草凪澄人の影響力⑪~突入後の騒動~
「あんたたちどこのもんよ!? 誰の命令でこんなことをしているの!?」
お姉ちゃんがいつもの境界へ入った時の性格になり、スーツを着た男性を締め上げていたら、他の車から出てきた和服姿の中年男性を見て口角を釣り上げた。
「あら、水鏡ギルドの副ギルドマスターじゃないですか? これはあなたたちの仕業ですか?」
お姉ちゃんはつかんでいた人から手を放し、中年男性へ詰め寄る。
眼光を鋭くした中年男性は、車に乗っている俺に視線を移した。
「用があるのは草凪の倅と水上夏澄だ、大人しく出した方が身のためだぞ」
高圧的な態度で俺と夏さんの身柄を要求してくる相手に対し、お姉ちゃんは退くことなく殺気をはらんだ瞳で男性を睨む。
「大切な家族をはいどうぞって、落ち目のギルドへ渡すと思う? 今すぐにどかないと人生終わらせるわよ」
2人がにらみ合い、一触即発の雰囲気の中、水鏡ギルドと聞いて俺は何を話されるのか興味が出てしまった。
車を降りようとしたら、夏さんが不安そうに俺の腕をつかんでくる。
「澄人様だめです……行かないでください」
「話をしてくるだけですよ。夏さんはここにいてください」
俺を引きとめる夏さんの手を優しく放させ、ドアノブに手をかけたら聖奈が独り言のように呟き始める。
「我慢できて1日だろうなー、それ以上かかったらどうなるかわかんないなー」
そう口にしながら心配そうに俺を見る聖奈へ、ありがとうと言いながら頭を撫でた。
「そんなに待たせないよ。行ってくる」
「無事に帰ってきてよ」
車を降りて2人が睨み合っているところへ近づこうとしたら、お姉ちゃんが俺へ剣を向けた。
「澄人! 車の中で待っているように言ったわよね!?」
「そうだけど。これ以上相手が粘ったらお姉ちゃん、その人切っちゃうでしょ」
「こいつはそれを覚悟で来ているからいいのよ」
俺とお姉ちゃんの会話を聞いていた中年男性がフッと不敵に笑みを浮かべる。
「水鏡と戦争になったら損をするのはどっちかな?」
それを聞いた瞬間、お姉ちゃんの顔から覇気が消えて、相手をバカにしたような目を向けた。
「明らかにそっちでしょ? あんたたちが私たちになにをしてくれているの? まったく関係ないじゃない」
なんにもわかっていないのねと言いながら両手を空に向けながら首を振るお姉ちゃんを見て、中年男性が顔を真っ赤にして怒り始める。
「その言い方はなんだ!? 最近の若い者は年長者に対する尊敬がない!!」
それを半笑いで聞いていたお姉ちゃんは俺の背中に手を添えて、車へ戻ろうとしていた。
俺も水鏡ギルドに特別何かをしてもらった記憶がないので、この人がなんでこんなに突っかかってくるのか頭を悩ましてしまう。
「そういうことは、尊敬できるような人になってから言っていただけますか? 澄人、帰るわよ。この人なんにもわかっていないから、意味ないわ」
水鏡ギルドの中年男性になんだか拍子抜けしてしまい、疑問だけが胸に残るのも嫌なので質問をしてみた。
「……水鏡ギルドってそもそもどんな活動しているんですか?」
「そんなことも知らないのか!? これだから若造は……」
否定から入ると言う、人にものを教えるのが下手くそ先生の特徴を丸出しにしており、調べれば分かることなので話を聞く気が無くなった。
「あ、もういいです。失礼します」
「おい! 質問をしておいて、どういうことだ!?」
「教える気ありませんよね? ハンター協会に保存してある活動報告書を読むので結構です」
ギルドには活動報告書をハンター協会へ提出する義務があり、あまりにも提出状況が悪いと指導の対象になる。
それがあることを知っているので、今ここで面倒くさい人から話を聞くこともなく、どんな活動をしているのか知ることができる。
俺とお姉ちゃんが立ち去ろうとしたら、車から少ししわの目立つ和服の女性が出てきた。
「なんでそんなにてこずっているの!? 副ギルド長の肩書が泣いているわよ!! 」
現れるなり中年男性を叱る女性を尻目に、これ以上ここに居たら長くなると思い、車へ戻ろうとしたら強く肩をつかまれた。
「あんた、こっちへきなさい!!」
「正当防衛!!」
「ヴッ!?」
暴力には暴力で対応するために女性のみぞおちへ思いっきり拳を振り抜いた。
女性は地面へ崩れ落ちてから嘔吐してしまったので、今後こんなことが起こらないように注意をする。
「見ず知らずの相手へいきなりつかみかかっちゃいけませんよ。わかりましたか?」
俺が忠告をしても、女性が苦しそうにのた打ち回りながら意味が分からないという表情を浮かべていた。
中年男性は女性の背中をさすりながら、非常に焦った表情で俺を見てくる。
「お前!! なんてことを!!??」
「この人が先に手を出してきたんですよ? ああ、ここなら【境界からモンスターが出てしまったという事故】にすることもできますが?」
境界からこちらへモンスターを持ってくる手段はいくつかあり、一番手っ取り早いのが捕まえたままこちらへでるだけでいい。
「脅しているのか?」
「あなたがそう捉えるのならそうですね」
男性の表情から余裕が消え、頬を一筋の汗が流れている。
地面にうずくまる女性を見たら水鏡さんのお母さんに似ており、入学式で途中退出をした人だった。
(あ、この人が俺を出汁にして、師匠を理事長から解任しようとした人か……)
そう思うと足元で苦しそうにうずくまる人へ追い打ちをかけたくなってくる。
(今潰しておかないとまた邪魔されるだろうな)
本当にモンスターの仕業ということにしてここにいる全員を消した方が後のためじゃないかと考え始めた時、お姉ちゃんが俺の腕をにぎってこの場を離れた。
「澄人、行くわよ」
「あ……」
背後から待てと叫んでくるのをお構いなしに、お姉ちゃんと一緒に車へ戻り、後部座席に乗せられる。
運転席へ座ったお姉ちゃんはため息をついて、こちらへ身を乗り出してきた。
「澄人、いい? あんなやつらのために手を汚しちゃだめよ?」
「……なんでわかったの?」
お姉ちゃんが俺の思考を読んでおり、後数秒あれば精霊へ命令していたところだった。
唖然としている夏さんや聖奈をそっちのけで、お姉ちゃんが俺の眉間を指で軽く弾く。
「そんな目をしていれば誰だって気付くわ。あのおっさんも庇おうとしていたくらいよ」
笑顔を俺に向けて、運転席に座り直したお姉ちゃんはエンジンを始動させた。
発進する直前に、窓の外にいる人たちがこちらへ強いまなざしを向けているのが気になる。
「けど、あの人たち執拗に粘着してこない?」
「そうならないようにこれから行動するのよ。まずは帰るわ」
車がこの場を離れ、いつもよりも速いスピードで道を走っていた。
帰りながら夏さんや聖奈は俺が無事に帰ってきたことを安心しつつも、水鏡ギルドへ怒りを溜めこんでいるようだった。
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