草凪聖奈の入部理由~私の心情~
「部活内恋愛は禁止ですよね?」
私は異界からの帰り道に必ず聞こうと思っていたことを平義先生へ質問をした。
平義先生は目を点にして私を見つめ、数秒後、我に返ったかのようにゆっくりとうなずく。
「ああ……そうだ……それに、生徒手帳を読んだかと思うが、総合学科の生徒は恋愛禁止だ」
「わかりました。ありがとうございます」
横目でお兄ちゃんのことを狙っていると思われる天草先輩を見る。
(なっ!?)
天草先輩はそんなことをまるで気にしていないように私を見ながら微笑んでいた。
禁止と言われて笑う意味が分からず、動揺した私はとっさにお兄ちゃんの腕をつかむ。
「他にはないようだな。では、解散」
先生が再び監視所へ向かい、生徒だけが残されると、上級生が私の前に一列で並ぶ。
その中から、部長と思われる眼鏡をかけた短髪の男子生徒が数歩前に出てきた。
「草凪聖奈さん、敵を引き付けてくれてありがとう」
境界では慎重すぎて進むペースを遅くしていた人が頭を下げている。
その人が頭を下げると同時に他の上級生も謝り始めた。
「気にしないでください。あの状況で最適な判断をしただけです」
お兄ちゃんの腕から手を離さないまま返事をして、私も助けられたことのお礼を改めて行う。
「お兄ちゃん、助けてくれてありがとう」
「どういたしまして……どうした?」
直接言うのは恥ずかしいので、嬉しさが少しでも伝わるように、不思議そうに私へ顔を向けるお兄ちゃんの腕を胸に抱き寄せた。
「なんでもないよ」
その後、上級生から必ず入部してほしいと言われ、部活動見学の時間が終わったので帰ることになった。
制服に着替えるために更衣室へ入ろうとしたら、お兄ちゃんが苦笑いで私を見てくる。
「聖奈、そろそろ離してほしいんだけど……いいかな?」
「ご、ごめん!!」
ここまでの道中、腕を抱えたまま歩いていたことに気付かず、恥ずかしくなってお兄ちゃんと距離を取る。
お兄ちゃんも恥ずかしそうに顔を赤く染め、頬を指でかいていた。
「じゃ、じゃあ着替えが終わったらここで待ち合わせにしようか」
「う、うん……」
何とも言えない空気のまま更衣室の前で分かれ、女子生徒用の更衣室へ入った。
「聖奈さん、どうしたの?」
「えっ!? えーっと……」
お兄ちゃんと話をするのに夢中で、なんてことをしていたんだと頭を抱えていたら、先に着替えていた真が心配そうに私の傍へ来てくれた。
「澄人くんと腕を組んで歩いていたなんて言えないわよね」
ただ、なんて説明すればいいのかわからず、黙っていたら制服姿の天草先輩が明るい声で話しかけてくる。
言葉を返そうとしたら、天草先輩が腕時計を見て更衣室から出ようとしていた。
「じゃあね。私はバイトがあるから先に帰るわ」
「お疲れ様でした」
天草先輩も負傷した真由や真を治療してくれたので、邪険にすることはできない。
ただ、ハンターでありながら普通にハンバーガー屋さんでアルバイトをしている意味がわからなかった。
(支援系のハンターなら、高校生のバイト代くらい1日で稼げそうだけど……)
支援の腕もあの階級なら悪くなく、治療を行えるので境界に突入する時には重宝されるはずだ。
よく考えれば、お兄ちゃんのことを狙っている理由もわからず、本当にそうなのかさえ本人から聞いていない。
(私の勘違いって可能性もある? それだったら、今日の行動は……)
よくわからない思考のループにはまり、答えが出ないままうつむいていたら、額に強烈な痛みを感じた。
「いった!?」
「聖奈さん、私のことを無視しています?」
真がむっとした表情で私の顔をのぞき込んできており、デコピンをされたようだった。
心配してくれていた真へ謝り、外で待たせているお兄ちゃんのことを思い出す。
(ヤバイ! お兄ちゃんを待たせちゃっている!!)
急いで着替えを終わらせて廊下へ出ると、お兄ちゃんと天草先輩が楽しそうに話をしていた。
私の顔を見た天草先輩は、一瞬だけ挑戦的な笑顔を向けてきた。
「【妹さん】が来たから、私は失礼するね」
「帰り道、気を付けてください」
「ありがとう、澄人くんも気を付けてね」
妹という部分を強調してお兄ちゃんへ話しかけていたが、私が待たせた時間を天草先輩がフォローしてくれる形になっていたので、何も言えない。
そのまま天草先輩が立ち去り、お兄ちゃんも帰るために校舎を出ようとしている。
「じゃあ、聖奈帰ろうか」
「……うん」
校舎から出て校門へ向かう間、Aクラス以外の生徒がきつそうな顔をしながら帰っており、会話の内容が聞こえてきた。
「あの部活、急に競技場へ集めて、仮入部前に対人戦2時間とか頭おかしいんじゃねぇの!? 入部させる気ないだろ!」
線の細い男子生徒が愚痴をこぼしており、ミステリー研究部のことを話しているようだった。
私たちAクラスの生徒だけ本入部の試験を行っていたことが知られると騒がれるので、周りに人がいない時にお兄ちゃんへ話を振る。
「お兄ちゃんはミステリー研究部へ入部するの?」
「ああ、そうするよ。部活動で週に2回も異界へ入れるのなら、ミッションがはかどりそうだからね」
「そっか……」
お兄ちゃんは普通のハンターとは違って、ミッションを達成することで強くなれる。
境界さえも生み出すことができる能力で、今では香さんと同等以上の力を有していた。
そんなお兄ちゃんに置いて行かれないように、私も鍛錬や境界攻略を行っているが、成長速度が間に合わない。
(これ以上成長速度を上げられたら追い付かなくなる! 私はお兄ちゃんと一緒に居たいだけなのに!)
私の幼少期から抱いている存在意義を思い出し、香さんや夏さん、師匠にもっと稽古をつけてもらうことにする。
そのために、私も異界へ少しでも多く入りたいので、ミステリー研究部へ入部することを決めた。
「聖奈はどうするんだ?」
お兄ちゃんが黙ってしまった私を不安そうに見てくれており、胸に抱いていた不安が軽くなった。
「私もお兄ちゃんと同じだよ」
笑顔でそう答え、家まで徒歩5分の道のりをゆっくりと歩いて帰る。
家へ着く直前にお兄ちゃんのスマホが鳴り、誰かからメッセ―ジが来たようだった。
「香さん?」
「ううん。天草先輩、聖奈を待っている時に連絡先を交換したんだ」
「えっ!?」
いつのまにか天草先輩の連絡先がお兄ちゃんのスマホに入っていたが、原因が私なので怒りの矛先が自分へ向かう。
(確実に天草先輩はお兄ちゃんを狙ってる! 阻止しないと!)
私はこれ以上天草先輩へ隙を与えないように気を引き締める。
どうしてこんなに気に入らないんだろうと思ったが、理由は寝るまで分かることはなかった。
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