境界への客②~楠さんの相談~

「私が送った文章がちょっと長くなって申し訳なかったけど、返信をしてくれないってどういうことなの? 真剣に相談をしたかったのに!」

「いや、これ長いってレベルじゃ……」


 楠さんから送られてきたメーセージは4画面分にわたる長文になっている。

 自己紹介だけでも、北海道出身であるということから、最近は寮で暮らしているから自炊が趣味になっているということが書かれていた。


 用件としては学校生活で悩みがあり、先生に相談をしたがそのうち慣れると言われたので、聖奈が相談相手として俺のことを薦めたらしい。


 とりあえず、ここにいると多数の生徒に見られるので、学校へ向かうようにうながしてみる。


「楠さん、後10分で予鈴が鳴っちゃうから、学校へ行かない?」

「……行くけど、その前に返信してくれなかった理由を聞かせてよ」


 150センチほどしかない楠さんは俺を下から睨み、唇を噛みしめていた。

 俺はロックを外した状態で自分のスマホを楠さんへ差し出す。


「俺、夜9時以降はスマホを操作しないんだ。今までメッセージとかも一切送っていないから、確認していいよ」

「ただの自粛? 見てもいいなら見せてもらうわね……」


 両手でスマホを操作しようとする楠さんは、画面を見てほとんど手を動かさない。

 何をしているのかわからないが、横から口を挟まないで待つ。


「なにも入っていないじゃない。メッセージアプリしか使ってないの?」

「ネットもたまに調べるのに使っているけど……」


 メッセージアプリを見つめていた楠さんは、首を横に振って俺へスマホを返してくれた。


「プライバシーがあるから、メッセージは見ないわ。スマホを使わない理由は?」

「眠れなくなるっていうから……」

「は? 親に止められているとかじゃなくて?」


 楠さんが俺の理由を聞いて、信じられないものを見るように目を見開いている。

 今の反応だけで聖奈が楠さんへ家族のことをあまり話していないこともわかり、余計なことを言って気を使わせないようにする。


「そうだけど」

「……信じるわ。今日の放課後に何か予定はある?」


 小さく笑いかけてくれた楠さんが行きましょうと言いながら歩き出すので、一緒に学校へ向かう。


「特にないよ」


 朝、放課後の予定が無いことを確認していたので、迷わずに言葉を返した。


「それなら、相談に乗ってほしいから、放課後、校門で待ち合わせない?」


 一緒に校門を通っている時に予鈴が鳴るので、後5分で教室に着いていなければ遅刻になってしまう。

 第2校舎は楠さんの教室がある第1校舎の奥にあるので、歩いていたら間に合わない。


「わかった。行くお店とかはお詫びに俺が決めておくよ。またね」

「お店!? ちょっと!!」


 俺が走り出すと楠さんは時計を見て、追いかけるのを止めたようだ。

 後数分で本鈴が鳴るという時に教室へ着き、俺を生贄にした聖奈がチラリとこちらを見てバツが悪そうに顔をそむける。


 こちらを見ないように顔をそむけている聖奈へ近づき、肩を軽くつかむ。

 俺に肩をつかまれた聖奈はビクっと体を震わせ、ごめんなさいと言いながら俺の方を向く。


「聖奈、朝のHRが終わったら話がある。なんのことだかわかるな?」


 他の3人がなんのことだという目を向ける中、聖奈はさらに謝るように俺へ両手を合わせる。


「お、おてやわらかに……」

「それじゃあ、HRを始めるぞ……澄人、何をしているんだ?」


 空いていた扉から入ってきた先生が教卓へ向かいながら、なにをしているんだという顔で俺を見てきた。


「すいません、戻ります」


 最後に聖奈の肩を一瞬だけ強く握り、席へ着く。

 先生が出欠を取った後、面倒そうに聖奈以外今日は特別な予定はないと一言だけ口にしてHRが終了する。


 教室を出て行く先生を見送ってから聖奈を連れ出そうとしたら、俺の足元に滑り込んでくる影が見えた。


「お兄ちゃんごめんなさい! 私が悪いです!」

「お、おう……」


 床をすべりながら土下座をする人を初めて見て、それが自分の妹であるという衝撃に、言いたいことが全部吹き飛んでしまった。

 俺の呟きを聞いた聖奈が嬉しそうに顔を上げる。


「許してくれるの!?」

「許すも何も、最初から怒ってないよ。俺は聖奈の知っている楠さんのことを聞きたいだけだ」


 急に楠さんに話しかけられて驚いたので、聖奈がどんなことを期待して俺に紹介したのか知りたい。

 土下座の姿勢になっていた聖奈は安心したように立ち上がる。


「なーんだ。お兄ちゃんを置いて行ったから怒っていると思ったよ」

「なるほど、お前は怒られることをしたって言う自覚があるんだな?」

「えっ? それは……」


 苦笑いをする聖奈が怯えるように真さんへ助けを求めるので、兄妹のことに他人を巻き込む前に反省をうながした。


 素直に申し訳なさそうに謝る聖奈から、楠さんがこの学校に来てから周りにハンターが多く、クラスメイトなどと話が合わなくて悩んでいるということを聞き出す。


 その情報があれば相談に乗りやすいので、どのようにアドバイスをすればいいのかわからないので、昼休みに師匠の部屋へ向かった。


 師匠も1年生で唯一ハンターではない楠さんのことを気にかけており、周りとの違いに悩むだろうと思っていたそうだ。


 それならなぜ対策をしないんだと師匠へ抗議しようとした時、お前に任せると笑顔で託された。


「……どこまで師匠は力を貸してくれますか?」

「できるかぎり貸す。楠瑛は必ずこの学校に必要な生徒になるはずだ」


 俺のやりたいようにしてもいいと師匠が言ってくれたので、ほとんど制限がなくなった。

 それだけ師匠も楠さんに期待をしているということがわかり、頭を下げてから退出する。


「ありがとうございます。今日の放課後に話し合いをするため、全部事後報告になると思いますが、責任よろしくお願いします」


 師匠が半笑いでお手柔らかに頼むとうなずいてくれたので、理事長室を後にした。

 俺はどんな流れで楠さんの悩みを解決できるのか考えながら午後の授業を受け、放課後が待ち遠しくなる。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


カクヨムコンに応募しております。

応援よろしくお願いします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る