草凪澄人の影響力⑫~水鏡ギルドへの対応~
「今、ギルド間のトラブルを解決してくれる人のところに向かっているから、着いたら全員で話に行くわよ」
お姉ちゃんは軽快に車を走らせており、なぜか声を聞いていたらこの状況を楽しんでいるように感じる。
(なんであんなことがあったのに、お姉ちゃんは喜んでいるんだ?)
運転をするお姉ちゃんの様子がおかしいと思っているのは俺だけではなく、聖奈も不思議そうに前を見ていた。
「香さん、相手が水鏡だからあの件を要求するんですか?」
「そうね。やり取りは録音してあるし、上手くやれば要求が通ると思うわ」
「……ありがとうございます」
「いつかやろうと思っていたことが早まっただけよ。気にしないで」
2人の間で会話が成立しており、夏さんはお姉ちゃんの機嫌が良い理由を知っているようだ。
聖奈と目を合わせても、わからないと静かに首を振られたため、どう切り出せばいいのか悩み始める。
「そろそろ着くわよ。降りる準備しておいてね」
片道1時間かかった道のりを40分程度で街に着き、お姉ちゃんが車を駐車場へ入れていた。
「さあ、ここでさっきあったことを全部ぶちまけましょう!」
車が停止したと同時に、お姉ちゃんがシートベルトを乱暴に外してから車を降りる。
夏さんも仕方がないと言っており、聖奈はぽかんとした様子でフロントガラスの外を見ていた。
「2人とも早く降りなさい! 時間との勝負よ!?」
お姉ちゃんが外から手を振って、少しでも早く俺と聖奈へ車の外へ出るように言ってきた。
「聖奈、行こう……」
「うん……」
着いたのは師匠が住んでいる家で、中から光がこぼれているため在宅していると思われる。
お姉ちゃんは何度かインターホンを押し、返事が来るのをじっと待っていた。
「……こんな時間にどうしたんだ?」
しんどそうな師匠の声がインターホンから聞こえると、お姉ちゃんが少し屈みながら口を開き始める。
「師匠、お話があってまいりました。お時間よろしいですか?」
「ちょっと待っていろ」
「はい」
少し間が空いてから、誰かに向かって話をしているような声がした。
この家に師匠以外の誰かがいるのかと駐車場を見ても、俺たちが乗ってきた車しかない。
(誰だ? お姉ちゃんも難しそうな顔をしているし……)
師匠の声がインターホンから聞こえるのを待っていたら、咳ばらいが小さく響いた。
「大丈夫だ、入れ」
「ありがとうございます」
よしっとガッツポーズをするお姉ちゃんは、軽い足取りで師匠の家へ入っていく。
夏さんも続き、俺と聖奈も遅れないように師匠の無駄に大きな家へ足を踏み入れた。
(ここに来るのも久しぶりだな)
俺の家と同じような造りで、一階しかないが広い家に師匠は現在一人で住んでいる。
以前、小屋の家に住んでいる時、余っていると言われた食材をもらう際に来たことがあった。
お姉ちゃんは何度も来たことがあるのか、迷わずに進み続けている。
「失礼します」
立ち止まったお姉ちゃんが電気の付いている部屋のふすまの前で止まり、中へ声をかけていた。
「ああ」
師匠が返事をしてくれたのでお姉ちゃんがふすまを開けると、部屋へ入るのをためらってしまう。
「澄香か、こんな時間にどうしたんだ?」
中では師匠と平義先生がテーブルを囲んで食事をしており、お姉ちゃんは戸惑いながらも入室していく。
「平義さん……お久しぶりです」
2人は知り合いなのか、畳に座って軽く言葉を交わしている。
平義先生はお姉ちゃんへ声をかけてから後ろにいる俺たちへ視線を移した。
「清澄ギルドが勢ぞろいってことは、ハンター協会の会長へ直談判なのか?」
その言葉を聞いた師匠の表情が険しくなり、お姉ちゃんへ鋭い眼光を向ける。
「香、どうなんだ?」
「そうです。夏、ドライブレコーダーをここへ」
「はい」
夏さんが持っていたドライブレコーダーとテレビを繋ぐ作業を始めた。
「水鏡ギルドから脅迫まがいのことをされました」
「詳しく話せ」
その間、お姉ちゃんが境界から出てからのことを説明するようだ。
師匠と平義先生はお姉ちゃんの話に耳を傾け、時折呆れるように首を左右に振っていた。
「準備が終わりました」
「流してくれる?」
部屋にあったテレビに先ほど水鏡ギルドに囲まれてから起こったことが一部始終撮影されており、師匠と平義先生は一時たりとも目を離さない。
補足するようにお姉ちゃんのスマホで録音された会話を流し、説明を続けた。
「以上がことの顛末になります」
映像が止まると同時に、お姉ちゃんが説明を言い終わった。
「それで……清澄ギルドはハンター協会を通じて水鏡ギルドへどんな要求をするんだ?」
師匠は腕を組み、部屋の天井を見上げながら絞り出すように声を出している。
お姉ちゃんは元々決めていたのか、考える素振りもなく身を乗り出して答えようとしていた。
「こんなことをした水鏡ギルドが牛耳っている観測センターは信頼が置けません。【支部の機能】を要求します」
「支部……なるほどな……」
お姉ちゃんからの要求を聞き、師匠がテレビの横にいる夏さんを一瞬だけ見て、納得するように深く頷いている。
師匠から視線による合図を受けて平義先生はが立ち上がり、夏さんへ近づいた。
「その映像を交渉の材料に使いたい。いいか?」
「よろしくお願いします」
平義先生が作業している様子を見て、なぜ師匠と一緒にいるのか疑問を持つ。
ただ、今質問ができるような雰囲気ではないため、後でお姉ちゃんへ聞いてみることにする。
「澄人、澄香、今日は災難だったな」
すべての作業が終わった時、師匠が俺と夏さんを気遣うような声をかけてくれた。
「俺は何ともありません。どうか、よろしくお願いします」
「任せろ。まあ……十中八九要求は通るだろう……」
難しい顔をした師匠は正面に座り直した平義先生を見て苦笑いをする。
お姉ちゃんもよろしくお願いしますと言ってから部屋を出るので、俺も頭を下げる。
家を出てからお姉ちゃんへ話しかける。
「お姉ちゃん、どうして平義先生が師匠の家にいたのか分かる?」
「んー? 最近、ハンターに復帰して、協会の役員と会長の護衛に任命されたからよ」
数か月前までただの中学の先生だと思っていた人がそんな役職に就いているとは知らず、何が起こっているのか俺にはわからなかった。
「……平義先生ってそんなにすごい人だったの?」
「ブランクがあるけどキング級よ。重宝されているわ」
お姉ちゃんがそう言いながら運転席へ座るものの、師匠の家から家まではほとんど距離がないため、車に乗るのもはばかれる。
歩いて帰ると伝えると、夏さんや聖奈も俺と一緒に歩いてくれると言ってくれた。
「じゃあ、短い距離だけど気を付けてね」
お姉ちゃんが車を発進させ、窓から手を出して振っている。
歩いている時、夏さんは感慨深いものがあるのか、ようやくここまでくることができたと小さく呟いていた。
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