異界と鍵⑦~山の試練~

(頂上って……この山のか?)


 山の試練の境界に突入したら、上が見えないほど高くて広い山がそびえ立っていた。

 それも正面だけではなく、左右や後ろにも別の山があり、それぞれ大きさや高さが違う。


(四方を山に囲まれている……どの山でもいいのかな?)


 俺はぽっかりと空いた山底のような場所に立っており、それぞれの山の中へ通じていると思われる洞窟のような入口が4つ見えた。

 ここにはいる時に与えられた試練の内容を何度か確認しても、頂上へ行けということしか書かれていない。


(とりあえず、一番低い山から登ろうか……洞窟へ入らずに山を駆け上がるのは止めた方がいいな……)


 雷による察知でわかったのは、洞窟にはモンスターの気配がしないにもかかわらず、どの山でも木々が生い茂っている山麓にはおびただしい数のモンスターが密集していることだ。


 さらに、上空に鳥や魔力を伴いながら浮遊しているモンスターが見えるため、洞窟に入らずに山を登った場合、これらをすべて相手にしなければならなそうだった。


(時間がかかりそうだから、洞窟を進むしかない)


 まずはこの中で低く見える山へ通じる洞窟へ進もうとした時、地響きとともに岩が擦れる轟音が響き渡る。

 俺が入ろうとしていた洞窟以外の入口が閉じられてしまい、心の中でも読まれているのかと思ってしまった。


(どういうことだ? ここだけが開いている……)


 他に何か起こらないのか警戒をしながら洞窟へ足を踏み入れると再び地響きが鳴り、退路がなくなる。

 振り返ったら閉じられた入口の脇に階段のようなものが見え、はるか上まで洞窟の側面を沿うようにらせん状に続いていた。


(これを……登るのか?)


 真上に針の穴ほどの大きさで異界の空が見え、一番低いと感じた山でも相当高いことがわかる。

 階段へ近づいたとき、この境界へ入った時と同じ青い画面が目の前に表示された。


【山の試練1】

 下からマグマが迫ってきます

 追いつかれないように階段を登ってください


「嘘だろ!!??」


 俺が画面を読み始めた時、地面が赤く発光して靴の裏が焼ける臭いが鼻につく。

 画面を投げ捨てるように消し、急いで階段を駆け上がる。


「地面からマグマが上がってきている!!!!」


 らせん階段を駆け上がりながら下を見ると、赤くうごめくマグマが熱と光を発しながら地面から湧き出ていた。

 少しでも俺が走る速度を緩めると追い付かれそうだ。


(身体能力を上げて、少しでも速度を上げよう!!)


 乱暴な操作でアイテムボックスを表示させて、草薙の剣を取り出す。

 剣を右手で持ちながら神気解放を行い、解放時間を1時間に設定した。


【神気解放を発動】

 境界内にいる間身体能力が《2倍》向上します

 神の一太刀を次回使用できるまで《1:00》


 草薙の剣から俺の体に金色の光が流れ込み、身体能力が強化される。

 アイテムボックスに剣を片付けてから、思いっきり腕を振って走り始めた。


(これで余裕ができた……でも、これでいいのか?)


 身体能力を上げたので速く走ってはいるものの、らせん状に走っているため頂上に着くまで相当距離があり、途方もなく時間がかかりそうだった。

 走っているだけでは駄目だと判断し、自分の走っている場所の上にある階段を見る。


(1段上なら天翔で届くか!?)


 届きそうな場所を目視で確認し、階段の縁を踏み切って天翔を使用した。

 身体能力を強化していたためか意外にも1段上までは余裕があり、3歩目で俺の眼前に階段が現れ、4歩目で確実に着地することができた。


(連続で使用し続けて、ほぼ直線距離で天井まで行ってやる!!)


 階段へ着地しては助走をつけて天翔を使用するということを繰り返し行い、余裕を持ってマグマを見下す。

 迫りくるマグマから視線を外し、真上にある大きくなった丸い空を見上げる。


(最初に下から見上げた時の目測で、今いる地点が3分の1くらいか……)


 経過時間を見ると1時間ほど経っているので、これだけのことをしても1番低いと思っていた山の頂上まで、あと2時間はかかりそうな計算になる。

 休憩を終えて走り出そうとした時、作られたような階段を踏みしめて止まった。


(俺も階段を作ればいいじゃないか……焦ってそれどころじゃなかったな)


 走るために倒した上半身を戻し、右手に魔力を込め続ける。

 頭の中で頂上までたどり着くような階段をイメージしようとしたら、直線は厳しい。


(60度くらいの傾斜で作ろう)


 込めた魔力を解放して、何度か山の側面で折り返しながら頂上を目指す階段を大地の精霊へ作ってもらう。

 瞬く間に階段が出来上がり、俺はそれを全速力で駆ける。


(これで大幅短縮だ! 折り返しは天翔を使って速度を殺さない!)


 大地の精霊に頼んでから螺旋の階段を登るよりもはるかに早く上へ進むことができ、1時間もしないうちに階段の終わりが見えてきた。

 そこに到達した瞬間、再び青い画面が俺の前に現れる。


【山の試練達成】

 山の試練1を達成しました

 試練を終了することができます

 また、下に戻り別の試練を受けることもできます


《終了》 《継続》

《残り時間 21:49》


 画面上では終了したのは試練【1】と書かれており、最初に確認した時に山は全部で4つあった。

 時間をこれだけ残し、まだ試練があるような状況で終了したくはない。


(山の試練でも画面上には出ていないなにか隠された条件があるかもしれない……その可能性ができるだけ試練をこなそう)


 俺は少し迷ったが、継続のボタンを選択して変化が起こるのを待った。

 すると、目の前に境界が現れ、青い光が漏れ始める。


「これに……入るのか?」


 試練1の山の頂上に現れた境界に足を踏み入れたら、普通の境界と同じように青い光に包まれた。

 しかし、いつもと違うのは光に包まれたのは一瞬で、久しぶりに着地に失敗してしまった。


「ここは……初めの場所か……」


 しりもちをついてしまったお尻をさすりながら周りを見ると、山の試練の境界に突入した時と同じ場所に落とされている。

 最初と違うのは、2番目に低い山への入口だけが開いており、俺が入るのを待っているようだった。


(なるほど……こんな感じで4つの山を攻略していくのか)


 自分に治療を行い、魔力回復薬を使用して万全の状態で2つ目の洞窟へ進んだ。


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