草凪澄人の影響力⑩~草凪澄人が変える日常~

「時間になったので、これで終わりにしましょう」


 もう少しで山に着くというところで、三つ編みのおさげが特徴的な副部長が進行を止めた。


 副部長の持っているタイマーが鳴り響いており、今日はもう休憩後、戻らなくてはいけない。

 今日の進行速度は遅くなかったが、途中で何度かモンスターと戦いになってしまい、時間を取られた。


「副部長、みんなが休憩している間、俺だけ向かってもいいですか?」


 ほんの1キロくらいなので、すぐに帰ってくると付け加えると、副部長は渋い顔をして考える。


「うーん……10分以内に帰ってきてくれるならいいわ」


 周りの疲労度を確認してから、副部長が俺へ苦笑いをしながらタイマーを渡してくれた。

 ていねいに5分で時間をセットしてくれており、2回鳴る設定になっている。


「ありがとうございます。行ってきます」


 返事を聞くことなくその場から全力で走り始め、たまに宙を駆けながら山へ向かう。

 数分で山の麓に着き、何かないのか探そうとしたら、急に赤い画面が大きく表示された。


【山の鍵が使用できます】

 鍵を使用することで、山の試練へ挑戦できます

 ただし、鍵は使用すると消滅します


(ここで鍵を【使用】するのか……)


 鍵穴があるというわけではなく、この鍵は試練を行うための挑戦権ということらしい。

 山の試練の詳細についてはどこにも書かれていないので、入って確認をするしかなさそうだ。


(今は時間がないから挑戦しないけど、今度の休みの日に異界へ入れるように申請をしよう)


 タイマーが鳴って5分経ったことを知らせてくるので、踵を返して来た道を戻り始める。

 副部長たちと合流し、洞窟へ向かい始めた時、先頭を歩く俺へ誰かが近づいてきた。


「草凪くん、周辺にモンスターはいる?」


 薙刀を持っている副部長が周りを警戒しながら俺に話しかけてきた。

 目視に負ける俺の雷ではないので、副部長を安心させるように声をかける。


「今のところいないです。このまま何事もなく帰れそうですよ」

「よかった……入学して1ヵ月くらい経つけど、学校はどう?」


 ミステリー研究部の上級生の方たちは、俺が草凪の人間と知っていても普通に先輩として振る舞ってくれており、他の新入生と同じように接してくれている。

 今もこのように相談ごとがないか聞いてくれており、正直距離を取られると思っていたので、助かっていた。


 聖奈も外面はいいので、普通に話をしていると水守さんや水鏡さんから聞いている。


(ただ、天草先輩とだけは上手くいっていないみたいなんだよな)


 それを今日の帰り道で副部長へ聞いてみたところ、あの2人は仕方がないと諦められてしまった。

 無事に異界を出てからスマホを見ると、夏さんが校門に来ているという連絡がスマホに入っている。


(ありがたいけど、今日はずいぶん早いな……)


 まだ集合時間までには余裕があるため、制服に着替えてから校門へ向かう。

 更衣室で草地くんと合流し、校門に止まっている車の中に聖奈たち3人が待っていた。


 珍しいことに運転席にはお姉ちゃんが座っていて、窓を開けて笑顔でこちらへ手を振ってくる。


「澄人、部活お疲れ様」

「おね……ギルドマスターも来ていたんですね」


 横に草地くんがいるにもかかわらず、お姉ちゃんと呼んでしまいそうになった。

 俺も車に乗り込もうとしたら、境界の探索を依頼した人たちがこちらへ来ている。


(10名くらいか、大丈夫そうだな)


 車1台では無理そうなので、事前にハンター協会の運送サービスへ連絡をしてあり、時間ピッタリにマイクロバスが到着した。

 事前に目的を伝えてあるため、依頼人の人たちをバスへ誘導してからお姉ちゃんの車に乗り込む。


(もう回数をこなしてきたから慣れたもんだ)


 出発をしてから、1時間ほどで目的地の山林に着き、依頼人の誘導などは水守さんたちに任せて、俺は夏さんと一緒に先に探索へ向かう。

 ほんの数分で境界を見つけて危険度の測定を行うと、Dだったのでさっさと次を探す。


「低いランクの境界が見つかりませんね」

「EからCまで見つけちゃいましたね……どうしますか?」


 境界を5カ所見つけたものの、依頼であるFかGの境界はない。

 待たせているのもかわいそうなので、500ポイントを使用して【Gランクの訓練用境界】をアイテムショップで購入した。


「この境界を調べてもらってもいいですか?」

「急に都合良く現れましたけど、またポイントを使いました?」


 夏さんが呆れるように境界の危険度を計測してから、スマホで依頼人の人たちをここへ呼ぶ。

 草地くんたちが先導して境界に入るのを見届けてから、お姉ちゃんや夏さんの顔を見る。


「俺たちはどうする? Cランクの境界が2つあるから両方入る?」

「そうね、ちゃちゃっと済ませましょうか。夏、それ以外の境界は観測センターへ委託してくれる?」

「はーい」


 夏さんが境界センターへ連絡を行い、境界の突入申請と販売委託の話をしてくれた。

 その間に、水守さんのスマホへ境界探索が終わったらハンター協会の車に乗って帰ってもらうようにメッセージを送っておく。


(先に終わっていたんだ。まあ、こっちは2ヵ所だからな)


 2つのCランク境界にある貴金属を回収してから車に戻ると、依頼人と3人を乗せた車がいなくなっており、清澄ギルドの車だけが残されている。

 出発しようとした時、勢い良く数台の黒塗りの車が俺たちの車を囲む。


「はぁ……私が話を付けてくるから、みんなは待っていなさい」


 お姉ちゃんが黒塗りの車に乗っている人を見て、運転席から出て行った。

 相手が挑発をしてきているので、お姉ちゃんが剣を相手の車へ突き刺す。


「あんたたちいきなり現れて失礼ね!! 車から出てきなさい!!」


 お姉ちゃんがいくら叫んでも相手が車から出てこないため、剣を思い切り振り払う。

 そんなやり取りを見ていた聖奈が口を開けたまま小さく首を左右に振る。


「お兄ちゃん、こういう時の香さんって過激だよね」

「ハンターって他の人からなめられちゃダメって言っていたから、そのせいかもしれないよ」


 聖奈がエンジンを横一線に切られた車を見ながら驚くように言っており、切られた車に乗っていた相手が慌てて外で出ていた。

 お姉ちゃんはそのうちの1人の胸ぐらをつかみ上げ、激しく揺らして情報を吐かせようとしている。


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