異界と鍵⑩~山の試練終了~
あまりの件数に目を奪われてスマホの画面を見つめていたら、お姉ちゃんから電話がかかってきたので恐る恐る先生へ差し出した。
「先生、対応お願いします」
「……もしかして、草壁からか?」
「そうです」
先生が自分のスマホを見ながらこっちにも来ていると口にしており、連絡をしなかったのは俺かとため息交じりに言っている。
自分のスマホをポケットへ入れ、俺の差し出したスマホを受け取ってくれた。
「わかった。出よう」
先生が通話ボタンをタップした瞬間、離れていても分かるくらい電話越しに俺の無事を確かめるような夏さんの声が部室内に反響する。
あまりの声の大きさにスマホを耳から離した先生は、スピーカーボタンをタップして会話をしようとしていた。
「あー、水上か? 平義だが遅くなったが、異界から無事に帰還したぞ」
「平義さんが一緒なのに、なんでこんなに遅くなっているですか!!?? 澄人様の声を聞かせてください!!!!」
「わかったからそんなに大きな声を出すな、澄人がたじろいでいるぞ」
夏さんが遠慮をせずに先生と話をしており、面識があるというよりもお姉ちゃんとの対応に近い感じを受ける。
それはそうとして、とても心配をかけたようなので、返されたスマホへできるだけいつも通りに声をかけた。
「夏さん、ご心配をおかけしました。異界内で少し――」
「聖奈ちゃん!! 澄人様の声が聞けたわ!! 香さんを止めてきて!!!!」
「はい!!」
話をしている途中で嬉しそうな夏さんの良かったという声がしたと思ったら、俺の与かり知らぬところでお姉ちゃんがどこかへ行ってしまっているようだった。
夏さんが聖奈へお姉ちゃんを止めるための指示を出している。
「澄人様は学校にいらっしゃいますよね?」
「澄人、貸せ」
返事をしようとしたら、平義先生が俺へ手を差し出してきたので、スマホを渡す。
再び夏さんと話をするためにスピーカーモードを解除した先生は、ちょっと待っていろといつにもない真剣な表情になる。
「水上聞こえるか? もう今日は遅いから、澄人は学校に泊まる。わかったな? 一応、俺もそっちへ行く。以上だ」
通話を終了した先生は、部室の奥にある監視所とは別の部屋の扉の鍵を開けた。
その扉を開け閉めしてから、先生が俺へ鍵を渡してくる。
「その部屋の鍵だ。お前の周辺が騒がしくなっているから、今日はもうここに泊まってくれ。明日の朝9時に校門へ出てきてくれるか? それまでに何とかしておく」
こんなに遅くなったのは予想外だったなとぼやく先生は苦い顔をする。
ただ、俺を休ませてくれようとしていることがわかるので素直にしたがう。
「ありがとうございます……ここへ泊まれるんですか?」
「ああ、食料もあるはずだ。適当に食べてくれ」
じゃあ、俺は後処理に行ってくると部室を出た先生の後ろ姿は肩をすくめ、力なく歩いていた。
先輩も入ったことがないと言う部屋の中は、俺が前住んでいた小屋に似た作りになっている。
「この布団よく寝れそうだな。奥がシャワーかな?」
フカフカなベッドやシャワー、コンロなど普通に過ごせるだけの施設が備え付けられていた。
部室に置いてあった荷物を回収してから、ハンタースーツを脱ぎ、体をきれいにするためにシャワーを浴びる。
ここへ来るときに来ていた私服に着替え、簡単な料理でお腹を満たす。
寝る支度を整えてベッドへ横になってから異界での出来ことを、ログを見ながら振り返る。
(平原の鍵はシークレットミッション……スキルの【グラウンド・ゼロ】ってなんだ? それと大地の精霊と契約って、もうスキルにあるけど意味はあるのかな?)
山の試練の最高ランク報酬として、新たなスキルを授与されていた。
いきなり実戦では使えないので、どんなスキルなのか詳細を見たらうなり声が出てしまう。
【スキル詳細】
スキル:《グラウンド・ゼロ》
使用条件:知力S以上
消費魔力:5万まで
説明:広範囲に及ぶ炎属性の範囲魔法
スキルに使用条件なるものを初めて見て、苦労?して獲得したスキルだったが今の自分の知力では足りないので使えない。
ステータスをAからSに上げるのに貢献ポイントが10万も必要なため、しばらく使えないなと思って画面を消そうとしたら、追加のように説明が出てくる。
【お知らせ】
スキル使用条件に1段階能力が足りない場合は、威力を0.6倍に下げて発動可能です
2段階足りない場合は発動できません
こんなにタイミング良く表示されるものかと思いつつ、今度使ってみようと眠い目をこする。
神気解放を行った夜は非常に強い眠気に襲われ、使った時間が長ければ長いほど抗えない。
(最後は……精霊契約の間へ入場する許可? そもそも、それはどこにあるんだ?)
許可をされたところで、どこにあるかわからなければ入りようがない。
いつもはもう寝ている時間であることと、強い眠気に体をゆだねたら何も考えられなくなった。
精霊契約のことを考えながら眠りにつくと、全身が暖かい光に布に包まれたような感覚になる。
「澄人、起きて! やっと会えたんだよ!?」
1人で寝ていると思っていたら、子供のような声に起こされようとしている。
状況が飲み込めないので体を起こすと、俺の全身が白い光になっていた。
「これは……どういうこと?」
「おはよう澄人。ここは土の精霊が集まっている場所だよ」
「土の……精霊……」
手のひらほどの土の小人のような姿をしたものが俺の近くを飛んでいるため、これが夢であっても不思議ではない。
ただ、先ほどから聞こえているこの声は、土の精霊を呼んだ時に耳に届いたことがあった。
(この夢に没頭してみるか……)
俺は全身が白く光っていることや、土でできた小人を全部夢だと思い込み、堪能することにした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
カクヨムコンに応募しております。
応援よろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます