! 総員サーモグラフィーを装着せよ!!」


 その男性が無線へ叫んだと同時に、警備員さん人たちが一斉に片目へ何かをかぶせるように付けていた。

 警備員さんたちが周囲をくまなく探すように顔を動かしている。


「影渡りがいたぞ!! 今、境界を出た!!」


 境界の方を向いていた人が声を張り上げ、誰かが境界から出たことを知らせていた。

 しかし、俺の目には境界を挟むように立っている警備の人しか映っていない。


「逃げたぞ!! 追え!!」


 数名の警備員さんが必死の形相で誰もいない道路に向かって走り出すのを見送っていたら、いつの間にか背後に誰かが立っている。

 楠さんを庇うように手を伸ばしながら慌てて振り向くと、肩を上下に揺らして荒々しく呼吸をしている平義先生がいた。


「澄人無事だったか!? それに、きみは楠……だな? なんともないか?」


 先生が少しだけ安堵したように俺と楠さんへ声をかけてきたので、うなずいてなんともないと返事をする。

 楠さんはようやく頼りになる人が現れ、力が抜けたように膝から崩れ落ちようとしてしまう。


「大丈夫?」

「ちょっとだめ……立てないみたい……」

「2人とも今日は帰るぞ。話は俺がつけておく」


 倒れそうな楠さんの体を抱きかかえるように支えると、先生が警備の人へ声をかけてから俺たちをこの場所から解放してくれた。

 先生が乗ってきたと思われる車に乗り込み、楠さんを寮で待っていた草矢さんに任せる。


「最近、境界内で活動しているハンターが襲撃される事件が多発しているんだ」


 車で2人きりになってから、先生がずっと閉ざしていた口を開き、何が起こっていたのか教えてくれた。

 2週間ほど前から境界に突入中のハンターが襲われる事件が起き始め、最近になってようやく犯人が捕まったようだ。


 しかし、その襲撃は組織で行われており、【影渡り】と呼ばれるキング級のハンターが関わっていることがわかった。

 そのハンターは境界へ突入することはせず、企業から依頼を受けることを主な活動にしているため、今回もどこかの企業に雇われていると推測されている。


 相手が先生とは違って現役のハンターなので、事件が解決するまで境界に入るのは止めるように釘を刺された。


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ご覧いただきありがとうございました。

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