異界と鍵③~鍵の存在~

(やっぱり、これまで先送りにしていた【鍵】が気になる)


 異界ミッション③で課されている平原の鍵の探索や、∞スライムを倒したときの山の鍵。

 それに、5万ポイントで購入できる水の鍵のこともあり、鍵について本腰を入れる時なのかもしれない。


(じっくり調べたいから、休日1日異界へ入れてもらえるように平義先生へ頼んでみよう)


 明日も境界へ入るため、スキルの使用回数を増やそうと思いながら車に揺られながらホテルへ向かう。

 宿に着くとハンターっぽい人たちが多数来ており、受付でいくつかの集団がチェックインをしている。


(多いな……なにがあったんだ?)


 後ろに並んでいたら会話が聞こえてきて、荷物を置いたら境界へ突入のためにさっきまで俺たちがいた山林へ向かうらしい。

 会話を聞いていたら、ギルドの名前などが耳に入ってきたため、スマホで境界の競売画面を表示してみた。


(ここにいる人たちは、俺が見つけた境界を落札してくれた人たちなんだ……)


 心の中でありがとうと思いつつも、待っていてもなかなか列が進まない。

 俺の前に並んでいたお姉ちゃんが軽くため息を吐きながら俺へ荷物を渡してきた。


「長くかかりそうだから、あなたたちはあそこのソファーで休んでいなさい」


 お姉ちゃんがそう言って残ってくれたので、俺たち4人はソファーでくつろがせてもらう。

 ハンターの御用達なのか、中はきれいでロビーでもくつろげる空間になっており、真さんがまた寝そうになっている。


「真、もう少しで部屋に着くから、起きていてよ」

「……うん」


 聖奈が声をかけるものの、消え入りそうな声で返事をする真さんは今にも意識を失いそうだ。

 それを見かねた夏さんが読んでいた本を閉じて真さんへ目を向ける。


「あれ? 澄人くん? それに、聖奈さんと真?」


 寝かけていた真さんへ夏さんが声をかけようと口を開いた時、俺たちの名前を呼ぶ声が聞こえた。

 いち早く反応した聖奈が顔を上げると、嬉しそうな笑顔になっている。


「真友! もしかして、ここの境界に来たの?」

「ええ……水草ギルドでEランクの境界を買ったんだけど……また清澄ギルドが見つけたものなの?」


 真友さんが清澄ギルドと口にすると、周囲で談笑をしていた人たちがこちらの話を気にしているかのように会話が止めた。


「真友さん」


 夏さんがそれに気づき、真友さんを呼びながら自分の唇へ人差し指を当てる。

 はっとして口を閉じた真友さんが周りを見ると、ごまかすようにいくつかのグループが会話を再開させていた。


「まあ、ばれて困るようなことでもないんだけど、騒がれたくないから」


 微笑みながらそう言う夏さんは真友さんへ謝ってから、持っていた本へ視線を戻す。

 そんな中、真さんを放置していたら椅子にもたれかかって寝入ってしまい、起こすのも忍びないくらい安らかな表情をしていた。


「澄人くん、今日は真も境界に?」


 真さんを見ていたら小声で真友さんが俺に話しかけてくるので、うなずいてから同じような声の大きさを意識する。

 声を小さくしているせいで真友さんの顔が近くなり、なぜか聖奈がムッとこちらを見ていた。


「うん、4ヵ所も突入したから疲れたみたい」

「そんなっ!? ごめんなさい……」


 驚きのあまり大きな声を漏らして真友さんは、慌てて両手で口を塞いでから申し訳なさそうな顔をする。

 彼女の反応から、師匠が当たり前のように俺たちに課していた境界突入訓練が普通ではないことを察した。


「一日で4ヵ所も周って、よく無事だね」


 周りに聞こえないよう、さらに声を小さくした真友さんは心配そうに真さんの顔を見つめる。

 今、真さんと真友さんの苗字は【水守】で、2人が本当の従姉妹ということを知った。


(真さんの母親が水鏡に嫁いで、存命中・・・は子供同士の交友を深めていたらしい)


 聖奈から聞いた話なので詳しく聞かなかったが、今の母親になってから家に閉じ込められ、すべての人間関係を断ち切られたと言っていた。

 真さんにそんな仕打ちをしていた人こそ、境界帰りに俺がみぞおちを思いっきり殴ってしまった人だという。


(あれで怒られることはなく、逆にあの人たちへハンター協会から厳重注意が通告された)


 数日後、その報告と共に水鏡ギルドのギルドマスターから謝罪文が清澄ギルド宛に届き、犯行に加担した人たちを地方に飛ばし、首謀者である副マスターと真さんの母親を謹慎処分にしたと書かれていた。


 その騒動の傍ら、真さんが水鏡の姓を捨てるために動き、ギルドマスターである父親は特にそれを止めようとはしなかったようだ。


(学校でほとんどそんな様子を見せなかったけど、真さんは孤独だったんだよな……なんか親近感が湧く)


 俺もじいちゃんの遺品を見つけるまで家族というものさえいなかったので、家から切り離された孤独がわかる。


「お待たせ、やっとチェックインが終わったわよ」


 真友さんが嬉しそうに真さんの寝顔をながめていたら、お姉ちゃんが苦笑いを浮かべながら歩いている。

 その後ろに平義先生も歩いており、数枚のカードキーを持っていた。


「水守……真友、草地は先に部屋へ行ったから、お前も荷物を置いて10分後にここへ集合だ。境界へ行くぞ」

「わかりました」


 真友さんは俺と聖奈へまたねと声をかけてくれて、平義先生の持っていたカードキーを受け取り、エレベーターに乗り込んでいく。

 平義先生が真友さんを見送っていたので、異界へ入らせてもらえないか交渉するなら今しかないとふみ、話しかける。


「先生、休日に1日かけて異界へ入りたいんですけど、なにをすれば許可を出していただけますか?」

「澄人……お前……」


 先生が困ったような表情で俺を見た後、腰に手を当てながら深呼吸をした。

 そのまま何も言わずにため息をつきながら俺から背を向ける。


「再来週の中間試験で上位10名に入ったら考えてやる」


 去り際にそう言い放った先生の背中へ、発案してくれたことの感謝を込めて頭を下げた。

 入学してから心がけていた境界突入と勉学の両立ができているか確認をできる機会に、全力を注ぐことを決意する。


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