異界と鍵⑥~異界の山へ~
先生と約束をした休日の朝、週明けにある補講に向けて夏さんの指導を受けている聖奈を置いて学校へ向かっている。
師匠やお姉ちゃんも平義先生と一緒なら異界に1日中入っても大丈夫だと納得をしてくれており、キング級ハンターへの信頼が厚かった。
(神格が足らなくて俺の鑑定じゃあステータスがわからないけど、A以上3つか、S以上2つあるってことだもんな)
今の俺のステータスは、知力がAでそれ以外がBなので、最低でも8万の貢献ポイントなければその条件を達成できない。
一番多くポイントを使用しているのが魔力なので、それに比べれば8万ポイントは少し能力を上げるのを我慢すれば貯まる。
(あれ? 意外とすぐなれそうだな……雨か)
ハンターランクの最上位に当たるキング級について考えながら学校へ向かっていると、雨が降り始めてくる。
早いものでもう6月の中旬で梅雨になっているため、カバンから傘を取り出した。
(雨で思い出したけど、俺も雷帝龍みたいに黄色い雨を降らせることができるのか?)
異界で偶然倒してしまった雷帝龍が行っていた雨による麻痺の状態異常攻撃。
濡れた地面にまで範囲が及ぶため、ゴム製品等で雷を遮断しなければ防ぐことができない。
(もう着いたけど、先生との約束まで時間があるからやってみよう)
立ち止まって濃い灰色の雲を見つめ、糸よりも細くした雷を上空へ伸ばし続ける。
しかし、雲に到達しても何の手ごたえも無く、雷を広げようとしても飛散してしまう。
(駄目だな……雷の雨を降らせそうにない……)
雷帝龍のように上手くできず、また試行錯誤をしてみようと部室へ向かった。
服についている雨を振り払い、折り畳み傘を入り口に立てかけてから部室へ入る。
「おはようございます」
部室にはハンタースーツを着込んだ平義先生がコーヒーを飲んでおり、挨拶を返してから俺の様子を見てきた。
「その下はハンタースーツか?」
「はい。上着を脱いだら異界へ行けます」
「荷物を置いてこ……お前には必要なかったな」
先生が言い直している最中に俺は自分の荷物や服をアイテムボックスへ収納していた。
早く異界へ行きたい気持ちが先走り、入口で立ち止まっていた俺を見て先生が鼻で笑う。
「もう行くか。ああ、豊留へ報告だけはしておけよ」
「わかりました」
今日突入する生徒は俺一人なので、豊留さんへの突入連絡は自分でしなければいけない。
豊留さんは観測室にほぼ常駐しているため、部室の奥にある扉をノックして返事を待つ。
「澄人か? わかっているから行っていいぞ」
「ありがとうございます!」
ドアノブへ手をかける前に豊留さんの返事が聞こえたので、お礼を言ってから扉を離れる。
普段は入った人が長々と異界の様子について説明されるこの時間も短縮され、異界へ滞在できる時間が増えて喜んでいたら、平義先生が持っていたコップを置いて立ち上がった。
「澄人、今回は豊留による事前調査が行われていないから、異界へ入ったらどうなっているのか不明だ。気を引き締めろよ」
「わかりました。門へ入ってからは常に帯電しておきます」
一日異界へ入るということで浮ついていた気持ちが先生の言葉で治まり、帯電の準備を行う。
何度も入ったとはいえ、これから向かう異界は未だに謎が多い場所だ。
(何が起こるかわからない……境界とは違った意味で怖いな)
洞窟には柵を作ってあるものの、ゲートに入った瞬間ユニークモンスターに遭遇するという可能性も0ではない。
また、調査をしていないということなので、モンスターが異界のゲートを潜ってこちらに来ている可能性もあり、門を出る時から注意が必要である。
「行くぞ」
先生は俺に一声かけると、背丈ほどある黒い剣を携えて部室を出て行く。
前に真さんが先生の戦っているところを看破で見た時、剣の親和性が【B】ということを言っていた。
(じいちゃんと同じ域まで剣を使いこなせるのに、どうして去年までハンター活動をせずに中学の先生だけをしていたんだろう?)
先生の後に続いて門を通り、察知のために雷を放出しながら異界のゲートへ向かい始める。
無言で歩き続けて10分ほどでゲートに着き、モンスターを察知しなかったことを報告した。
「そうか……異界ではどこへ行くんだ?」
「以前、副部長と捜査に向かった山へ行こうと思います」
先生は言葉少なく、わかったとだけ口にして異界のゲートへ入っていく。
先行してくれる先生に頭が下がりつつ、俺も青く渦巻いている異界のゲートへ足を進めた。
異界に入ってもモンスターの姿はなく、以前部活動で来た時よりもはるかに早い時間で山の麓に着くことができた。
俺がアイテムボックスにある山の鍵を選択しようとした時、異界内で初めて先生が口を開いた。
「俺もかなりの回数この異界へ来たが、何がお前を引き付けているのかわからん」
先生はじっとしている俺を見ながら腕を組み、首を左右に振っている。
確かに、なにもミッションや鍵について知らなかったら、この異界はただのモンスターと戦うだけの場所だ。
「大多数の人は魅力が分からないと思います。ただ、この異界は俺が強くなるために必要な場所なんです」
そう言いながら、アイテムボックス内にある山の鍵を選択し、以前は触れることのできなかった《使用》ボタンをタップした。
すると、銀色の光がアイテムボックスから飛び出し、青い線が宙を切り裂いて境界が発生する。
【山の鍵が使用されました】
山の試練が開始されます
鍵の使用者のみ入場できます
「澄人! 何をしたんだ!? 異界内で境界が発生したぞ!?」
「これが俺の求めていた異界の魅力です」
先生が驚きのあまり言葉を失い、俺の眼前に発生した境界を見つめている。
山の試練という境界へ進もうとしたら、驚いていた先生が俺の肩をつかんできた。
「待て、1人で行かせられるわけがないだろう。俺も行く」
俺を止めて境界へ進もうとする先生だったが、普通の境界とは違って線を通過してしまった。
何度入ろうとしても先生が境界へ入ることはなく、意味が分からないと呟いたまま呆然となる。
「先生、これは俺だけが入れる境界のようです。待っていていただけますか?」
「もう止めん……澄人、死ぬなよ」
その場へ崩れ落ちるように地面へ座った先生が片手を上げて俺を見送ってくれていた。
俺ははいとだけ返事をして、先生が何度も通り過ぎた境界に向けて進む。
【山の試練へ入場しました】
頂上を目指してください
残り時間に応じて報酬が変化します
《残り 23:59》
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